第32話
母さんは時々突拍子のないことをいうことがある。そして今回もその一つだと思う。
右手に何かのチケットを握りしめている。
「これの夕ちゃんたちにプレゼントするわ」
少しどや顔気に夕にのチケットを渡す。
「何ですかこれ?温泉旅行券?」
「そう。夏休み二人で行ってきたら」
母さんはニコニコした様子で言う。夕はチラッとおばさんの顔を確認する。
「好きにしろ」
と、だけ言ってソファーに座った。
「翔子なんか飲み物」
「って言ってるから、あとは二人で話してどこ行くか決めてね」
夕は、ぱあっと顔を明るくして頷いた。
「ありがとうございます」
僕らは、一回僕の部屋に行き計画を練ることにした。今日は、家でご飯をたでていくらしくギリギリまで場所を調べることができる。
「旅館がここだって」
夕はスマホで旅館の名前を調べると、昔ながらの造りの建物が出てきた。評価は高く人気な旅館らしい。
場所はここから、電車で2時間ほどの場所だ。
「ご飯美味しそうだね」
「うん。近くに神社とかもあるらしいよ」
夕はそう言いながら、写真を送ってくれた。
少し大きそうな神社で、恋愛成就の神様を祀っているらしい。
「いいね。そこも行こうか」
「うん」
夕は満面の笑み頷く。鼻歌交じりに調べている、よほど楽しみなんだろう。
夕の期待を壊さないためにも、しっかり調べて楽しんでもらわければ。
そうこうしていると、あっという間に夏休みを迎えようとしていた。僕らの通っている学校は7月1日に夏休みを迎え他校より少し早い。
旅行は他校が夏休みに入る前に7月8日に、行くことにした。そしたら少し空いているだろうと考えたからだ。終業式が終わり、僕は呉と二人で帰りにファストフード店に行っていた。
「へぇ~、じゃあ委員長と二人で旅行に行くんだ」
「え?僕、ゆ、長手って言ったけ?」
旅行について相談しようと、夕の名を伏せながら話していたが呉はそう言った。
「委員長以外にお前と、仲良い人っていなかったよな。だからだよ。で」
呉は、ぴんっとポテトをこちら向け。
「告るのか?」
「え?」
突拍子もない事を言う呉のせいで、手に持っていたドリンクを落としてしまった。
「ちょ、なにしてんの」
「ごめん。だって、呉が変なこと言うから」
幸い中身がこぼれることはなく、一大事になることはなかった。
「変なことなんて言ってないだろ。男女が二人で旅行なんだろ。それに、お前好きなんだろ?委員長のこと」
「うっ」
図星だった。
正直、夕のことは好きで。多分付き合いたいと思っている。でも、夕はそうは思っていなくて、ただの幼馴染だと思っているはずだ。
「告白はしないよ。第一僕なんかじゃ長手に釣り合わないし」
僕がそう言うと、呉はバシッと僕の頭を叩く。
「そんな事言うな、委員長はそんな事思ってないと思うぞ」
「なんで?」
「それは」
呉は何かを言いかけて。
「自分で考えろよ」
また、頭を叩く。
「え、なんで」
今日の呉は少しピリついている。
「まあ、一回旅行行く前に誘ってみろよ。なんか、わかるかもしれんぞ」
呉はストローを咥え言う。
「そうかな」
旅行の準備のために買い物に誘う。それは、僕にとってハードルが高かった。
それは、断られたときを考えて尻込みしてしまうからだ。
「じゃあ、俺帰るから。この後大森さんに呼び出されてるだよ」
大森さんとは、たまにやり取りをしている。
大森さんに呼び出されるとは、なかなか大変そうだ
「うん。じゃあまたね」
僕は一人自分で注文した、ポテトを口に運びながら夕のことを考えた。
今、ラインを開き夕に買い物に付き合ってと言うと、どうなるのだろうか。来てくれるだろうか。
嫌な顔せず来てくれるかもしれない。
氷が溶け薄くなった、オレンジジュースを飲む。
断られたらどうしようか、もしこのことで、旅行が中止になったら。『もし』が頭の中を埋め尽くし、伸ばしかけた手を引っ込める。
ズズズッと、オレンジジュースを飲み干し、頭を冷やし思考を落ち着かせる。
「やっぱ、やめとこ」
完全に自身がなかった。
すると、頭に衝撃がはしった。何かに叩かれたような。それとほぼ同時に。
「なんでよ。誘ってよ」
俺は、声の主の方を見ると制服姿の夕が立っていた。
「ゆ、夕?なんでここに」
夕は、僕の座っている席とは離れた席を指差した。そこには、僕らと同じ制服を着た女子生徒がいた。その何人かは見覚えがあった。確か夕とよく一緒にいる子だった気がする。
「私を買い物に誘いたいんでしょ?」
まさか聞かれているとは思わず、恥ずかしくなる。
「とにかく、誘って。今日中だからね」
「ま、待って。それってもう、誘わなくていいじゃ」
もはや、半分了承しているよなものな気がする。
「今日中。わかった」
夕は睨みを効かせて、僕は頷いた。
「じゃあ、楽しみしてるから」
夕は最後笑い、グループに戻っていた。
その、笑顔は楽しそうな笑顔で会話に参加していた。僕は、いオレンジジュースを飲もうとしたが、もう入っていなかった。
その夜。
「まだかな」
私は、幼馴染君からのラインを待っていた。時刻はもう時期今日が終わりそうになっている。
家に帰ってからずっとスマホを持っていたがまだ、幼馴染君からのラインは一通もない。
誘われないのか。
そう、不安が積もる。
少し強引すぎたか。
諦めて寝ようと、電気を消し充電器にスマホを差した時バイブ機能が発動した。
私は慌ててスマホの画面を食い入るように見た。
『明後日、一緒に買い物に行かない?』
私は、ベットの上で足をバタバタを動かし緩みきった頬を触って少し恥ずかしくなる。ただ、この一つのラインを待っているだけで一喜一憂する私の単純さに。しかし、そんなことはすぐにどうでも良くなるほど嬉しかった。
少し返信内容を考え、でも遅くならないように。
『遅い、明日予定立てるから』
クマが怒っているスタンプと共に返信した。
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