第31話 六日目
土曜日。学校のない土曜日。
ゆとり教育が始める以前は土曜日も半日授業があったのだから驚きである。そして、その事実はしっかりとゆとりに浸っているぼくには、俄かには信じ難い事実であろう。だが、今のご時世で再び土曜日の授業を再開するとなったら、人々は歓迎するだろうか。
少なくとも、多くの児童・生徒からは反対意見が出るだろうが、選挙権を持たないぼくたちがどれだけ文句を言おうと、きっと大人たちは聞く耳を持たないだろうけど。
だが、大人たちもそれを良しと思うだろうか。例えば、中学校での部活により、多くの教職員が多大な時間外労働と過分な拘束と共に、大きな労力を強いられているのは周知の事実となった。そして、現在では地域移行が進められてる。それなのに、土曜日に授業を行うなんて時代に逆行しているのではないだろうか。
まあ、別に土曜日に授業を行うという議論が進められている訳でもないし、ぼくのこんなタラレバになんの意味もない。
しかし、まあ、そう考えると、ぼくが所属している美術部の顧問は随分と暇だし、楽をしているのだなと思う。部員も二人しかいないし、運動部とは異なり怪我や事故の可能性がないから先生が監督する必要もないのだけど、文化部というのは随分とお気楽というか、ぬるいというか。そのお陰で気楽で好き勝手に部活動へ取り組むことができるのだけど。
こんな不毛なことを考えているのは、きっとぼくが暇だからであろう。
そして、暇で不毛な時間は、妙にぼくの性力が高まりムラムラする。決して手持ち無沙汰でするような行為ではないが、それでも、六日間もの間、禁欲に努めてきた揺り返しが来ている。
他にやることがあれば、きっと気も紛れてこんな悶々とした気持ちも一時的にしのげるのかもしれないが、本当にやることがない。
勉強でもやろうか。いや、絶対に途中で性力に気が散って変な妄想を膨らませる自信がある。
ゲームは……刺激の強いキャラクターに発情する気しかしない。
ならば、ランニングでも。うん、健康的だしいいアイデアではないだろうか。
ぼくは運動服に着替え、とは言っても、運動に適した服などインドア派で文化部のぼくは持っていない。学校指定のジャージに身を包む。いつも学校に通学時に愛用しているスニーカーを履いて町に繰り出す。
寺山修司は「書を捨てよ町へ出よう」と言ったが、差し詰め、今のぼくは「性欲を捨てよ町に出よう」といったところだろうか。
運動をすれば余計にテストステロンが活発になり、性欲が高まると聞いたことがあるが知ったことではない。今のぼくを制御するので精一杯である。
陽に照らされて眩しいほどの町は、休日を楽しむ女性で溢れている。走り、乱れる息遣いで、視界は上下にぶれるが、それでも自然と彼女たちを目で追ってしまう。ぼくは、町往くすべての女性にここまでの関心を抱くことはなかったと思う。
疲労で呆然とする頭で自責すると共に、懸命に言い訳をする。
――これもきっと禁欲の所為だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます