悪魔のコップ

イタチ

第1話

悪魔のコップ水入り


イタチコーポレーション


見たこともないほどきらきらと輝いた浄水場は

トイレさえも、それはそれは、絶品的な、輝きを見せ

到底土足ではいるような物はおろか

それを直視できる人間はこの世界にいることはないだろうと予想させるほどの、いびつな美しさを

その四方系のトイレの一室に、見いだすことが出来ている

私は、その何とも言えないような、光景を、ビデオカメラでとることに集中しすぎて

その場所が一体何で、どういう経緯でそこにいたのかを、すべてがすべて意味をなくす程までに、

とんと忘れすぎていた

背後に何が居て

私は今なぜここ居るのか

それすら忘れ、

カメラを回していた自分に、果たして意味はあるのか、私には到底理解の範囲外である


悪魔のコップ水入り


その光景は、到底理解をする範囲外であり

私の思考経路は、すべて遮断され

随脳だけが、満たされたプールか

いや、水洗トイレからあふれ出すように

私の思考を、押し流していく

それは一体何なのか

それは意味があるのか、いや、それの理由すら分からない

私はただ、その光景を前に

風前の灯火のように、揺れる浄水場を眺めて立ち尽くしている

誰も理解の追いつかない空想

それこそが、微生物の眠る海であった


第一章「めるかとるぐらすこの検証文 第二節 伏屋までの実験対象録より」



綺麗な場所は苦手だ、

私のふだんの生活から、かけ離れ

自分という無味無臭な

されど、それに、綺麗さを全くと言っていいほど

求めないそれは、入り口からして

まるで、断罪塔に、登るような面もちであり

特殊な装備をしないとしんでしまう

毒ガス期のようにさえ思えた

その蜘蛛の巣一つ 傷シミ一つ無いような

その店内は、

すべてが、整列されたように完璧に、考えを得たように、本から抜粋したようなそれは、

配置 配色 において、なにか黄金比のような物を

人間だけの視覚において、作られているに違いない

床にしても

赤い絨毯

そのしたには、白い物が、その縁だけ見せるように

おかれ

後は、木の床か大理石か分からないが

それが、中央と端で使い分けられているように見える

それが本当の材質はよく分からない

しかし、言ってしまえば、ホテルのような清潔感とでも言うべきなのだろうか以前テレビで見た、沖縄のホテルもにたようなものだが

それは、白を基調として

広々とすることに重きを置いたように見えたが

この場所は、オリエント急行殺人事件

でもおきそうな、なにか、重厚な

それも、空間を圧縮したような、されど、狭さは感じない中間を、よく考え抜かれ心得ているように見える

何十と並べられている

白く丸テーブルは、クロスが、どれも一律

同じようにかけられ

下を見ることは出来ない

窓の外は、車が通る

夜景を見ることが出来るが

まるで、その場所を、切り取ったかのように

この場所は、静粛に、満ちていて

静かに、食器のかすれる音と

静かな談笑

そして、BGMが、僅かに、邪魔にならないほどに流れている

空調も、行き届いているのか

外の雨の降りそうな

蒸し暑さとは、縁遠く

涼しく

そして、湿度もちょうどよく思える

案内されるままに

ふけ一つ無く

まるで、糊でも一時間おきに貼っているような

ぴしっとした、黒と白のウエイトレスが

そのわざとらしさのない

いや、綺麗にしていることに嫌み無く

そして、それは、一種のルールのような清潔な髪型をしていた

彼に案内され

わたしは、四十代後半と思われる彼に

そのまま、一つの席の前にいた

その場所は、少し歩けば、窓に近いが

それは席一つ分中央によって居る

絨毯は、廊下の赤から

何えにも重なった

複雑な落ち着いた織物がしかれており

一体このスペースすべてを、カバーするには、どの程度の大きさを、有するのか、考えるに及べ無い

席の前、すでに座って居るのは、この光景に、ふさわしい

