特別編 翔子と朝日の買い物
遡ること、数時間前。
「二人で買い物って、随分と久しぶりじゃない?」
「そうだったか?」
テンションが高い翔子とは反対に、あくびをしながら隣を歩く朝日。
「今日は何を買いに来たんだ?」
「それはね。もうすぐ、あの子達夏休みでしょ?だから」
すると、翔子は得意げに笑いショルダーバッグから一枚のチラシを朝日に渡す。
「抽選会の予告チラシか?」
「そう」
それは、いま来ている商店街のチラシ。内容は対象店舗で五百円の買い物で一枚貰える半券五枚で、一回抽選に参加できるといったものだった。対象店舗は八百屋だったり喫茶店だったりと、商店街のシンボルキャラクターの幟がある店が対象らしい。
商品は商店街で使える商品券だったり、流行りの電化製品だったり。地味に嬉しいものばかり。
「で、どの商品が欲しいんだ。商品券か?」
「違うわよ。これよこれよ」
朝日が意識的に、思考から外していた賞。
特賞のペア温泉旅行チケットだった。
それを見た、朝日は顔を引きずる。
「おまえ、これほんとに当たると思ってるのか」
「もちろん」
翔子は純粋な眼で朝日を見つめると、得意げに胸をぽんと叩き。
「私運はいいから任せて」
言ってみせた。
朝日は呆れながらも「そうかい」と、言う。
「じゃあ、まず喫茶店に行ってお茶しましょう」
翔子は朝日の腕を引っ張り、早足で喫茶店に向かった。
「いらしゃいませ、って翔子さん」
古風な佇まい店に入ると、暗いブラウンの長い髪を後ろでまとめたポニーテールの女性が翔子の名前を呼んだ。
ここは、翔子がよく訪れる場所で外見通りの落ち着いた感じの店内。そこに、元気のいい看板娘の
「それと、朝日さんですよね?」
桜は朝日の顔を見ると、考える素振りもなく笑顔で言った。
「あ、ああ。そう」
朝日は、翔子に連れられ2回ほどしか来ていないが桜に名前を覚えられていて目を点にする。
桜は、屈託のない笑顔で。
「名前覚えるのは得意ですので」
といった。
「翔子さん、いつものでいいですか?」
「ううん。今日はアイスコーヒーと苺のかき氷を貰えるかしら。朝日ちゃんは?」
「じゃあ私はアイスコーヒーで」
「わかりました、お好きな席にお座りください」
翔子たちは、カウンター席についた。
しばらく待つと注文した商品が来た。
「アイスコーヒーお二つと、苺のかき氷です」
商品はそれぞれの前に置かれた。
「今日はマドレーヌじゃないんですね」
桜は、不思議そうに翔子に尋ねる。
「ええ、今日はこれをしに来たのよ」
翔子は再び、自信満々にチラシを桜に見せる。桜は、チラシに目を通すと、ああ、と声を上げ。
「ガラポンですか。それとなにか関係あるんですか?」
「それは、かき氷のほうが値段が高いからね」
「おいおい、そんなこと店員の前で言うなよ」
「いいですよ。でも」
桜は顎に人差し指を当て。
「うちのかき氷対象商品じゃないですよ」
その言葉に、翔子は氷のように固まった。
「そんなのか」
朝日がとう、桜がチラシの右下の方を指さし。
「ほらここに、うちはコーヒー一杯につき一枚って」
「ほんとだ」
翔子はまだ固まっていて、朝日が反応する。
「これでも色々揉めたんですよ、飲食店だとすぐに溜まってしまうって。それで、その店の売りの商品につき一枚ってことになって」
桜はため息をつきながら、愚痴をこぼす。
「まあ、うちの場合ブレンドは一杯四百五十円なんで少しお得ですよ」
なんて笑いながら言った。
翔子は、よほどショックだったのかまだ固まっている。
それを見かねた朝日がやれやれと、肩を揺らし名前を呼ぶ。
「翔子、しょーうーこ」
「っは」
そうしてやっと、目を覚ました。
しかしまだ、少し放心状態だ。
すると、朝日が翔子の手に持ったスプーンを取り上げ、かき氷を次々に口に突っ込む。口に入れられたかき氷を、飲み込んでいると十数口目で。
「頭がーー」
頭を抱えて、悶絶した。
朝日は、ため息をつき。
「ほら、目覚めたろ」
「ちょっと乱暴すぎない?」
「そうしないと、起きなかっただろ。で、どうするよ諦めるか?」
翔子の心は半分くらい折れかかったが、諦めるなんて言葉は辞書にはなかった。
翔子は、朝日の方を見て。
「諦めないわよ」
「だと思った。じゃあ、適当にぶらつきながら集めるか」
朝日が言うと、桜が思い出したように。
「お肉屋さんがオススメですよ。ちょっと良いお肉が入ったって、上機嫌でしたよ」
桜が、マップを指さし言った。
「五回分集まったな」
「そうね」
あのあと、夜ご飯の食材を買っていると五回分集まった。
「ここからが勝負よ」
「ぱっぱとやって帰ろうぜ」
息巻く翔子を横目に、疲れ切った様子の朝日。翔子は、軽い足取りで会場に向かった。
「では、五回お回しください」
会場につき、係の人に半券を渡しガラポンの前に立つ。
会場には、ガラポンが四つ設置されていて、翔子の前にあるガラポンに必ずしも特賞が入っている保証はどこにもない。
しかし、翔子は少しの緊張も見せず自信満々に取っ手に手をかけ一呼吸して回す。
「一回目は白ですね」
「なあ、大丈夫か翔子」
白を出しても、朝日は声を出したが翔子は表情を変えることがない。
二回目三回目も白から続き、焦りを見せるは朝日ばかりで余裕そうな翔子。
「落ち着いて、朝日ちゃん。まだよ」
四回目やはり出るのは白ばかり。
翔子はもう一度、大きく呼吸をし大きく回す。
ガラガラ、かしゃ。
一球皿に落ちると、係の人が置いてあったベルを大きく振り。
「おめでとうございます。出ました特賞です」
しばらく、場は騒然とした。
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