第23話 空を見上げる

「で、どれくらいの期間、ぼくは自慰を我慢すればおっぱいを触らせてくれるのだ?」


 ぼくはつばきに問う。


 なんだか、ぼくの方が前のめりになっている気もするが、気の所為だろうか。それは気の所為だと思いたい。


「うーーーん、理性がなくなるまでと言いたいところだけで、どうしようか……」


 つばきは逡巡したように、天井を見上げながらこてんと首を傾げる。


 その仕草は実に可愛らしかった。


「ぼくとしては一週間くらいが限界な気がするが……」


「一週間? そんなに我慢できないものなの?」


 つばきは目を丸くして驚嘆の声を上げる。


 そんなに驚くべき事実だろうか? 男性にとって思春期は最も性力が高まり、最もテストステロンが多く分泌される時期であるということは、つばきでも知っていると思われる。だからこそ、ここまで驚くことに少々、不思議に思うとともに、どれくらいの期間、ぼくを我慢させようと考えていたのか不安にもなる。


「一応だけど、どれくらいの期間、我慢させようと考えていたの?」


「最低でも一か月くらい……」


 つばきの壮大で地獄のような計画に背筋が凍る。


「最低でひと月ってそんなにも長期間は無理だよ」


 ぼくは必死で再検討を打診する。本当に、そんなにも長い期間も我慢するのは無理だろう。


「えーーー、でも、たかだか、一週間だけ我慢したくらいでおっぱいを触らせるのは嫌だな」


 ――嫌と言われると困る。いや、別に困りはしないが、おっぱいが触ることができる、またとない機会を失うのは嫌でもある。


 そして、意外にも貞操が固い彼女に対して若干の安堵を覚える。


 どうしたものかと、逡巡するが折衷案は出てこない。


「でも、一週間もだよ。男は一週間も射精できないと大変なんだよ」


「うーーん、よくわからない」


 確かに女子には理解し難い感覚かもしれない。だが、これと似た感覚や現象をぼくは知らない。


「一週間排泄するなと言われたら大変でしょ」


「トイレをしたい欲求と、オナニーをしたい欲求は似ているの?」


 不意に飛んで来た質問にぼくは固まる。似ているか? いや、似ていない。排泄を我慢する感覚は痛く苦しいものだが、自慰をしたい感覚は、もぞもぞするというか、ムズムズするというか、実に形容し難いものだ。


「似てはいない……かな? うん、別に似てはいないけど、一週間というのは大袈裟だったかもしれない。そう、一日トイレ禁止と言われるようなものなんだ」


「まあ、確かに一日中トイレに行ってはいけないと言われたら大変だけど……そんなに辛い事なの?」


「そんなに辛い事なんだよ」


 ぼくは熱弁を振るう。どうしてここまで熱くなっているのか自分でも分からない。多分、おっぱいの所為だろう。


「そうかー、一週間かー、うーーーん」


 と、依然としてつばきは納得がいっていないのか、ご不満なご様子である。


 だが、ぼくとしても一週間の我慢が最低限のラインである。これ以上の延長は心身が持たない自信がある。


「なんか、男ってそんなにオナニーをしないといけない生き物なの?」


 生物の生存目的は繁殖である。それは、子孫繁栄と種の存続という意味で必要不可欠な自然の摂理だろう。


 だからこそ、女性のアイデンティティが出産であるように、男のアイデンティティは射精のなのではないだろうか。


 だからこそ、つばきに伝えたい――


「男はオナニーをしないとダメなんだ」

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