第20話 我慢の果て
――つばきは欲求を我慢すればいいと言う。
ぼくは意味もなくその言葉を反芻する。
「――我慢」
「そう、欲求を我慢し続けるの。そうすれば、欲望が脳内を支配して、きっと理性や冷静な判断力が阻害されると思うのよ」
淡々と理性を失くす方法を説明をする。
だが、そんな人でならざるほど、欲求を蓄積させるには、どれくらいの時間が必要なのだろうか? きっと、ぼくの自制心ではつばきが満足するほど、欲求に対して我慢することができるだろうか?
「ぼくはたぶん、理性がなくなるくらい我慢することはできないと思う」
「どれくらいの頻度で性的欲求を満たしているの?」
「それは、どれくらいの頻度でオナニーをしているのかってこと?」
「そうね、正確には、どれくらいの頻度で射精をしているかだと思うけど」
その修正は不必要だろう。だが、それをわざわざ言葉にするのは、もっと必要がないであろう。
「まあ、二日に一回くらい」
「……そんなに?」
つばきはそんな言葉を漏らしながら、目を丸くして驚嘆の表情を浮かべる。
「別に多くはないよ。周りの話を聞いている限りでは、人によっては毎日している人だっているし、平均的な頻度だと思うけど……」
言葉にしながらも、自身が人よりも自慰の頻度が多いのでは、人よりも性力が強いのでないかと不安にもなってきた。
「やっぱり、男子の方が性力が強いのね。でも、そんなに自慰をする必要があるの?」
「定期的に出さないと辛いんだよ」
「……出さないと辛い?」
やはり、女子には理解し難い感覚なのだろうか?
「なんて言うか、欲求が溜まっているというか、うまく言語化するのが難しい感覚なのだけど」
「……そういう事か」
つばきは納得をしたように呟く。
今のぼくの説明で理解できるのだろうか?
「わかったの?」
「つまりは、生殖器で精子を作り続けるが故に、それが体内に蓄積され続けるから、定期的に身体が排出するように指令を出すのでしょうね」
なんとも情緒のないロジカルな思考で解析される。だが、生物学知見から見た、身体的変化としては、その言葉は最も適当な表現かも知れない。
――だが、つばきは理解はしても、あの感覚を共感はしてはいないのだろう。
無性に悶々とする感覚を、綺麗な女性を見ただけで股間がうごめくようなあの感覚を、つばきには理解されないだろう。
自慰をしたい。射精をしたい。その欲望だけに脳内が支配されるような感覚を。きっと、世の女性には
「だから、盲目的に我慢しろと言われても、かなり辛いんだよ。それに、欲求に自制心が勝つ自信もない」
「そう、確かに、わたしの好奇心だけで辛い思いをさせるのは、フェアじゃない提案だったね」
これで、この話をなかったことにしようなんて言う彼女ではない。
「例えば、理性がなくなるまで我慢できたらご褒美をあるとかは?」
やはり、つばきはそんな提案をする。
そして、ぼくはそんなすべての提案を一蹴しようと思っていた。だが、その提案にだけは、どうしようもないほどの関心と好奇心を抱かざるを得なかった。そして、ぼくは思わず問う。
「……例えば?」
「例えば……そうね。一時間だけわたしの身体を好きにしていいとかは?」
脳裏には、幾度か妄想したつばきの裸体が過る。
その提案はあまりにも過激で、魅力的なものだった。
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