第11話 結果論

 ※


 ――ぼくは彼女の部屋で自慰に耽っている。


 くちゅくちゅ――と室内には卑猥な音だけが流れる。


 ぼくはカーペットに正座する様に自慰に励み、そんなぼくを見下ろす様に彼女はベットから眺めていた。


 彼女が、自慰に勤しんでいるぼくのどこを見ているのかは分からない。


 ぼくはベットに座る彼女の、捲し上げたスカートの奥にある、普段の生活では絶対に見ることができない、彼女には少し大人びた印象を抱く下着を眺めていた。

 

 自慰をはじめて、どれだけの時間が経ったのだろうか。十分くらいが経ったときだろうか。


 不意に彼女が口を開いた。


「手伝ってあげようか?」


 ぼくには、その言葉の意味が分からなかった。


「手伝うって?」


 そう訊き返すと、答えるよりも先に、彼女が右足の親指でぼくの反り上がった男性器の裏筋を撫でる。足で触れることが手伝ってくれるということのようだ。


 だが、その刺激は想像を絶するものであった。


 他の誰かに自身の勃起した男性器を触られる経験がないためか、足の指一本で撫でられているだけなのに、その刺激は強くぼくは思わず男性器から手を離し、腰を引き、悶え、必死に抵抗する。そんな身体を彼女の親指から逃げられない様に、ぼくは懸命に柔らかなカーペットを掴む。


 身体は強い刺激に拒絶しているが、感情が、脳が、彼女から与えられる刺激から逃れることを許さなかった。


 全身から発汗しており、顔は燃え上がる様に熱い。体は生まれたての子羊の様にぷるぷると震え、男性器がピクン、ピクンとひくついている。


 随分と前から、脳がとろける様に真っ白になっていた。


 そんな姿を見下ろす彼女は、恍惚の表情を浮かべていた。


「――そ、そろそろ出そうだから、ティッシュをくれないか?」


「必要ないでしょ。精液を出すところが見たいんだから」


 彼女はあっけらかんとそう言う。


 だが、人の、ましてや異性の部屋を自身の精液で汚すことに抵抗がある。


 ぼくは周囲を見渡して、ティッシュボックスを探すが見当たらない。そして、我慢は限界を迎えた。


「――ああ、イキそう」


 ぼくは自身の男性器と撫で続ける彼女の右足に視線を落として、そう呟いた。


「ねえ、顔を上げて」


 彼女のその言葉に言われるがまま、ぼくは顔を上げて、真っ直ぐと彼女を見据えた。彼女もしっかりとぼくのことを見ていた。


「随分と余裕のなさそうな顔をしているね」


 そう嘲笑する様な言葉と共にぼくは射精した。


 だが、その射精は今までにないような、刺激が快楽が襲いかかって来る。あまりの快楽にビクビクと腰と男性器が浮かび上がる様に大きく震え、脳みそが焼けるように熱くなる。


 勢いよく飛び散ったぼくの精液は、室内のカーペットを、彼女が腰掛けるベットの側面へ、そして、彼女の足に飛散した。


「へえ、君はイク時にそんな顔をするんだ」


 彼女は柔らかな笑みを浮かべながら言う。


 その言葉にぼくの男性器がもう一度、ビクンと跳ね上げて、一滴の精液を垂らした。


「――ごめん、部屋を汚しちゃって、それに君の足にも」


 半ば呆然としながらも、彼女の部屋と身体を汚したことへ謝罪する。


 だが、彼女は飛び散る精液を避けようとはせずに、射精した今でも、ぼくの男性器を親指で撫で続けている。


 ぼくも彼女から未だに与え続けられる刺激が気持ちいいような、くすぐったいような不思議な感覚に腰を抜かしたように動けずにいた。


「あったかい」


 彼女はぼくの男性器からそっと指を離してそう呟いた。



 さて、ここまでの経緯の説明と弁明が必要だろう。そして、話を放課後の美術室に戻す必要もあるだろう。


 そう、彼女から、「君はオナニーを見せるだけで、わたしと付き合える。わたしは付き合うだけで、君のオナニーを見ることができる」と提案された、あの時に――

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