まるで、写真からぬ来だしたような、何の違和感もない

怪しげな男だった

それは胡散臭いほどにこの場にとけ込んでおり

まるでマネキン人形のようであった

わたしは思うのである

また、ましても、わたしがこの場にいるのは、一つの事情が、存在していた

わたしが、朝六時おき夜五時終了の

工事現場から帰宅すると

郵便受けに、赤いカードが、入っており

そのこった形から、少なくとも、勧誘や、販売のチラシの類ではなく

少なくとも、地域の瓶集めでも回覧板も一度も入ってはいないが、その類では全くない

それは、赤い蝋というのであろうか

そんな映画かドラマの世界

もしくは本や、読書中で、見るくらいであり

実際には、そんな物が、少なくとも、自分はおろか

人生で一度も、現実の物として、実用ぶつとして使用されているのを、郵便受けに、はみ出しているのを

引っかかっているのを、よけながら出すまで

理解の範囲外であった

それは、量産されたカミではなく

しっかりとしているのが、質感から分かる

少なくとも光沢はない

わたしは、これをどうやって開けるのか知らないが

家に入りはさみで、横を、封を切ると

中には、赤い封筒と別に

黒い紙が三つ折りで入り

修正液でも書いたような

白いインクで、自記筆なのだろう

筆圧の分だけ紙がへこんでいる

この分だと、万年室を、ひっかくように、重く使ったのかも知れないが

その文字は、読み安く

万年筆特有の荒く読みにくい物ではなかった

つまり、万年筆ではなかったのかも知れない

広げ

畳の中で、電気の下で

立ったままわたしは、紙に目を通した

紙には

「こんにちは

今夜六月五日五時より

青地路通り34ー5 メルデスク31

に、おいで下さいませ

食事は、ごちそういたします。

黒井」

わたしは、封筒の中に、もう一つ

別の封筒を見つける

その厚みは、長方形であり

まるでメモ帳のようである

嫌な予感の中

開けると

その中には

青い紙に

白い帯があり

近所の商店街の五百円食事券が

百枚ほど入っていた

最後にカードで

、ご足労料です」

と書かれていたが、全く意味が分からない

わたしは、困惑の中

警察に届けようかと考えていると

玄関でチャイムが鳴る

この時間だと、新興宗教が、多い

居留守を使おうとも思ったが

ガラス戸から写る制服は、普段着ではなく

それは、青く

運搬業の制服に見え

わたしは、服を羽織ると

外に出た

ただでさえ暑い空気が、外部からも漏れ

外が夜に近づこうとしているにも関わらず

太陽の死後、地熱がまだその生命力を吐き出しているように、思われる

しかし、そんなことよりも

目の前の明らかに、運送業の方は

大きめの段ボール

と言ってもやけに、薄い

それを、差し出すと

お荷物ですと、元気の良い返事を、

こんな、夜も近いというのに

出している

わたしは、街灯をつけ

サインを書くと

下へと降りていくその制服を、見送り

そのまま、ガシャンと、壊れかけた

鈍いさびた、なにかを、閉めるように

戸を閉める

本当に、これは扉の意味をなしているのだろうか

トイレのドアノブのような

銀色の丸い

それは、白い錆が浮かび

ざらざらと表面を浮き上がらせている

室内には、大蛸の一夜干しのように

やけに平べったい段ボールが二つ

それは、まるで、わたしをぺしゃんこにしたら

ちょうどこのくらいにプレスされてしまうのではないかという

そのくらいの等身の大きさであり

カッターで

端を、慎重に切る

なにかこんなでっかい物を

買っただろうか

送り先は、blackHALLと、かかれており

どうやら、着衣のようである

宛先は、しっかりこのマンションいや、ぼろいアパートであり

わたしの名前も書かれている

何とか、端を切り終え

中の物を取り出すと

それは、下地に

段ボールを、一枚入れ

その上に、服が、止められ

