第10話 新しい日常
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翌日、親友に塗ってもらったネイルをそのままに、女子高生は清々しく登校していた。
いつもの日常が戻ってきて、今まで通りの生活を送ることになる。
昨日までは世にも奇妙な二日間で、そのあり得ない出来事を満喫してしまった。これを語ったところで、きっと誰も信じはしないだろう。そもそも話す気などないのだが。
「へぇ、男でもネイルとか全然ありなんだなぁ。めっちゃオシャレじゃん、千弦!」
「……えへへ、だろ! おまえらもやってみる? オレ、何色も持ってるよ!」
「マジでいいの? なら、やってみたい! なあ、お前もやろうよ〜」
「えぇ、おれも?」
二年二組から、そういう何人かの男子生徒の声が聞こえてきた。教室の中央に大きな人の輪ができていて、その真ん中にいるのは他ならぬ相川千弦である。
「いいよ。今度、持ってくるね」
昔から人気者の千弦だが、今日はいつにも増して人を惹きつけているようだった。
「ふふ……なんか、盛り上がっているなぁ」
男子生徒たちがわらわらと集まっている姿を見て、楓はやや驚きつつも心の底から嬉しくなっていた。
「あ、おはよう、楓ちゃ……って、えっ! 楓ちゃんもネイルしてるじゃん! わははーっ、いいねいいね、似合ってる! かっこいい!」
女子生徒の一人が楓のネイルに気づいて、その手を取る。キラキラと輝く瞳で見つめる彼女を見て、楓はまた誇らしくなった。
「ありがとう。実は私も、千弦にやってもらったんだ」
「うそっ、いいなあ。あたしたちもやってみてほしいよね!」
「ね! うちもやってみてほしい!」
女子生徒の一人がそう尋ねると、周りの女子たちからも手が上がる。どうやら、男子間の会話を聞いていた生徒は、意外にも多かったらしい。
「ハッ、残念だな! 俺たちが先だ!」
「いーじゃん別に! あたしたちも仲間に入れろーっ!」
言い合うクラスメイトたちの中心で、嬉しそうに千弦は微笑む。
クラスの全員が今の彼を受けて入れているとは言い切れないけれど、それでも、恐れていた言葉は一つも飛んでこなかった。
これが答えだった。時代や世間は、少しずつだが確実に彼らを迎え入れていくのだ。
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