第28話 四日目

 ※


 空腹の時に一度は限界を向かえ、これ以上は我慢できないと思うほど、お腹が空かした時が誰しもあるだろう。


 しかし、時間と共にピークが過ぎると、自然と空腹が収まり、別にお腹が空いていないと感じる経験をしたことが誰しも一度はあるのではないだろうか?


 その現象は、脳から空腹を知らせるものの、食事の摂取ができないと分かると、一時的に胃が収縮させて、食事の摂取がなくても空腹を感じない様に身体が変化しているためである。


 ――さて、生殖機能でもそれはあるのだろうか?


 ある気がするのはぼくだけだろうか? 少なくとも欲求に対する波はある。例えば、どうやってもそんな気分にならない日もあれば、どうしようもないほどに、性的開放をぼくの身体が要求する日がある。


 そのような身体の変化を自己で制御できるかと言われれば、空腹や排泄が制御できないように、ぼくの下半身はいうことを聞かないことの方が多い気がする。


 その善悪については、議論の余地が残されているだろうか。


 つまり、滔々と語ってみたものの、なにを言いたいのかといえば、今日のぼくは昨日のぼくと比較できないほど、性欲のない穏やかに心中であるということだ。


 そんな説明をかいつまんで端的に話すようなことはしなかった。寧ろ、詳しく丁寧に教授してあげた。男の性的欲求に対する変化について。


 すると、彼女は不思議そうに言う?


「空腹で胃が収縮するのは分かるけど、どうして性的欲求は収まるの?」


「出せないと分かると欲求が落ちるようになっているんじゃない?」


 別にエビデンスもソースもない。ただの自論である。ただ、ひとつ を強めるとすれば、経験者の意見という点だろう。


「胃が収縮するように、精巣が萎むの?」


 そう問われると、違う気がする。身体的変化は無いだろう。むしろ、精巣には精子が溜まっており、肥大化している可能性さえある。


「欲求を分泌するホルモンが減っているんじゃない?」


「そこがわからないの?」


 わからないと言われても、つばきが何を知り得ないのか、納得していないのかがぼくにはわからなかった。


「どのへんが?」


「だって、例えば食欲は野性の世界だといつでも欲求を満たせる訳ではない。そのうえで、自身の身体を飢餓から守るために胃を収縮させるから理解ができるの。でも、性的欲求って別に満たせなくても死ぬわけではないでしょ。それなのに、欲求を解消するためにホルモンの量を調節なんてするのかな? わたしはね、人に限らず身体の構造は非情で合理的に創られていると思うの」


「さあ、身体のことはよくわからないけど、ぼくの体感ではそんな感じだよ」


「性欲が減少しているという体感には疑いようはないけど、ホルモン分泌が減っているのは、出せないと身体が判断したからというのは納得できない」


「身体が合理的というのは、まあ、同意するけど、非情っていうのはどういう意味?」


「だって女が閉経したら身体がどうなるか知っている?」


 そういえば、生理については多少、勉強をするが、その後については誰も何も教えてくれていない気がする。それは、決して触れてはいけないタブーのように社会から隠されている気がする。


「――知らない」


「いわゆる女性ホルモンが分泌されなくなるの。それと共に、今まで身体を保ってきていた分泌物が減少して身体がボロボロになっていくの」


 人は老いる。だが、女性の場合は閉経と共に、逃れることのできない生命の宿命が一気に襲いかかって来るということだろう。だが、つばきのいう、非情という言葉は随分と過剰に聞こえる。


「それのどこが非情だと思うの?」


「だって、女の身体って子どもを産めなくなったら無価値って、神様に言われている様なものじゃない」

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