さらに、大きな袋が、かぶせられていた

取り出したそれは、

黒一色のストライプに、下地が

いや、逆が、灰色なのだろうか

どちらにしても、

なかなか着ないような服が、一着

上着であろうか

そこまで、縞模様にも関わらず派手さはない

その中には、もう一着

白いtシャツがあり

見たこともないようなメーカーのマークが、襟元にプリントされているもう一つ

の段ボールも開けてみたが

そこには、同じようながらの

ズボンが一つ入っていた

その他に、ハンカチやネクタイも同封されており

それ以外に、着用方法が、ご丁寧にも、入っており

法事以外に着ないそれを見て、考える

何なのだろうか

良くない組織が、そこにいるのでは

わたしはそんなことを考えたが

蒸し暑いアパート

扇風機が、止まっている

それを動かせばいいが

六時半を、回っている僕は

テレビの中で、殺人事件の映像を切り

いやになって、それを着て

外に出ていた。


久々に、髭を切り

髪も切った

どちらも、近所の床屋であったが

その服装を、怪訝な目で見るが

それでも、それにあった物を、考えているのだろうか

いつもとは、明らかに違う物を、わたしは最後に鏡の前で見せられた

一応、そう言う客も来るのだろう

わたしは、店を出ると

時刻は、七時を過ぎている

約束の時間まで

歩いても三十分

バスを使えば、もう少し早いだろう

外は、だいぶ気温が、落ち着き始め

熱風から熱に、変化していた

風が起きない程度に

それは、温度の低下を、進めているのだろう

近所のスーパーを横目に歩く

一応 今から行くレストランの情報を調べた

それは、調べる前は、なにかよく分からないようにも思えたが

やはり、食べ物屋であった。

しかし、値段も高く

一食 10万を越すコースもざらにあり

わたしは、何かように、残している貯金を

天井裏から十一万ちょうどあり

それを、財布にあわせて12万ほど持ち

歩く

近所の食べ物屋が明るい

和気藹々として

冷房が利いた中で、暖かいもの冷たい飲み物を家族で食べたりしている

そんななか、わたしは、歩いている

それで足りるかどうか分からないし

第一、おごってくれると言うが

信用は出来ない

わたしは、歩きながら思う

何となく、雨っぽい空気が、鼻につく

雨が降るかも知れない

わたしは、ポプラ並木に紛れるように

紫の透明のプラスチックせいの屋根を、作る

バス停の前

一人 時刻表を見ながら

時計を、確認した

辺りは、土砂降りのように

水滴が落ちる

バスの影が

向こうから、徐々に近づいてくる姿が見えた

たぶんあれだろう

わたしは、バス停のぎりぎり

鼻先に雨が落ちる前に立ち

二三人の待合いの人の前に立ち

バスの到着を、今かとまった

わたしの他には、老婆と老人

老人は、スポーツの雑誌を持って呼んでおり

もう一人は、買い物だろうか

植物性のかごを持っている

後一人は、高校生らしい女性が、イヤホンをさし

何かを読んでいる

皆、座って各何かを考えたりしていたが

徐々に立ち上がり

先にいた順に

並び始めていたのである



夜の道は、雨でいよいよ視界が悪く

クーラーが、雨っぽい空気を、冷たく変え

バスの車内を、かき回している

天井の明かりは、暗く

されど、人の顔が見えないほどでは全くない

席に着くこともなく

吊革につかまり

窓の外を、ボーと眺めるが

それはいつもみた

大してどうでも良い光景であり

わたしは、それに対して、何か思うこともなく

興味もない

図書館やプール

そんな市の物や商売の施設がちらりと遠くの反対側斜線に見える

わたしは、頭の上から

肩に掛けて、被る

冷たい冷気で、体をひらしながら

時計をみる

そんな物を見なくても

直ぐ近くだ

目的の場所まで、歩いて、バス停から五分ほどだろう

その前には、コンビニもある

傘でも買っていけば、それほど濡れることもない

