第7話

 今日は大事な日です。

 なので、念入りに準備をしてあいつの家に行きます。

 え?今日がなんの日かって?

 それは、まだ秘密です。


 長手は家に来ては漫画を読んで夕方前には帰るといった生活が続いた。

 まあ、僕も流石に慣れてきた頃。

 「来たよ」

 長手はノックもせずに、部屋に入って来た。

 「ノックぐらいしてよ」

 「ああ、ごめんごめん」

 長手は適当に謝ると、いつも通り漫画を持ちベットに座った。

 でも、何かそわそわしている様子だ。

 「それと、今日は出かけるから」

 「え?なんで?」

 僕がそう告げると、長手は目を見開き驚いた。

 「なんでと言われても。休み入る前から約束してたし」

 そう、この外出は前から決まっていたのだ。

 そう、この日のために。

 「まあ、ここにいてもいいよ」

 「な、なんで?今日ぐらい・・・・・」

 「ごめんね。明日は一日遊ぼ」

 長手は何かを言いかけたが、何も言わずに

肩を落とし、俯いて。

 「いってらしゃい」

 と、だけ告げた。



 あいつが、私を置いて出掛けてしまった。

 流石に、付いて行くなんて言えなかった。

 私にそこまでの束縛力なんてないし、あいつも交友関係ぐらいあるだろう。

 私は、自分しかいないあいつの部屋を眺めてベットに倒れ込んだ。

 いつもより広く感じる部屋。

 静かな部活。

 寂しくて、冷たい部屋。

 「何してんだろう」

 なんだか、馬鹿らしなって私は部屋を出た。

 なにか勘違いしていた。

 昔にみたいに仲良くなったと思ったら、今日に限って出掛けてしまう。

 舞い上がっていたのかしれない。

 「あ!夕ちゃんもう帰るの?」

 おばさんがリビングから顔を出していた。

 「はい」

 私は、簡単に返事を返した。

 「じゃあ、これ」

 おばさんは、小包をくれた。

 「なんですか?」

 「なんですか?って、誕生日プレゼントよ」

 ああ。

 私が期待していたものだ。

 「若者が何が好き分からないから。ムーンバックスのチケット。良かったら飲んで頂戴」

 素直に嬉しいはずなのに、今はそんなだった。

 「ありがとうございます。じゃあ私は」

 私はあいつの家を出た。

 きっとあいつは昔の約束なんて、忘れているんだろう。

 なんか、虚しくなってきた。

 友達と出かければよかった。

 私は、適当に歩いた。

 まだ、家に帰る気にはなれなかった。


 私は、駅の方まで来ていた。

 早速おばさんから貰った、カードを使いに来た。

 モヤモヤしたときこそ、美味しいものを飲もう。

 駅の近くのストリートにある、ムーンバックスに入った。

 店内の席はいっぱいで、座れそうになかったのでテイクアウトにした。

 季節限定のストロベリーにチョコソースをトッピングしたものを注文した。

 店を出て、ベンチに座り一口飲む。

 ストロベリーの甘さが口いっぱいに広がり、チョコソースのほろ苦さを仲裁して程よい甘さだ。

 人気な組み合わせなのが、よくわかった。

 この格好で外に出ると、人の目をよく集めてる気がする。

 自意識過剰かもしれないが、実際男性にはジロジロ見られる。

 初めは気にしていたが、最近はそこまで気にならなくなっていた。

 嫌だけど。

 でも、今日はすごく気になった。

 お前たちに、見せるために着てるんじゃない、って。

 本当に見て欲しい人は、何も言ってくれないけど。

 そう思うと、イライラしてきた。

 なに、アイツのこと気にしてるんだろう。

 そうだよ、今日私の誕生日。

 記念日なんだから、あいつは忘れて好きな事しよう。

 欲しかった服を買って。

 観たかった映画を観て。

 そう、今日は記念日。

 私は・・・・・。

 私は、一人で・・・・・。

 楽しむんだ。

 

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