第22話

「次は三年たちのー、コスプレコーナー!」


 しばらく笑っていると、ステージの司会を担当する文化祭進行委員の言葉で和基たちはステージの方へ視線を向けた。


「うわぁ」


 司会の掛け声でステージ上に現れた人物を見て、思わず和基は顔を引き攣らせた。これだけ遠くの椅子から見てもわかる。あのステージに登った生徒は――。


「三年一組! バスケ部エースやらせてもらってます!」

「三年四組! 野球部補欠! 特技はベンチからの大声応援! よろしくね!」

「同じく三年四組! 帰宅部と思わせてのー、これまた同じく野球部! でも補欠ではありません!」

「三年二組。サッカー部。いつのまにかこの格好させられてました。よろしく、こんちくしょう!」

「んー、三年! 何組だと思います? そう、五組! はないので普通に一組! 特技はとくになし! 最近言われることは話し方がうざい。部活はびーじゅつぶ!」


 癖のすごい話し方をした人物を含めてステージ上に上がってきた五人組は全員が三年生だ。そして司会の言葉通りコスプレをしている。

 コスプレをしていること自体はべつにいいのだが、服装と体格が似合っていなさすぎるのが和基には気になった。

 五人の中では比較的まともな自己紹介をしていたバスケ部のエース、もとい和基にとっての部長はミニスカートのメイド服を着ている。短いスカートから覗く足は太くたくましい。


「部長いかつすぎるんだよ……」

「あれ? 和基をステージの出し物に誘ってきたのってあの人じゃなかったっけ?」

「そう。ステージでコスプレするって聞いたから、なんとなくいやな予感して断ったんだけど、ほんとに断って正解だった……」


 和基は本気で数日前の自分を褒めてやりたい気持ちにかられた。もしあの場面で流されて承諾していたら和基も今頃あのステージ上で体格に似合わない服装を着せられていたことだろう。


「なんであの補欠って言ってた人、ウエディングドレスみたいな服を着てるのにボディビルダーみたいなポーズ取ってるんだろう?」


 とんちきな見せ物だが、観客たちは大笑いだ。ステージにいる先輩たちもその笑顔に応えるように様々なポージングを取るが、どれも服装には似合わないマッチョのするポーズだった。

 そのチグハグさに最初は身内の似合わないコスプレに謎の恥ずかしさを感じていた和基も思わず笑ってしまった。


「高校最後の文化祭だからってはっちゃけてるね」

「ほんとになー」


 透もパンを食べながらくすくすと笑っている。

 和基ならコスプレをするだけでも恥ずかしいと感じてしまうのに、先輩たちはとても楽しそうにやっている。自己紹介のときに一人だけ乗り気じゃなかった生徒もいたが、今は開き直ったのか全力でポージングをとって客席に笑いを届けていた。

 透の言う通り、これが最後の文化祭だからということもあるのかもしれないが、和基の知る先輩たちは元々愉快な性格の人たちなのでもしかしたら入学した一年のときからやっているのかもしれない。


 日常とは少し違う、この浮かれた雰囲気はきらいじゃない。むしろ好きだと思いながら、和基は焼きそばと幸せを噛み締めてステージを見つめた。

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