五分ほどで、目的地までつく

わたしは、果たして、ビニール傘を、預かってくれるのかと、そんな、心配しなくても大丈夫だと思うようなことを

考えながら

バスに揺られていた


切符を精算した後

わたしは、外にでたが

雨が降ったにも関わらず

それは、サウナ石に、水をかけるように

さらに湿度を得た

じっとりとした温度が、空気となり

肌や服に、まとわりつく

徐々に小雨になっていった

通り雨のようなゲリラ豪雨は

バスを、降りる直後には、雨粒を窓から消し

深黒の闇にぽつぽつと明かりを塗り垂らすような

状況へと変えている

120円を、落とし

わたしは、雨に濡れた

ニスでも塗ったようないつもより黒い道を歩きながら考える

これは、新手の勧誘だろうか

そうだとしたら

金目当ての新興宗教か

はたまた、販売勧誘か

わたしは、一応 仕事の同僚に

事の顛末を書き

メールを送信しておいた

やけに寝るのが早い男である

気づくのは明日の朝であろう

わたしは、遊歩道を、そのまま、歩き

三分ほどして

少し、おくに曲がった、道をみる

窓側の席からは

大きめなガラスが

車道に面して

先ほど歩いていた道からはみえ

明かりが、通っている

少し内側に向いた

扉は、白い壁の中

ぽっかりと空いた洞窟のように

少し入り組み

四角い、屋根の下に、三角の立て看板が

タイルの上に置かれ

中からは、料理のだろうか

良い香りが、漂うが

それは、安いものではなく

うまさに気品感じられる

ルールを覚えさせた

わたしは思案したが

中から、従業員っぽい男が、外にでようとしたので

仕方なく

踏ん切りを付け

胸ポケットから

赤い封筒を、取り出し

考える

「お客様、いらっしゃいませ ご予約はありますでしょうか」

わたしは、黒い紙を取り出し

「黒井さんは、来ていますでしょうか」

そのウェイトレスは、その日の予約をすべて覚えているのだろうか

軽く頭を、うつむかせ

「鈴木様でございますね

黒井様は、先にお見えになっております」

と言って、先導するように、店内のガラスの分厚い扉を、押し 店内へと案内した


「やあ、やあ、本日は、ご足労頂恐縮です」

目の前の男は、そう言って立ち上がると

席の方へと手をさしのべて座るようにと進める

わたしが動き出すのと同時に

ウェイトレスが、去るのが分かる

わたしが席に着くと

直ぐにグラスに水が運ばれてきた

そして「ご料理の方 お持ちして大丈夫でしょうか」

と、聞いてくるが

男が、すこし、手を止めて

「もう少し待ってくれ」

そう言うと、何も言わず

かしこまりましたと頭を下げて

彼は去っていく

「すいません、あなたがどなたか知りませんが

スーツは、使えません」

わたしは、葬式で着るような真っ黒なスーツを着ていた

どこかよれていて

この場所には似つかわしくはないだろう

「いえいえ、お気に召さないような物を、送った私の

落ち度です

引き取りましょう」

私は、手に持った紙袋を、男に渡すと

彼は、それを、手を挙げて

ウェイトレスに渡す

その後、さいどせきを進めて

座ることを、指示した

「再度、今宵はご足労いただき、ありがとうございます、実は・・」

私は、失礼かとも考えたが

もう一つ言わなければいけないことを彼に言う

「あの、失礼かと思いますが

私は、夕食をごちそうになるわけには」

男は、こちらを、何も考えていない

そんな笑みで見ながら

「大丈夫ですよ、もちろん私持ちです、

もちろんです、お客様に、わざわざご足労いただいた上に、お金を払わせるようなことは、ありませんよ

どうでしょう、一緒に食事でも」

私は、食事する意味も分からなかったし

それをして、この男に、

いや、何かの組織に意味はあるのだろうか

「それじゃあ」

私は、刺繍の細かいクリーム色の背もたれに

腰をかけ

木の椅子に腰をかける

