第13話 夕暮れ

「わたしの下着姿に興奮したんだ?」


 嬉しそうな声が上からって来る。


 だが、ぼくは彼女がどんな顔でそう言ったのかは分からない。


 彼女ははっきりと生殖活動のために、生理現象のせいで、熱く硬く、大きくなったぼくの男性器を視認してそう言ったのだろう。


 恐らくはほうけているであろう、今の顔を彼女に見られたくなかった。だが、それ以上に目の前に広がる、たった一枚の布切れから視線を外すことができなかった。


 彼女の女性器は、このたった一枚の布で貞操が保たれているのだろう。


 男のそれとは異なり随分と布面積が少なく、レースの模様が必要以上にその奥にある秘宝に心を躍らせる。

 男の欲望を阻害するそれが、彼女の身を守るそれが、どうして、こんなにも心惹かれるのだろうか。どうして、ここまで男を興奮させるのだろうか――


 ぼくの脳内は完全にも、彼女のピンク色をしたレースのショーツに支配されてた。そして、気が付いた時には片膝を両膝立ちになり、彼女のショーツへ顔を近づける。


 ――男とは無意識にうちに、いや、本能的に、女性器を求めているものなのだろうか?


「わたしの下着姿が見れてそんなに嬉しいの?」


 そう彼女はぼくに問う。


「……はぁ、はぁ」


 だが、ぼくには答える余裕もなかった。

 ショーツと射精のことで脳内はいっぱいで、彼女の言葉を処理する余地は残っていなかったのだ。


 だが、そんなぼくの態度に不満を抱いたのか、彼女はスカートを下し、ぼくの視界をネイビー色の制服で遮った。


「――答えないなら、もう見せてあげないよ」


 彼女は不服そうに、少し強い口調でぼくを叱責する。


「見たいです! 嬉しいです! 下着が見れて嬉しいです!!」


 声を荒げながら言う。もう、取りつくろう余裕はなかった。アヘン中毒者が薬を取り上げられたように、必死に懇願して、すがっていた。


 そんな答えに満足したように彼女は小さく笑い、再びスカートを捲った。そして、ぼくが懇願した、待ちわびたショーツが再び露わになる。


 ぼくは我を忘れて男性器を擦っていた。


 今日の終わりを告げる様に、カーテンから差し込んでいる光は、すっかりと赤みを増しており、部屋に夕暮れを知らせる。


「ちょっと疲れたから座るね」


 そう言う彼女は二歩下がって、ベットに腰掛けた。


 当然ながら、ぼくの目と鼻の先にあったショーツもふっと距離が離れていく。


 だが、スカートを捲り、依然としてぼくにショーツを与え続ける。


 ぼくも両膝立ちに疲れてきて、姿勢を再び正座に戻していた。


 しかし、彼女はさっきまでは、ぼくの見下ろしていたため、表情までをはっきりと捉えられなかったであろう。だが、今は違う。少し高い位置で真正面からぼくたちは向い合っている。ぼくの情けない姿がしっかりと見据えられている。


 ぼくもそんな、嗜虐心に満ちた妖艶な笑みを浮かべる彼女の表情がはっきりと視界に入る。


 だが、羞恥心はない。



 いま、ぼくの脳内にあるのは射精したい気持ちだけである――






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