第2話 中学一年生とは如何なものか
「ぼ、ぼ、勃起て……女子がそんなことを口にするものではありません」
「女子が口にするって……」
彼女は恥ずかし気に赤面して俯いた。
どうやら、とんでもない勘違いをしているようだ。ぼくは決して、「そんなものを口にするな」と言っていない。端的に言えば、フェラチオのことを言った訳ではない。
だが、目の前に座る彼女はそんな勘違いをしてしまうほど、頭の中がピンク色でいっぱいなのだろう。そして、うすうすは気が付いてはいたが、彼女は相当のスケベだ。いや、性的好奇心が強いのだろう。
そして、瞬時に彼女の態度からそんな勘違いをしていると推察できるぼくも、いろいろな意味でそれなりには重症なのだろう。
やや、訂正するのも馬鹿馬鹿しい。だが、間違いは正しておこう。
「ぼくの言い方が悪かった。女子が勃起なんて言葉を言ってはいけない」
お年頃の男女がここまでざっくばらんにお喋りができるようになるには、それなりに親密であり、親交が必要であろう。信頼していない男子に「初経がきた」なんて打ち明けられないだろう。仲良くもない女子に「精通していない」なんてカミングアウトはできないだろう。
どうして、こんな関係になったのか、物語は出会いから仕切り直そう。つまりは、入学式を終えた頃に――
中学校に入学してから、小学校と比較して変化はいろいろとあった。
例えば、新たな友人たちとクラスメイトになったり。
例えば、新品の制服を毎日着用して通学したり。
例えば、美術部に入部したり――
例えば、美術部で唯一の部員である、彼女と出会ったり――
ぼくは中学の進学を比較的に楽しみにしていた。なぜなら、部活動があるから。部員たちと共通の活動で友情を深め、切磋琢磨して大いに青春を謳歌したかったから。そんな、ちっぽけな夢が幻になってしまったのは、ぼくが原因ではない。
端的に言えば、我が校の美術部は廃部寸前であり、ぼくが入部した時には部員がひとりしかいなかった。それも、ぼくと十五分差で先に入部していた、新入生であった。
唯一の美術部員は名をつばきといい、長い髪に長いまつ毛、大きな目と端正な顔立ちをしてるが、その顔にはあどけなさが随分と残っている。そして、そんな顔に似合っているほど身長が低く、ぶかぶかの制服を着ていなければ、小学生と見間違えるだろう。
だが、そんな彼女をぼくは嘲笑することはできない。
残念なことに、ぼく自身の身体的変化は入学からあまりなかった。クラスメイトは日に日に身長が伸びているのに対して、ぼくが肉体的成長はいっこうに訪れない。つまりは、ぼくもぶかぶかの制服に身を包んでいなければ、小学生と見間違えられているのだろう。
さて、そんなおチビちゃんふたりは、美術部に入部してから放課後になれば、毎日の様に部室である美術室に足を運び、美術部として活動する日々を過ごしている。
こういった唯一の部員という仲間意識が、常に顔の合わせるといった単純接触効果が、共通の活動と共有の趣味嗜好を持つもの同士が、時間と共に親密で特別な関係を築いくことに疑念の余地はないだろう。
その良し悪しは今となっては分からない。
――だが、彼女の性的好奇心の餌食になっていることは、まごうことなき事実だ。
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