第21話

 その日開放してくれたのは、夕が寝落ちしたからだった。

 時刻は深夜。

 夕はスースーと寝息を立てている。

 今日はベットは使えなさそうだ。


 僕はシャワーを浴びに下に降りると、まだリビングに電気がついていた。

 それに、テレビの音もした。

 時間的に母さんは寝ているはずなので、消し忘れだと思いリビングに入るとソファーでテレビを見る母さんがいた。

 「あら、まだ起きてたの?」

 「母さんこそ」

 僕は、冷蔵庫からお茶を取る。

 「お父さんが、まだ帰ってきてないの」

 父さんは仕事が忙しくて遅くなるときがある。

 母さんはその度に父さんの帰りを待つ。

 母さんいわく、温かいご飯を食べさせてあげたいらしい。

 「そうだ、今日夕ちゃんの様子がおかしかったけど何か知ってる」

 知っている。でも知らないふりをする。

 「どんなふうに?」

 「え~っとね」

 母さんは顎にした差し指を当て考える。

 「ずっと、心ここにあらず。みたいな、ボーッとしてたり」

 「ホームシックかもよ」

 適当に言う。

 母さんは少し唸り、そうかもね〜。返事をした。


 僕は、シャワーを浴びながらそっと胸に手を当てる。

 さっきまで感じていた温もりが、シャワーを浴びてる今でさえ鮮明に思い出せる。

 でも、それではない。

 気持ちの方だ。

 さっき確かに、僕は夕に幼馴染以上の感情を覚えた。

 思い出せば、そっと胸が暖かくなり無性に夕を愛おしく思えてしまう。

 きっと僕は夕のことをになって、しまったのだとわかった。

 でも、これは実らない恋だとわかっている。

 夕は学校でも人気者だ。

 地味だという生徒もいるがそれは少数で、好意を寄せている生徒も多い。

 そんな夕に、なんの個性もない僕がお眼鏡にかなうとは思えない。

 だから、この気持ちが届かなくてもいい。

 下手に告白して、今の関係が壊れるほうがよほど怖い。

 昔、告白しないより、したほうが後悔しないなんて書いていた漫画があった気がする。

 でも、その一歩が重い人間を知らないから言えることだ。

 夕は僕を異性だと思っていないだろう。

 実際に夕は僕を幼馴染と言った。

 だから、僕はこの気持ちに鍵をかけて。

 奥の見えないところに隠して。

 忘れることにした。


 部屋に戻ると、夕が起きていた。

 電気は豆電球だけつけて、薄暗くして。

 うっすら見える夕は、変に意識しているからか妙に色っぽい。

 「お、起きたんだ」

 夕は小さくうなずく。

 「じゃ、じゃあ僕寝るから自分の部屋戻ってくれる?」

 「いや」

 「え?」

 夕はやや食い気味、返事をして立ち上がった。

 薄暗いからか、短パンを履いてないように見える。

 夕は一歩、また一歩とこちらに近づく。

 僕はそれに連動するかのように、後退りをして。やがて背中にドアが当たった。

 「ちょ、ちょっと待った」

 夕は僕の声を聞かいない。

 夕はどんどん近づき、完全に体がみっちゃっくする。

 先程より薄い服を着ているから、より生々しい触感が胸に当たる。

 「ねえ?今日で最後だよ・・・・」

 股にするりと足を入れ込む。

 「もう、不安なの。やっぱり、私はただの幼馴染なの?君の特別になれない?」

 「・・・・」

 特別。

 いつだって、僕にとって夕は特別だ。

 出会ったその日から。

 夕は震えた声で続ける。

 「今日、行っちゃって不安だった。また、君と疎遠になっちゃうじゃないかって」

 「・・・・」

 「ねえ、教えて・・・・」


 どうして中学の頃に、私を避け始めたの?

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