第34話
昔一度夕の退院祝いで、僕と母さん、夕とおばさんで少し遠出したことがあった。
何で今まで忘れていたのか、わからないけどその時もこんな暑い夏の日の夏祭りだった気がする。
遠くからは祭囃子の音が聞こえて、僕らは暗い祭りの提灯が少し入ってくるような小道で二人隠れて何かをしていた気がする。
旅行の日当日。
僕はボストンバックを傍らに靴を履いていた。
「忘れ物はない?」
「うん。大丈夫」
母さんは心配なのか、後ろについてソワソワしていた。
「しっかり、夕ちゃんと二人で楽しんでね」
「うん」
僕は立ち上がり家を出た。
まず夕の家に夕を迎えに行き、そこから駅まで行き旅館のあるところまで向う。
今は朝7時半。
ランドセルを背負った小学生とすれ違う。
少し重いバックを持って、早足で夕の家に向かった。
家に着きインターホンを押すのと同時にドアが開いた。
「わあ!!」
いきなり開くと思ってなく僕は尻餅をついてしまう。
「ご、ごめん。そんな驚くと思ってなくて」
夕は慌てて手を差し出す。夕はこの間買ったワンピースを着ていて、今日はめがねに黒髪といった学校スタイルだった。
「なあ、言ったろ。だからそこで待つなって言ったのに」
音を聞きつけてか、リビングからおばさんが顔を出した。
「ほんとゴメン。怪我してない?」
僕は立ち上がり、ぽんぽんとズボンに付いた土を落とす。
玄関に目を向けると、ボストンバッグが置いてあった。おばさんの口ぶり的に、夕はここで待ってたみたいだ。
「大丈夫だよ」
僕は笑って見せた。夕は安心したように笑った。
「よかった」
「もう、いけそう?」
「うん」
夕は、置いてあったボストンバッグを持った。もう、準備万端ようだ。
「じゃあ、行こうか」
「いってらしゃい」
おばさんの声だけ聞こえた。
「いってきます」
夕も返事だけ返した。
夕の体力を考えて、駅まではバスで向かうことにした。夕は歩けると言ったが、向こうについても少し歩かなければいけない。と伝えたら渋々受け入れた。
駅に着き、改札に入る前に。
「時間あるよね?」
「うん。あと、十分くらい」
じゃあ、バッグを僕に預け財布を持ってコンビニ翔っていった。
水でも買いに行ったのだと、待っている小さめのビニール袋を持って戻ってきた。
「エコバッグ忘れちゃった」
夕ははにかむように笑った。
「いっぱい買ったね」
「うん。電車で食べようかなって」
夕は無邪気に笑った。
電車に乗って、だいたい二時間ぐらいだ。
袋にはたくさんお菓子が入っていた。
お昼は適当に済ませようとしていたから、お菓子を食べてもいいだろう。
夕は本当に楽しそうに笑っていた。
夕はいつも修学旅行は不参加だった。
それは、単にサボっているのではく病気のせいだ。
小学校は四年の頃に復帰して、六年の修学旅行は不参加。
その頃はまだ頻繁に病院に通っていたからしかなのかもしれない。
そのときは、僕も仮病で修学旅行を休んだ。修学旅行なんかより夕と遊ぶ方が楽しかったからだ。まあ、仮病がばれて母さんには怒られたけど。そのときから、夕は僕の中心になっていたのかもしれない。
中学の頃は何でか知らないけど、修学旅行に夕の姿はなかった。
なので今回が、僕が知る限り同い年との旅行は初めてなはずだ。
そのせいか、駅に着いてから興奮が押さえ切れていなかった。
そわそわした様子で電車を待つ。学校の姿でこんな姿を見るの初めてだ。
僕の部屋にいるときもこんな感じなるとこもあるが、そのときは休日の姿だ。
「楽しそうだね」
そう言うと、夕は恥ずかしそうにぴたっとぷらぷらしていた足を止めた。
「う、うん」
少しほほを赤くした。
「子供ぽっいかな?」
「いや、かわ…。楽しそうでいいと思う」
思わず思っていることを、そのまま言いそうになった。
「そう?」
でも。と言って夕は足をぴしっと揃えて、地面に着けた。
「あま、かわいいって思ってくれたならいいかな」
夕はいたずらに笑い、僕は手で顔を押さえた。
そうこうしていると電車が来た。
いくら平日電車、まだ制服を着た学生で溢れていた。それでも運良く二人並んで座ることができた。
しばらく電車で揺られ、大きな駅に着くと大半の人は降り随分と空いた。
「人減ったね」
夕がポツリと呟く。
「うん。やっぱりあそこで、みんな降りるんだよ」
「そっか」
消え入りそうな声で呟くと、夕の手と僕の手が重なった。さっきまでは満員で詰め詰めだったが今も夕の肩がピッタリ僕の肩に当っている。
僕は慌てて手を引こうとするが、捕まってしまった。
「少ないからね」
夕は恥ずかしそうに笑う。
夕は最近おかしい気がする。
やけに距離が近い。
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