第35話

 幼馴染君と旅行が決まったしばらくしたある日。

 「へぇ、ここが夕ちゃんの家か」

 たまたま、コンビニ行ったところ大森さんに会ってしまった。

 「何でついてきたんですか?」

 大森さんは勝手に家に着いてきた。

 「いいじゃないか。夕ちゃんとは個人的に話してみたいと思っていたのだよ」

 「私は話すことはないです」

 大森さんは、けらけら笑った。

 やっぱりこの人のことが苦手だし、幼馴染君を奪い去ってしまう可能性のある危険人物だ。

 「お邪魔します」

 「勝手に上がらないでください」

 大森さんが勝手に入ってきそうになって私が必死に止めていると、家にいたお父さんが顔を出した。

 「どうかしたのか?」

 「あ、お父さん?こんにちは、私夕ちゃんの友達の大森です」

 大森さんはお父さんに駆け寄って取り込む。

 「おお、夕の友達かいらっしゃい。まあ、上がってよ」 

 お父さんは意図も簡単に取り込まれ。

 「ちょっとお父さん」

 私が止めようとしたときには大森さんは家に入っていた。

 お父さんは、単純でいつものお母さんに怒られている。

 「大森さん、私に部屋に行こうか」

 このままでは、リビングに入ろうとしていたので私は慌てて止めた。

 すると、大森さんはニヒルに笑いこちらをみた。

 「そうだね」

 やはりこの人が苦手だ。


 部屋に入ると、大森さんは部屋をじろじろと見渡した。

 「可愛い部屋だね」

 「あまり見ないでください」

 「おっと、ごめんね」

 私は、適当に座るように促すとベットに腰掛けた。

 「で、なんのようですか?」

 「いや、幼馴染君のことだよ。なにか、勘違いしてるようだからね」

 勘違い。きっと、この間一緒にいたことだろう。

 それはもう、解決している。いまさら、話すことはない。

 「それはもう解決しているんでいいです」

 「それか」

 そう言うと大森さんは考えるそぶりをして。

 「じゃあ、恋愛相談しよじゃないか」

 「いいです」

 私は即答してドアを開けた。

 「じゃあ、要はないですね」

 「ちょっと、帰らそうとしないで。話くらいきいてよ」

 大森さんは帰ろうとしない。

 「聞くけど夕ちゃん、今までに彼氏とか出来たことある?ないでしょ?」

 「うっ」

 図星だった。

 今までに彼氏どころか、幼馴染君以外の男の子と遊びに行ったことがない。

 「図星だね。私はそういう相談されるから的確なアドバイス出来ると思うけどな」

 確かに、今幼馴染君との距離の詰め方を考えていた。ここで、恋愛について詳しい人にアドバイスを聞けたら大きく前進出来るかもしれない。

 「ちょっとは話する気なったかい?」

 この人は苦手だが、こんな相談できるのはこの人しかいない。

 「ちょっと…だけなら」

 「そうこなくちゃ」


 「で、幼馴染君とはどこまで行っているのかな?」

 私は勉強机の椅子に座り、大森さんに向かい合うように座った。

 「どこまでって、その…」

 改まって話すとなると恥ずかしい。

 「ほらほら、ちゃんといいな。お姉さんが何でも答えてあげるよ」

 「その。関係の進め方がわからないんです」

 「ほう」

 大森さんは、話を聞く体勢になる。

 「今までは、幼馴染として接していたから。どうするれば、女の子として見てもらうには」

 ちらっと大森さんの方を見ると考えているようだ。

 「それはね。夕ちゃん」

 「はい」

 私も姿勢を改めてしまう。

 「やはり大事なのは、ボディタッチだよ」

 「ボディタッチ」

 つい、オウム返ししてしまう。

 「そう、男ってもんは単純なのよ」

 大森さんは熱弁を始める。

 「いくら、女に興味内です。みたいなやつでも、ちょっとこれを、ぶつけてやるのよ」

 とって、大森さんは胸に手を当てた。

 「ななな、なに言ってるんですか」

 私は顔を赤くして、大きい声が出てしまった。

 「なにって、幼馴染君とはいえ男なんだよ」

 大森さんは両手をヒラヒラと振り言う。

 「武器は最大限使わないとね」

 武器。と言っても私のは一般的見れば小さい方で、武器になるとは思えない。

 それに、今更そんなあからさまな作戦は恥ずかしくもある。

 「決めるのは夕ちゃんだよ」

 大森さんは立ち上がり、本棚を見る。

 私はそっと胸に手を当てる。

 「お、これは、女子高生日常日記」

 本棚を見ていた大森さんが声を上げた。

 「ちょっと、勝手に見ないでください」

 「なかなかいいセンスしてるね」

 大森さんが取ったマンガを取り上げる。

 「おっと」

 「これは幼馴染君に貰った漫画です」

 ちゃんと続巻も買い、全てクリアブックカバーをかけている。

 「さすが幼馴染君。いいセンスしてるな」

 大森さんは感心したように頷く。

 「もう少し、恋バナしたいけどお茶会の準備しないと」

 そう言って、大森さんは部屋のドア前に立ち。

 「武器使ってみな」

 そう言い残し大森さんは部屋を出た。

 「武器」

 私はまたオウムのように言葉を繰り返した。

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