第39話 行方

「この後、どうしようか」


 ぼくはつばきに問う。


 もっと計画を練ってからデートをするべきだったと思うが、このデート自体が突発的で唐突に誘われたのだから、映画を観る以外は無計画であっても無理からぬ話であろう。


 映画を観に街まで来た時、映画を観終えたら普段はなにをしていただろうか。さっさと帰路に付くか、本屋やゲームセンターに行くことが多い。つばきはどんな風に過ごしているのだろうか。本を読んでいるところを見たことがない気がするから、愛読家という訳ではないのだろうけど、本が嫌いとは限らないだろう。ゲームセンターはどうだったろうか。あまり、そういった場所を好むとは思わない。これも、なんとなくの印象ではあるが、ああいう騒々しい場所を極端に嫌っている気がする。


 もしも、ぼくたちが成人した社会人になれば、どこかでお酒を吞んでしっとりとするのだろう。

 双方がお酒を呑めることが前提だけど。


 いずれにしても、まずはつばきの意向を聞きたい。


「そうだね……今日さ両親がいないんだ」


 つばきは少しだけ逡巡してからそう答える。


 一般的な会話において。この後について訊いた時に、両親の所在について返答されても回答としては不適切であろう。不適切というか会話が嚙み合っていない。話をちゃんと聞いていたのかと疑問を呈する。だが、これがカップルでの場合では話は異なる。ぼくだって、その言葉だけでどこに誘われているのかはわかる。


「せっかく、電車に乗って街に来たのにいいの?」


「街にはいつでも来れるから」


 君の家にだっていつでも行けるだろう。もっと言えば、君は毎日、居住しているだろ。そう思うが言葉にはしない。


「別に構わないけど、勿体なくない?」


 世の中のカップルにおいて、両親がいない自室に誘われた時に拒絶反応を示すのは男よりも女性の方が多いと思う。男の中ではふたつ返事で了承する不届き者だっているだろうが、女性は一度は拒んで見たり、迷ったり悩んだりする仕草を見せるだろう。その理由は女性の方が性的な欲求が低いとか、貞操を大切にするとか、理由はそれぞれあるがぼくのイメージは然して間違ってはいないだろう。だからこそ、ぼくの方がその提案に対して抵抗を見せているのは、世のカップルから逸脱した関係であることを示している気がする。それだけ、ぼくたちの関係や価値観はかなりマイノリティなのだと思う。


「せっかくのデートの時間を無駄にする方が勿体ないと思うけど」


 そうもはっきりと言われると嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになる。彼氏として、つばきがぼくといる時間をそこまで大切に考えてくれていることに素直に喜ばしく思う。 


 その言葉の奥に打算的な意味が含まれていることは知っている。それでも、素直に嬉しいと思える。やはり、男は単純なのだろう。そして、つばきは男の心情につけ込むのが上手だ。


「つばきのお宅にお邪魔して何をするの?」


 そんな風にとぼけてみる。何をするかなんて明白だ。


「知っているでしょ」


 と、すべてを見通したように呟く。

 だが、つばきの口から聞きたかった。


 それまで理解しているのか。つばきはぽつりと呟く。


「――君に罰を与えないといけないから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る