第8話

 いつもなら、一人で楽しいことも今日は全然楽しくない。

 美味しいおやつも、可愛い服も、面白い映画も。

 全部全部、私の目に映るのはスピア色のつまらないのも。

 こんな、誕生日はいつぶりだろうか、それともあいつが私を避け始めた頃か。

 きっと、あいつに出会う前ぶりだろう。

 私を、こんな気持ちにしてあいつはどこ行ってるんだ。

 私は、一人ベンチに腰掛け空を見上げる。

 どこまでも、青い空は私を包むように見下ろして、でも私なんか興味なさそうに雲を動かす。

 なんて、ポエムちっくな言葉が浮かんで馬鹿らしくなる。

 帰ろう。

 今なら、まだ母さんは家にいないだろう。

 家に帰って、そして寝よう。

 今日は普通の日。

 なんにもない普通の日。


 少し歩き、ムーンバックスであいつを見つけた。

 「あいつ、ここにいたんだ」

 あいつは誰かと楽しそうに話している。

 角度的に、相手が見えない。

 「むっ。私と話してるより楽しそ」

 相手が気になり、身を隠しながらあいつに近づく。

 「今日はありがとう、愛香ちゃん」

 愛香ちゃん?

 声と同時に、姿が見えた。

 「ううん、いいよ」

 知らない女の子。

 私なんかよりずっと可愛くて。

 男の子が好きそうな、見た目な女の子。

 茶髪のボブに、私より胸がでかい。

 あいつは私の誕生日に、女の子とデートしてたんだ。

 そっか、そうだね。

 私なんかより、元気な娘といたほうがいいよね。

 あ~あ、あいつが空けた、穴を埋めれたと思ったのに。

 昔みたいに戻れたと思ったのに。

 もう、無理なんだ。

 せっかくあいつが好きな格好して、あいつが好きな服着ても。

 意味なんてなかったんだ。

 もう、やめよう。

 あいつに付きまとうの。

 きっと迷惑だ。

 キモいだけ。

 私は、ただの幼馴染。

 それ以下でも、それ以上でも無いんだから。



 「二人とも今日はありがとう」

 僕は、愛香ちゃんとその彼氏にお礼をいった。

 「いいよ。それに、このチケット貰ったし。ムーンバックスの奢って貰ったし」

 愛香ちゃんは、僕があげた猫カフェの割引チケットを掲げ笑った。

 「そうだよ。明日頑張って」

 彼氏さんは、僕の肩を叩く。

 「そうそう。幼馴染だと、なかなか関係が進みにくいからね」

 「え?ただの誕生日だよ?」

 僕がそう言うと、愛香ちゃん達はお互いを見てため息をついた。

 「告白はしないの?」

 そう聞かれ、僕は首を勢いよく振る。

 「無理無理。それは、身のほど知らずもいいとこだよ」

 「そうなの?」

 「うん。長手は、頭の良いし、しっかりしてるし。高嶺の花みたいな感じで」

 そうだ。

 僕は、ある時からそう思った。

 長手は僕は全然違うのだと。

 愛香ちゃんは、頬杖してぼやくように言った。

 「そうかな?だって、君の家に入り浸ってるんでしょ?気もない子。ましては、男の子家に行くとは思えないけど」

 「そうなのかな?」

 少し考えた。

 確かに、長手は僕の前だと結構、てか大分油断している感じはする。

 でも、それは幼馴染だからであって異性としてみていなからなのでは。

 すると、彼氏さんが。

 「お前はどう思ってるの?」

 「僕ですか?」

 愛香ちゃんも、興味津々の様子でこちらを見つめる。

 僕は、長手のことが好きなのか。

 長手は魅力的な女の子は確かだ。

 ギャルぽい格好してる時も、学校で学級委員長してる時も。

 そして、僕の前で見せてくれるの笑顔も全て魅力的で好きだ。

 でも、それが異性に抱くそれなのかは。

 「わかりません」

 「そっか」

 愛香ちゃんは、優しく微笑んでくれた。

 いつかは、考えなきゃいけないことかもしれない。

 お互い、良好な関係を続けるために。

 「それにしても、こどもの日が誕生日ってなんかいいよね」

 「え?誰の?」

 「え?」

 僕たちは、顔を合わせる。

 共通の知り合いに、こどもの日が誕生日の人はいなかったはずだ。

 すると、冷や汗をかいた彼氏さんが。

 「え?その、長手さんが明日誕生日なんだよな?」

 「え?はい。明日のみどりの日です」

 「今日だよ」

 彼氏さんが、そんなこと言った。

 「え?」

 頭がバグる。

 「今日が5月4日だけど」

 血の気が引いていく。

 慌てて、スマホをつけカレンダーを見る。

 スマホのカレンダーは、5月3日を指している。

 僕は、胸をなでおろす。

 「ほら、今日は5月3日ですよ。ビックリさせないでください」

 「今日は4日だよ」

 愛香ちゃんは、引きつった笑顔でスマホを見せる。

 確かに、愛香ちゃんのスマホは4日を指しっていた。

 僕は彼氏さんの方に顔を向ける。

 彼氏さんは、俯きながらスマホを見せる。

 「4日だ・・・」

 だから、長手朝引き留めようとしてたんだ。

 「すぐ帰れー」

 「は、はい」

 僕は、急いで長手の家に向かった。



 おまけ

「ちなみに、俺が誕生日忘れたらどうする?」

俺が聞くと、愛香はニコッとして。

「え?許さいないよ」

笑っているはずなのに、全く笑っていない。

何より怖い笑顔を俺は初めて見た。

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