男は、こちらを見て、その指を一つ上げると

口を開いてしゃべり始めた

この世の中に、理由なきものなど無い

それがあるとしたら

言葉に出来ないものだろう

私は、男の前で、話を聞いてみることにした

時刻は、八時を、半分ほど過ぎていた

「まず、あなたにご足労願ったのは、実は一つの話をする為なのです」

男は、そう言うと、目の前のグラスをなぜか、中央へ

そして私の前まで、寄せる

それは、透明の指紋一つのない綺麗なものであり

中には、グラスを半分に分断するように

透明の液体が、揺れて

波紋を、中央に集めていたが

次第にゆっくりと静まり

小さくなる

「あなたは、これをなんだと思いますか」

味なのだろうか

いや、手品か

余りつまらない意味で言うと

宗教の勧誘かも知れない

「さあ」

そう言う意味を込めて

首を傾げる

天井のシャンデリアの明かりが

グラスの中に映り反射して

白いクロスカバーに、写る

その中の透明な水の上には、鏡のように

明かりが、カテドラルクオーツのように、沈み込んでいるように見えもする

私は、何か、とりつかれたように、そんなレストランで、こんな事をしていた

不意に、我に返り

席に、片を付けて考えた

相手は、何かを待っているように、何も話さない

何を私から聞きたいのだろう

僕に聞きたいことなどあるのだろうか

これは一種の洗脳話だとでも言うのか

人は、同じ事を繰り返すことで

他のことを考えられなくなっていく

世の中にない物は、この世に存在しないと勘違いする

逆に、この世になくても、

いや、間違っていたとしても

この世の中にあれば、それが、危険だとしても、

さも簡単に進むことで

特に日本人は知られている

良く言うジョークに

沈没船で、犠牲になる人間を募らなければならず

そこで、船員が、各国の人種にこう言うのだ

アメリカ人なら「ここで死ねば英雄になれますよ」

ドイツ人なら「規則ですので」

日本人なら「皆様、死を選ばれております」と

一匹のネズミが、崖を飛び降りると

集団で、自殺する行動が、あるという

ある橋の上で、犬がなぜか良く自殺を選ぶという

じしにおいて、自然界には、様々な形がある

同じ卵でも羽化の時間のズレ

子供の成長スピード

それは、自然界に合わせた形の答えかも知れないが

今私は、何をしているのだろうか

これは、自然の摂理に符合した答えだとでも言うのだろうか

「分かりません」

私は、そう言おうとして止める

これでは、先ほどと同じだ

いや、答えを否定することで、一つの答えへと先導するのが目的かも知れない

しかし、そこまでして導く答えはどこだろうか

それは、安いチェーン店ではなく

高級な店に連れて行くだけの理由があるのか

相手は、数十万のディナーを私におごる

理由は

相手の懐事情にも寄るかも知れないし

趣味思考は、分からない

これが、趣味なら意味はあまりないし

これが仕事なら悪意も正義に変わることは容易い

私は、コップを眺める

揺らめくように

ガラスの中で光が揺れる

地震だろうか

いや、水が揺れているわけではない

明かりが

いや、いくら高級店だからと言って

蝋燭やランプに油を使うとも思えない

たぶん電気だろう

もしも、雰囲気作りだとしても

私は、頭を上げ

すこし、席を立つが

それは良く見る

明かりを蝋燭の形へと変化させたものであるが

しかしながら、揺らめくようなものではなく

上品なきらめきを、部屋に、充満させて輝かせている

私は、妙な男ではあるが

この場違いな場所で、直ぐに目立つことを避け

席に着いた

「何か分かりましたか」

頬杖をついてこちらを見ている男は

まるで、悪巧みで人類滅亡をたくらむ

知者猫のようにも感じられた

私は、悪魔と対峙しているのではないか

いやいや、そんな物はいるわけがない

いたとしても、どうせ人間が、と言う落ちが、だいたいにおいてつく

細菌ウイルス寄生虫その他自然災害飢餓あれど

