第31話
日曜日から2週間がたった。
大森さんとは、ラインで少しやり取りこそするのもの特に会って話すとかはない。
夕との関係も、少しずつ前のように戻りつつあった。
これを後退と捉えるか進捗と捉えるかは人それぞれだと思うが僕は進捗だと思っている。
しかし、このまま昔のように幼馴染の関係に戻ってしまっては意味がないので、何かしらのアクションを起こさなければいけない。
だが、どうして良いのか全くわからずにいた。
「ここ間違ってる」
「え、あ、ほんとだ」
今日は、定期テストが近いのもあり夕と二人で勉強会だ。
勉強会は僕の部屋で行われていた。
初めはリビングのテーブルでやろうと提案したが、夕が人の話を聞かず僕の部屋に行き。いつぞやの勉強会のように小さな僕の勉強机に二人ぎゅうぎゅうになりながら始まった。
金髪のウィッグを今日はサイドテールに、青のTシャツと白のスウェットと涼しさを感じさせる。
その近さも相まってか、柔軟剤のような甘い香りが夕が動くたびに鼻をかすめる。
その度、僕の心臓の音がうるさく、早く主張する。
黙っていると、シャーペンが紙を走る音とお互いの息遣い、それ以上の僕の心臓の音が部屋に満ちるよう気がして、聞かれていないか心配になる。
意識していないと息を止めてしまいそうな、前とは違う感情が溢れそうになる。
僕は、そんな雑念を振り払うように目の前の数式に全神経を集中させる。
集中して勉強をしていると気がつけば、3時になっていた。
勉強を始めたのが11時だったので、もう4時間近く勉強をしていた。
僕は集中力が途切れたが、流石というべきか夕はまだ集中が途切れることがない。
「休憩する?」
僕が少し机との距離を開けると、夕はシャーペンを机に転がし伸びをしながらこちらを見る。
「そうだね。なんか、食べ物とか持ってくるよ」
「うん、ありがとう」
僕は立ち上がり、一階に降りる。
リビング行くと母の姿はなく、机の上には皿に載ったクッキーと置き手紙があった。
『朝日ちゃんとお買い物に行ってきます。
クッキーは夕ちゃんと食べてね』
手紙を読み、クッキーとお茶を持って部屋に戻った。
「おまたせ」
部屋に戻ると、夕は僕のベットでダラッと転がっていた。
「おー、それはおばさんのクッキー!」
起き上がり、早速一つパクっと口に入れた。
「おばさんいた?」
「いなかったよ。なんかあった?」
小さな台を出し、そこにクッキーを置く。
「いや、今日お母さんがおばさんと買い物に行くって言ってたからさ」
「知ってたんだ」
「まあね」
また、クッキーを口に入れる。
「結構、勉強できたね」
「うん。夕はまだ余裕そう」
全く疲れを見せない夕に関心する。
「まあね、勉強好きだし、それに。」
「それに?」
何やら口ごもって、こちらに目だけを向けて。
「君と一緒だし」
顔を紅くし、誤魔化すようにお茶を一気に飲む。
「ほら、あれ。一人でやるよりさ、やる気出るみたいな」
「あー、確かにそうかも」
僕も顔が熱くなるのを感じて、すかさずお茶を飲む。
夕は最近、こういったことをぼそっと口にする。
その後の空気はたいてい決まって、こんなふうな少し気まずい感じなる。
こんなの言われたら、勘違いしてしまうのが普通ではないだろうか。
「続き、しよっか」
「う、うん」
夕の提案に乗っかり、僕らはまた勉強に戻った。
この空気も集中のするのに妨げているように感じる。実際、さっきまでピンと座っていた夕がそわそわしている。
自分で言っといて、と思ったが呑み込み目の前の数式に集中した。
夕方になり、母さんが夕のお母さんを連れて帰ってきた。
一応、二人で帰ってると連絡があったので夕の例の姿は見られることはなかった。
「ただいま」
いいことがあったのか、弾むような声リビングに入った母さんは僕らの顔を見ると、ふっふっふ。と笑い。
「ジャーン」
と、声を上げ、なにかのチケットを見せた。
「なんですかこれ?」
夕が食いつくと、自慢げに言う。
「ガラガラで当てました」
そのチケットの正体を高らかに。
「ペア温泉旅行券」
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