第14話

 「夕ちゃん、いらっしゃい。入って入って」

 母さんは、来ることを知っていたかのように夕を家に招き入れた。

 「え?母さん来るの知ってたの?」

 「ええ。朝、言わなかったけ?朝日ちゃんと旦那さん出張でいないから、3日間預かることになったのよ」

 初耳のことを、母さんはスラスラと言った。

 僕は唖然としていると、夕が振り向き。

 「そう言うわけだから」

 と、言って家に入っていった。


 夕は、二階の空き部屋(僕の部屋の隣)で過ごすことになった。

 今思えば、昨日だったか母さんがノリノリで掃除をしていた気がする。

 部屋に戻り、制服を脱ぐ。

 隣の部屋から、人の気配がする。

 足音だったり、物音だったり。

 自分の部屋いるはずなのに、落ち着かない。

 今、隣の部屋で夕が着替えてるのか。

 一瞬その姿を想像してすぐ頭から追い払う。

 夕は、幼馴染だ。

 夕もそう言っていたじゃないか。

 幼馴染に、そんな邪な考えをするのはありえない。

 そう思い、僕はリビングに向かった。


 リビングに行くと、母さんが鼻歌交じりに夕飯の支度をしていた。

 「もうじき出来るから、夕ちゃん呼んできて」

 椅子に座ろうとしていたとこに、言われて僕は適当に返事をして夕の部屋に向かった。

 ノックをして。

 「夕ご飯だって」

 「え?あ、わかった」

 裏返った声で、返事をした。

 着替え中だったかも。

 急に声をかけたことを反省し、僕は一言かけてリビングに戻った。


 「お待たせしました」

 そう言って、夕はリビングに入ってきた。

 夕は長袖のパーカーを羽織って、下は長ズボンと暑そうな格好をしていた。

 「大丈夫よ、丁度今できたとこだから」

 ダイニングテーブルに、次々に運ばれる料理を見ながら立ち尽くしている夕を見て。

 「ここ座りなよ」

 僕の隣の椅子を、ポンポンと叩いた。

 「う、うん」

 夕は、ちょこんと、ソワソワしながら座った。

 何回も来たことがあるとはいえ、緊張しているみたいだ。

 「はいどうぞ。お父さんは遅いから、先に食べましょ」

 母さんは夕の前に座って、手を合わせて。

 「いただきます」

 「い、いただきます」

 夕も、母さんに続くように手を合わせて、食べ始めた。


 「美味しかったです」

 夕も慣れたのか、いつもの調子に戻ってきている。

 夕は、食器を洗い場にいる母さんに運び言った。

 「あら、ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」

 母さんは、食器を受け取り笑う。

 僕も、自分の使った食器を持っていく。

 「ごちそうさま」

 「はい、お粗末様でした」

 また、笑って食器を受けった。

 僕は、テレビをつけソファーに座ってスマホをいじる。

 すると、隣に夕が座った。

 「な、何見てるの?」

 「う?動画、一緒に見る?」

 夕は、コクリと頷く。

 「じゃあ、はい」

 僕は、片耳につけたワイレスイヤホン渡した。

 「あ、ありがとう」

 イヤホンをつけ、肩が触れ合うぐらいまで近づき一緒に動画を見る。

 横目で夕を見る。

 真剣に見ていると思ったら、どこか集中していな感じが見てわかった。

 まあ、そんな集中して見るような動画じゃないから、別にいいんだが。

 「あ、あのさ」

 「?何?」

 動画を見ていたと思ったら、急に声をかけてきた。

 「いや、その、今日、さ」

 端切れが悪い夕。

 夕の頬は赤く染まっている。

 僕は急かすことなく、夕が言うのを待った。

 「やっぱ、な、なんでもない」

 「え?なに?」

 僕は気になって、聞こうとしたとき皿を洗っていた母さんが。

 「夕ちゃん〜、お風呂沸いたから入っていいわよ」

 「は、はいー」

 夕は逃げるように、イヤホンを外して行ってしまった。

 僕は聞くことができず、モヤモヤとしていた。

 「何だったんだろう」

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