しかし、獣に対する

弱者の食べられる恐怖など

もはや、相手を怒らせない限り

余り見受けられない

犬や猫が、人を食う事例があれど

好んで襲うなど聞いたことはない

野生の獣であれば

狼や熊などが、あげられるし

憎悪を抱けば

動物だって、人を襲う対象にはあるだろう

しかし、目の前の男は、私に何を求めている

そんな折りに、私は、ガラスの中に目を落としたが

やはり何かが動いている気がする

私は、それを何か確かめようと

良く探る

コップの外面に

ウェイトレスの黒い背広が向こうへと歩く姿

向こうの客の食事の風景

私は、そんな中に、やけに黒い何かをみた

それは、出目金のように黒く

されど、コメットのように細かった

まるで、針金虫に、手足を付けて

服を着せたような

それは、始め、何が写ったのか、私は、疑問に思った

しかし、それは、外部の映像ではなく

内部 つまり

水の中に、何かが存在しているように

私には写ってしまった

これは、店側の混入だろうか

それとも、私が余りに長いこと見ている物だから

男が、好きを見て、何かを入れたのかも知れない

手品という物はそう言うものだ

自分は見ていると信じていても

そんな物は、認識の範囲内だ

人間のしかいなど、どうとでも広い

詐欺師は、詐欺を知らない物がかかるのと同じで

それをやる理由が浮かばなければ

それは、それをやる方法を理解できない

相手がもし、この水を私に飲ませたいのであれば

最初からこのことは黙っていればいいはずだし

だとすれば、これを見えることが、相手にとって重要な意味を持つのかも知れません

相手は言う

「なにかみえましたか」

私は、グラスからゆっくりと顔を上げる

グラスの中で、何かくぐもった音が

いや、声が聞こえた

それは、どうも、音ではなく

言語のような気がした


何もないテーブルの上

その存在は、コップのグラスの中に入っている

周りに人はいるのだが

どこか遠くの話であり

現実的な事象に思えて来ないのである

私は、グラスを前に

男に尋ねた

「これは何ですか」

男は、その言葉を無視するように

いや、先ほどから同じ言葉を連続して発していた

「何か、見えましたか」

オウム返しのように、私は、それを、聞いていたが

意味は、果たしてあったのだろうか

料理無く

白いテーブルクロスの上

二つのグラス

そして、男が二人

実にさえない絵図等である

一人、物思いに、考える

正しいのか、それとも、間違っているのか

目の前のグラスの中でそれは、わずかにぐらぐらと動き

かたかた振動を繰り返し

そして、表情を確認できないが

その棒のような存在の中

手がこちらに手招きして

目や鼻や口が

その糸のような顔の中で、笑っているような気がした

いや、笑っていたのかも知れない

私は、そのグラスからめをそらし

目の前の男に、言った

口を開いたのだ

「私は何か、黒い紐か棒のような物が、グラスの中に入っているように思えます

あなたは、それをどう思いますか」

相手は、顔を、こちらに向けて

頬杖を、解いた

「あなたは、それをなんだと理解しますか

虫、紐、棒

何でも良い

あなたは、それをなんだと」

いよいよ黒い何かは、私の中で、人のような存在に感じ、されど、こんな場所に、人間など

それこそ、小さな存在であれば、入るかも知れないが

しかし、そのあまりの小ささ

いや、細さは、胎児でも体は無理だろう

骨格もある

それは、人類よりは虫に近いだろうが

こんな物は見たことがない

これは、昆虫だろうか

もし虫だとしても

今現実に、水の入ったグラスで

生きている

いや、このグラスは、本当に水だろうか

何か別の存在の中に

黒い紐が生きている

もしくは、生きているように動く仕掛けがあるのでは無かろうか

目の前の男が、揺らぐように霞む

時間を見れば、まだ十五分も経っていない

