第22話 疑問

 ――長らく疑問に思っていたことがある。どうして男はおっぱいが好きなのだろうか。


 この感情は、自身にないものを、強請るようなことなのだろうか。


 だが、別におっぱいが欲しい訳でない。だから、この考えは少し違う気がする。


 いや、女性も身長が高い男や筋肉質な男が好きと言うが、別に身長や筋肉を欲している訳ではない。もしかしたら、強ち間違ってはいないのかもしれない。


 しかし、依然として答えは出ない。おっぱいという、ただ胸部についた脂肪の塊にどうして、我々人類の男共はここまで魅了されるのだろうか。


 ある生物学者は言う。


 生物の生存目的は繁殖である……と。そして、繁殖のために女は優秀な遺伝子を、男は健康な女性を求めると。胸が大きいということは、それだけ、余った脂肪分を胸部に集めることができているというアピールであると。多くの栄養を摂取している、健康な証拠であると。


 だが、それでは、男女違わず太っている方がモテることになるのではないだろうか? だが、それは、平安時代の価値観であって、現代社会の嗜好ではない。そもそも、性的魅力が時代と共に変わるというのも不思議な話である。


 たてがみが立派なライオンがモテるように、羽の色どりが鮮やかな孔雀がモテるように、鼻が大きなテングザルがモテるように、同種同士での性的魅力は時代に違わず不変であるだろう。時の移ろいなんかには左右されない。


 だが、人間ではどうだろうか。時の移ろいや文化、国、人種によって異なる。異性の好みは、性的魅力は時代と共に変化してきた。


 しかし、おっぱいが好きというのは万国共通の男の見識ではないだろうか。長い人類史の歴史の中で不変だったのではないだろうか。思想も考えも宗教も感情も価値観も大きく異なる現代社会――



 常に戦争の歴史の中で人類は歩んできた。そして、現代でもなお、争いの多いこの世界で、おっぱいの前では誰もが、平和なのではないだろうか。



 可能であれば、武器ではなくおっぱいを持つ世界をぼくは望む。

 

 だからこそ、もっとこう、科学では言い表せないような、なにかがおっぱいにはあるような気がしてならない。


 それを本能と言うのだろうか?


 だが、そんなチープな言葉だけで表現してもいいものなのだろうか。答えは否だ。もっと平和に満ちた素敵な言葉が、表現がないだろうか?


 では、なんて言い表せればいいのだろうか?


 ぼくはあえてこう言いたい。



 ――浪漫、おっぱいとは浪漫である。



「男って本当におっぱいが好きなのね」


 つばきは嘲笑したように言う。嘲笑というよりも、あれだけ駄々をこねていたぼくが、おっぱいを触れると聞いただけで、手のひらを返したように協力的になったことに対して、呆れていたのかもしれない。


「男の浪漫だからね」


「……どういう意味?」


「意味なんてないさ。そのまんまの意味だよ。男はみんな盲目的におっぱいを愛しているということさ」


「気持ち悪い」


 つばきはぼくの慈愛に満ちた、平和を願う言葉を一刀両断で切り捨てる。


 どうやら、この世界では依然として戦争はなくならないようだ。


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