第29話 四日目②

 つばきは自身の身体を非情という。そして、神様に子どもが産めなくなれば、無価値だと言われている気がするとも――


 だが、果たしてそうだろうか?


 神様の意図は分からない。そんな身体を創った真意は知る由もなかった。だが、ぼくの彼女には、自分の身体に対して、無価値なんて思って欲しくない。閉経しようが、病気に侵されようが、生きる意味を失っても、無価値なんて思って欲しくない。


 詭弁だろうか。詭弁だろう。でも、心からの本心でもある。


「ぼくは生体に関する知識は別にない。でも、すべてに合理的である様に、すべてに意味があるんだ」


「知ってる? 男にも子宮があるんだよ。女にも精道があるんだよ。どちらも身体には不必要で機能を果たしていないんだって。女の政道なんてどこにもつながっていない行き止まりなんだった。笑えるよね。きっと不完全で完璧とは遠く及ばないから、性別がふたつあるんだよ」


 ぼくの言葉は詭弁だけでなく、出まかせでもあったようだ。


「それは、勉強不足で申し訳ない」


「でも、神様は非常かもしれないけど、優しいのかもしれないね。最近になってそう思えるようになったの」


「――どうして?」


「だって、男と女に性別が分かれていなければ、きっと君はわたしのことを好きになんてならなかったでしょ。今のわたしは君と出会えて、神様は優しいと思えるようになったってこと」


 そう言うつばきは、頬を少し赤らめて笑っていた。


 ※


 ぼくは自分の身体に起きている変化が気になった。


 つばきは性欲が減退することは納得ができないと言っていた。合理的でないと――


 果たして本当にそうだろうか? つばきの言う通り、他の欲求であれば、身体や命への危機が生じるだろう。だが、性的処理なんてしなくても、身体の危機に瀕することはないだろう。


 だから、身体を護るために性欲を衰退させるのは、合理的ではないとそう思った。いや、我慢し続けることで身体への悪影響が生じる可能性を危惧したのもあるが。


 ぼくは自室のデスクパソコンの前に陣取り、検索エンジンを開く。さて、なんて検索すればいいのだろうか? 


 なんとなく、『自慰しない 性欲減る』で調べてみた。


 すると、検索結果からいくつものサイトにヒットした。ぼくは特に理由もなく一番上のサイトを開く。このサイトはどういう意図で作成されたのだろうか? 果たして、この世界でぼくと同じ疑問を抱いた者はどれくらいいるのだろうか? 一日にどれくらいの人がこのサイトに訪れるのだろうか? 


 そんなお節介で身勝手なことを考える。だが、そのサイトには答えが書いてあった。


 簡単に言えば、精巣に精子が溜まり過ぎて、精子の質が悪くなったことにより、排出に対する欲求が弱まっただけの話ということだ。¹⁾


 タネが分かればマジックだってつまらい。何かを期待していた訳ではないが、それでも、この答えでは拍子抜けというか、つまらないく感じる。


 ――この話は明日の話題になるだろうか? つばきなら上手く広げてくれる気もするが、別にわざわざ話すほどの内容でもないだろう。





 1) 本書の内容はあくまでも一説に過ぎません。

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