第22話
初めは距離を開けるつもりはなかった。
そこにあったのは、ただの劣等感。
退院したての頃は同じところを歩いている思ったら、今は数十歩先を歩いている。
凡人と才に恵まれた人間の差。
僕毎日数時間勉強して、80点取れるテストも、夕はたった1日の1〜2時間の勉強で100点を取ってくる。
僕の数十時間は夕の1時間でしかない。
そんなふうに思ったら、もう隣を歩く自信がなくなった。
お互い成り行きでそうなったと、思うようにして。
中学1年のとき初めてクラスが別になった。
どこか安心してた、自分がいた。
でも噂は別クラスの僕の耳にまで届いた。
夕はすぐに、クラスに溶け込み中心人物になって。
それに対して、僕は新しいクラスで友達なんてできなかった。
それでも話しかけれくれる人もいた。しかし、本当の目的は僕ではなく夕だった。
「ねえ?聞いてる?」
僕らは夕が退院して一緒に登下校するようになっていた。
この日も例外じゃなかった。
「え?なに?」
「だから、今日さ3組の佐藤君告られたんだけど」
夕は恥ずかしそう横目でこちらを見ながら、髪をいじる。
いっそ付き合ってくれたら、もう関わることは少なくなり僕この醜い感情もなくなると思った。
「付き合えば」
「え?」
自分でも気づかないうちに、言葉が出ていた。
僕も驚いて口を抑えた。だが、それ以上に夕は目を見開く。
「な、なんで?」
「いや、別に・・・・ただ、佐藤君イケメンだし頭いいし」
怖くて夕の方を見れない。
今は、自分のことしか考えれなかった。
「その・・・お似合いかなって」
僕は頭をかき、夕の方にやっとの気持ちで目を向けて驚いた。
「うぐっ・・・な、なんで・・・そんなこと言うの」
顔をぐちゃぐちゃにして大粒の涙を流していた。
あまり見ない表情に僕は目を見開く。
夕は僕に見られないように顔を背け、一生懸命拭いている。
意識してなかったとはいえ、悪いことをしたと思い謝ろうとした時。
「さ、先帰って」
夕の大きな声に僕は肩をはねさせる。
声を殺して泣く夕に、僕の頭では何の言葉をかけていいか分からなかった。
ただ、黙ってその場を去った。
実際、夕の隣を歩くにはそれなりのスペックを持ち合わせた人じゃないと苦しいだろう。
どうしても優秀な幼馴染を持つと、自分をすり減らしてでも追いつきたいと思い努力した。
でも、努力は必ずしも実るわけではなく。僕は実る前に疲れ果ててしまった。
やはり自分は凡人だと思い知った。
そこからだ。
夕は僕に駆け寄ろうとするのを避け。
あえて、仲の良かった呉と行動を共にするようになった。
だが、そんなことを言えるわけもない。
そんなの口が裂けても言えるわけがない。
なぜならそれは夕には関係のないことだから。
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