しかし、何か、頭が混乱することが多い

そのときの私の脳裏には

瓶詰めにされた悪魔の絵が思い浮かんでいた

その瓶の中に入った悪魔は

尻尾だけが、どういう原理か

その瓶の底付近から表にでており

非常に悲しそうな顔を、底で、おこなっている

その黒い体表は、その悪魔が封じ込められて居るようにも思えたが

果たして、あれは空想の物だろうか

目の前の小綺麗な男

この男も実は、空想上の産物の可能性はないだろうか

私が、仕事で疲れてみる悪夢のように

意味もなく、目の前に存在している

それは、このグラスというなのレストランの中の客のように

私は、客観視しているようで居て

その中の悪魔こそ

我々、いや、私自身なのでは

僕は、考える

目の前のコップは、露滴することもなく

冷えているはずであるが

目の前に

その水を入れてたたえている

果たしてこれは、水であろうか

この中の黒い物は

手で、いや、つかめば、取り出せるのだろうか

これがもし夢なら、私は、冷や汗でも掻きながら

うねうねと動く

黒い針金虫のような物を

白い布の上で見る事になるだけかも知れない

しかし、もし これが現実であり

あの水の中の物が、危険なものだと

百歩譲って、譲歩して、危機管理を、張りつめれば

こんな物は、さわるべきでさえないだろう

「すいません 箸はありますか」

近くで手を挙げると

何か言う前に

直ぐ側にウエイトレスの黒い姿は音もなく現れた

「はい、今お持ちします」

私が座る前に

厨房から

白い紙に入れられた黒い箸が運ばれてくる

光沢はなくざらざらとした質感を、見て取れた

「ありがとうございます」

私は箸を受け取り

席に着く

「それが何か」

男は、興味深そうに

その行動を、見ている気がして、大変不愉快にも思える

いえ

私は、袋から取り出した黒い箸を持つと

コップに入れようとしたとき

男が言う

「それはやめておいた方が良いですよ」

私は、箸を置き考える

「なぜですか」

男は、先ほどの言葉など知らんぷりでもするかのように

首を傾げ、それを、否定するようにした

ー「マナーに反します」ー

グラスの中で相も変わらず

それは、蠢いている

ただ、動物や昆虫と言うよりも

何が、人間めいた、その動きは、気色悪さを

その他の動物よりも感じ

実は植物かとも考えたが

どちらにしても、その理由を、考えられない

「あなたは、何を求めて私を呼んだんですか」

男は、髭一つのない

顎を撫で

こちらを見て言う

「あなたの手元にあるコップ

このグラスの中に入っている物は

あなたの脳内に存在している悪魔なのですよ

もしも、この悪魔を、脳内から取り出したら

あなたの自我は、消えてしまうことでしょう」

何を言っているのか

「そんなことが」

男の目が、光った気がした

私は何か、不吉な予感がして

立とうとしたが

何か、コンクリートか

いや、ボルトか釘か、何かで打ち付けられたように

それは、精神的に動けづにいた

「あなたは、何がしたいのですか

私をどうして」

シャンデリアの下

明かりが、クロスした切り絵のように複雑に下に写る

私の目は、揺れぼやけたまま男を捕らえるが

本当に、目の前に、存在しているのか分からない

「本当に、この中に、何か居るとでも、お思いですか

あなたは」

男は、そう言って、顎をグラスに向ける

波一つ振動していない水の表面が

わずかに内部より盛り上がっているような気がした

表面張力だろうか

何かがしたにいるのだとでも言うのか

「居るんですよ本当に何かは」

私は、不意に、頭に、意味のない苛つきが走り

手にいつの間にか持っていた、黒い箸を

グラスの中に入れると

もずくのような何かが、その箸の先端にふれる

そのとき私は、世にも異様な物を見た

天井から、何か黒く大きな

それは、柱とでも形容すればいいのだろうか

そのような物が、目の前の男へ向かって延びている

それは危険なことに

辺りを、回し

後方の席の人間を、なぎ倒している

大丈夫だろうか死んでいないと良いのだが

手元のグラスで、何かがつかんだ

「さようなら、私は、外に解き放たれる

さらば、地獄よ この世は、天国と化すだろうか」

私は、とっさに手を離そうとしたが

歪む視界の中

ふらついた私は、そのまま何かに寄っかかるように

目を覚ました

枕元で携帯が鳴っている

手を見ると何かを握っていたのだろうか

赤い後が二つ残っていた

その手で、充電している携帯を見ると

同僚からだ

「大丈夫か 生きているか」

私は、手短に、大丈夫だ生きている

と返信すると起き上がり

布団を、畳んで気がつく

布団の中に

黒い箸が二つ

つまり一膳転がっていた

私が、それを、拾ったとき

携帯が鳴った

「おい、大変だ

悪魔が、出たとニュースでやっている」

何を言っているのか

私は、久しぶりに、テレビを付けると

チャンネルを合わせることなく

目的の映像が、ニュースとして放映されている

それは、地上よりも高く

天高く雲から突き出すように

巨大な二つの黒い光沢のない棒が尽きだして地面に刺さっており

その事により

地球の自転が歪むのではと

学者が、記者会見で、発表している映像が流されていた。

僕は、手元の箸を、確認しようとして

焦って、落ちるのを見る

それは、スローモーションのように

ゆっくりと畳に。どうもその角度が

映像の黒い柱と酷似して仕方がないのである

あれは、全く別なのであろうか

それをしる術は

畳に刺さる一膳の箸以外無いのである。



メールの次の朝

私は心配になり

彼の家に、朝一番

大家さんに鍵を開けてもらいはいると

彼は、何かに胴体を押しつけられたように

死んでいた

それは、まるで、巨大な何かに挟まれたようで

直ぐに警察を呼ぶこととなった

しかし、それがどうして起こったのかも

そして、部屋に鍵がかかっていたせいで

それがどうやって起きたのか

怪死であったが、あまり、積極的な捜査はされなかったようで

第一発見者である僕にたいしても

それほどまでに

執拗な調査が行われることはなかった

しかし、彼から前日に届いたメール

あれは、彼が何らかの事件に巻き込まれていた

事を意味するのか

今となっては知る由もない

ただ、彼に届いたというスーツ

それに関しては、メーカーが見つかったが

どうも余り要領を得ないのであった。


目の前の悪魔のような男は言う

箸ですくおうとしている自分に

今紙から出した自分に

「すくってご覧なさい」と

私は、ゆっくりと

ワイングラスの中に箸を差し入れた

ゆっくりと水の中に黒い箸が屈折しながら入っていくのであるが


空中から、何かが現実へと突き出し

それは私の体を万力のように挟んでいる

骨がきしみ

どうの肉が、裂けへこむ感覚を腹部に感じる

後すこしで、背骨が砕けそうか威圧を感じた

視界が、暗く

いや、赤く染まっている気さえする

私は、辺りをも回そうとしたが

それも出来ず 意識のみが空中に落ちた


「大丈夫ですか」

目の前に、黒い箸が転がり

いつの間にか入れられたのか

赤ワインが、水のグラスの横に置かれている

前の男は、相も変わらず、同じような姿勢で

こちらを見ている

「気分が悪いようですし

送りますよ」

私はそれを丁寧に断り

店を出る

水のグラスは、こぼしたのか何を入っていなかった

もちろん中は、ガラスの中に歪んだような私の顔が、張り付いて見えるだけである

あれは何なのだろうか

暑い中

畳の部屋に、鉄製の扇風機が、回ってくびをふる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔のコップ イタチ @zzed9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