第三話
バックオフィスのテーブルの上には連絡ノートという名のバイト同士の公開交換ノートがある。
みんな好きな事を書いている。
「今度飲み会します。参加希望者は下に名前書いてね」
「今日の昼のピークはマジ忙しかった。資材補充出来なくてすいません」
「みっちゃん、最近会えてないけど元気?来週の土曜は同じシフトだから帰りにお茶行こ(^^)」
「あきらくん、私はバタフライエフェクトが好きです。知ってる?」
ん、んん?
ぼく宛だ。
誰かはその文字を見れば判る。判るけど。
このノートで有城さんからコメントが来るとは思わなくて反射的に顔が赤くなった。
いったんノートを閉じる。
クローズ業務して終わったのが十時。
新田さんは外にヤニの補充に行ったまま戻らないので今はバックルームにぼく一人。
有城さんは閉店時間の九時に上がったので、それからこれを書いて帰ったのだろう。
すぐにスマホを取り出し、初めて聞くバタフライエフェクトを検索する。
解説にはサスペンススリラーと書いてある。ぼくの好きなジャンルだ。面白そうだ。いくつかレビューを見てみると、恋愛ものとのコメントも多数ある。どんな映画なんだろう、帰りにサブスクで見ようと検索してみたが、無い。
DVDのレンタルだけなのか、今どき珍しい。
もう会員証は無いので、再度会員登録を作るのが手間だなとちょっと思ったが、せっかく教えてもらったんだからなんとしても観なければ。最重要案件だ、週末の予定を考える。
新田さんが戻ってきた。体中からタバコの匂いがする。吸わないぼくはこの匂いが苦手だ。ただただ毒を摂取しているようにしか思えない。
「なんか書いてある?」ノートをのぞき込む新田さんは、目ざとく飲み会募集を見つけて参加希望に名前を書き、あきらも行くかと聞いてきた。
ぼくはまだ高校生だ。公に飲めないし、そもそもぼくは美味しいとは思えない。ビールは苦いし、カクテルも頭がくらくらするし。
このバイトを始めてから、何かとイベントごとに飲みに行くメンバーが多く、誘われて親に内緒で行ったことはあるけれどまだ美味しいとは思えていない。
ただ初めての居酒屋は予想以上に賑やかで楽しかった。高校生とばれないように神経を使いながら、なれないお酒を飲んだせいで顔から頭はずっと熱かったし、心臓もドキドキしていた。
「いえ、今回はパスで」ぼくは新田さんにそう言って制服を着替えにロッカーに入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます