第23話

 すがる夕に、僕は口を閉ざすことしかできないでいた。

 夕はうるうるとさせた目で、こちらを見る。

 「なんで、何も言わないの」

 そう言うとぴちゃぴちゃと、水滴が落ちる音がした。

 僕は声を殺して泣く夕の背中に手を回そうとしたとき。

 夕は僕をぽんっと押すように、一歩後ろに下がって顔を上げて笑った。


 「なんてね」

 ぱっと両手を広げる。

 明るそうな顔は、薄暗くてよく見えない。

 だが、嘘をついているように見えた。

 「冗談。泣いたのもぜーんぶ演技だから」

 夕は少し笑う。

 僕は呆気に取られ何も言うことができないでいた。

 「じゃあ、寝るから。おやすみなさい」

 夕は勝手に話を進める。

 どいて。

 と言った、夕の言う通り僕は塞いでいたドアから離れる。

 このままでいいのだろうか。

 また、幼馴染を泣かせて。

 そのままで。

 今、手を伸ばすと届く位置に夕がいる。

 少し勇気を出したら、夕はもう泣くことはないのかもしれない。

 でも、怖い。

 誰に言われたわけでもないが、自分で自分を押し潰してしまいそうになる。

 それが同仕様もなく、怖い。


 不安なの。


 夕はそういった。その言葉の本意は僕にはわからないが、夕は確かにそういった。

 それに、特別になりたいとも。


 「え?なに?」

 僕は咄嗟に夕の手を掴んでいた。

 廊下の光が入り、夕の顔が確かに見える。

 目元を真っ赤にした顔は今は、目を点にさせている。


 正直、なんて声をかけていいかわからない。

 この感情に整理がついたわけではい。

 憧れと嫉妬、恐怖に不安。それと、恋心。

 色んな感情が心グチャグチャにして、頭をパニックにさせる。

 ただ、一つ言えないことが沢山あっても訂正しておきたいことがあった。

 「と・・・」

 喉を絞る。

 パニックな頭をフルに動かす。

 

 「特別だから」


 「え?なんて?」

 「だから、夕はずっと特別だから」

 思ったより声が出た。

 もしかしたら、下にいる母さんにも聞こえているかもしれない。でも、今は気にしない。

 「そこだけは、勘違いしないで。ずっと夕は特別で・・・・」

 ここに来て言葉が詰まった。

 あと一言出せば、このわだかまりがなくなる気がした。

 「幼馴染以上だから」

 心臓がうるさい。

 眼の前が真っ白になって、さっきシャワー浴びたばっかのはずなのに背中に薄っすらと汗を感じた。

 「あ・・え・・そう」

 夕は振り向くことなく、手を振り払う。

 思っていた反応と違い内心焦るが、こんなもんだろう。

 告白とまでいかなくても、それに近しいものだと思って言ったつもりだ。

 きっとそれは、夕も感じてるだろう。なのにこの反応ということは、遠回しにフラレたということだ。

 初めから夕は異性として僕を見ていないのは知っていたでも、やはり、心は黒く染め上がった。

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