第10話

 9年前。

 「私、誕生日嫌い」

 長手は、看護師さんや担当の先生、両親にお祝いをしてもらい。

 その後、みんなが去ったあとベットで寝ながらそんなことを呟いた。

 腕には点滴の針を刺して、天井を見つめる。

 「なんで?誕生日いいじゃん、美味しいケーキも食べれるし、おもちゃも買ってもらえるし」

 僕は、長手のベットのそばに置いてあったイスに座り理由を聞く。

 「私は、こんなんだから。美味しいケーキなんて食べたことないし、おもちゃだって貰っても一日中ベットで遊ぶなんてできないし」

 退屈そうに呟く長手を見て、僕は可愛そうだと思った。

 だって、産まれてからことあるごとに病院に居るっていった。

 そして、同時にどうしたら長手が楽しく誕生日が過ごせるか考えた。

 でも、小学生の僕の頭のでは大したことは思いつかなかった。

 「まあ、別にいいけどさ。今年は君がいるからね。いつもは、一人だけど最近は君がいる」

 長手は、こちらを見て笑った。

 だから、いいの。

 だが、その顔は満足しているとは思えなかった。

 その時、僕は思い出した。

 「あ!そうだ、ちょっと待ってて」

 「え?」

 驚いた、長手を置いて僕は病室を出た。

 「どこいったの?」


 僕はナースステーションで、子供用の車椅子を(無断で) 借りて病室に急いで戻った。

 途中、怪我した右足が痛かったがそんなのは気にならなかった。


 「乗って」

 「え?どこ行くの?」

 長手は、目を見開き聞く。

 「ヒミツ」

 僕は、長手を乗せ出発した。

 点滴が抜けないように、慎重ににある場所まで運ぶ。

 が、ゆっくり行くと、どうしても看護師さん見つかってしまう。

 ので、遠回りでも人通りの少ない道を選ぶ。

 「ね、ねえ?どこ行くの?」

 長手は、すごく戸惑っていた。

 「大丈夫。楽しみにしてて」

 すると、長手も不安の色はなくなって、頷いた。

 「うん」


 だが、出口を目の前に看護師に捕まった。

 もちろん、めちゃくちゃ怒られ、親にも怒られた。

 今では、自分でも危険なことをしてると思う。

 もし、点滴が抜けてしまったら。

 もし、病状が悪化したら。

 そう思うと、大人たちがあんなに怒った理由もわかった。


 次の日、僕はまた長手の病室に行っていた。

 長手は、今日も点滴をしベットに座り本を読んでいた。

 「あ、あの昨日はごめん」

 「なんだ?そんなことはいいよ。目真っ赤。何泣いてたのか?」

 長手は、笑いながら言った。

 僕は恥ずかしくなり、目を隠す。

 「別にいいよ。私も楽しかったし」

 長手は、ぽんっと本を閉じた。

 「あ、これ、これ、あげる」

 僕は、一冊の漫画本を渡した。

 「漫画?」

 「そう。僕が好きな漫画。面白いよ、お詫び」

 「そっか、ありがとう。で、昨日はどこに連れてく気だったの?」

 「藤、藤の花がキレイに咲いていた場所がるんだ」

 長手は僕の言ったことを、自分の口でも言った。

 「そっか、じゃあ。来年期待していい?」

 僕は身を見開いて驚いた。

 もしかしたら、もう会いたくないと言われるかもしれない事をしたと思って、想像していた言葉と違うことを言われ。

 呆然としたが、でも直ぐに。

 「うん。来年だけじゃなくて再来年もその次も、ずっーーーと楽しみにしてて」

 僕は、笑顔でいった。

 長手も釣られたように、笑った。

 

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