第15話
「私、美術部だから絵を描きたいかも。店で買う物より不気味な絵を描いてあげる! そしてみんな私の描いた絵を見て呪われてしまうのだ」
「いや、怖いわ! でも、美術部は展示とかしないの?」
美術部女子の提案に他の女子生徒が悲鳴を上げた。和基も苦笑いを浮かべた。
「展示? ああ、うん。するよ。本来なら体育館の半分を美術部が占拠して作品を飾るらしいんだけど、ほら、今は体育館は工事中だし。だから美術部の部室に飾ることになったんだよね。だからスペース減っちゃってさ。今年の一年は絵をほとんど展示してもらえないのー。もうすぐ卒業する三年の作品が優先、とか言われちゃってさー」
美術部女子はため息をついた。
体育館はいまだ工事中で、まさかこんなところまで体育館が使えないことで被害を受けていたとは。和基も早く体育館の工事が終わって欲しいと願っている。
「あらら、残念ね」
「ねー」
「じゃあ、教室の三分の一はキッチンで三分の二がお客さんの入れるホールにしよう。で、そのキッチンとホールの境に仕切りが欲しいから、そこで絵を飾ろうよ」
「マジ? やったー! とびっきり怖い絵描いちゃう!」
自身の絵を飾るスペースを確保してもらえて、美術部女子は嬉しそうに飛び跳ねた。
「いやいや、あんまり怖いと土曜日に来た普通のお客さんの子供がみたら泣いちゃうだろ」
「あっ、それもそうか……しかたがないなぁ、ちょっとポップな感じのお化けの絵にしようかな」
「仕切りの絵は美術部の子たちに任せるとして、他の飾りを作ったりするのはみんなでやろうね。放課後にちまちま作っていって、文化祭当日の朝にまとめて飾ろう」
「おー」
文化祭進行委員は自身の役割をしっかりとこなして、文化祭の手順をひとつづつ進行していた。和基たちは文化祭進行委員をリーダーに話し合いにしっかりと参加する。
「あと問題なのは接客だよ。僕はファミレスでバイトしてるから接客できる、と言いたいところだけど、あいにくと文化祭当日は文化祭進行委員の仕事が忙しくてさ。様子見に来るくらいならできるんだけど、ほとんどステージの方にいないといけなくて」
「ああ、そっか。文化祭進行委員はグラウンドに設置されたステージで有志の発表とかのMCとかしないといけないんだっけ?」
文化祭では一日目も二日目も各クラスの出し物とは別に、申請さえすれば有志たちがグラウンドの舞台で出し物を出せることになっている。
内容は漫才にダンスに歌を歌ったり、一発芸をしたりするのもありだ。ルールやモラルさえ守っていれば、意外となんでも舞台上で披露できる。
女子生徒の問いに文化祭進行委員は頷いた。
「そうそう。あとは校内を巡回してふざけ過ぎてる生徒がいないかの監視とかも」
「なるほどねー。じゃあ、当日は三十三人で変わるがわる接客してかないとかー」
「二日で割ったら十六人くらい? 文化祭が始まるのは十時から。終わるのは十五時。五時間だからー……えーと、一時間交代で三人か四人くらいでまわせる、のか?」
「お金のやり取りもあるから会計係が一人は必要。一日目はこの学校の生徒だけだから三人とかでも回せるかもしれないけど、二日目は客の量が多いとたぶん人手が足りなくなると思うよ」
ううんと唸りながら接客人数を計算する生徒に、透がまた助言した。
首を傾げて考えていた生徒は透のアドバイスに素直に頷いた。
「おお、そっか。それもそうだな」
「じゃあ、二日目は会計係含めて六人体制くらいで行く? あたしは一日目遊べれば、二日目はずっと接客担当しててもいいよ」
「えっ? マジでか。俺は二日目に弟が遊びに来るって言ってたからその時間は自由時間が欲しいんだけど」
「じゃあ、あんたは一日目に接客すればいいんじゃない? そしたら二日目はフリーでいいじゃん」
「そうだね。じゃあ、みんなの希望を取っていこうかな。二日目に親御さんとか他校の友達と回るから時間欲しいって人ー」
一日目と二日目、接客をできる人とこの時間だけはできないという人の希望を確認するため、文化祭進行委員が声を張った。
和基は手を挙げて口を開いた。
「俺、妹が遊びに行きたいって言ってたからさ。二日目に自由時間が欲しいな」
綾音がどうしてもお兄の学校の文化祭に参加したいと言っていたのだ。和基はぜひとも自分の学校を案内してあげたいと思っている。
「そっか。じゃあ、和基くんは一日目の接客を担当してもらおうかな。一日目に接客してくれたら二日目は自由に遊べるだろうし。瑠璃川くんは? 親御さんとかくるの?」
「お、俺は……べつに、その」
「透も俺と一緒で!」
「わかった。じゃあ、瑠璃川くんも一日目の接客をお願いします」
「あっ、うん。わかった」
透の両親が文化祭に来ることはないだろう。口籠る透の代わりに和基が答えた。
「透、文化祭二日目は一緒に回ろうぜ」
「……うん」
文化祭進行委員が全員の希望を取り、みんなの希望の時間を取れるようにうまいように調整してくれて、文化祭二日分の接客当番の割り当てが終わった。
そこまで話が進んだところで本日のところはここで解散、という文化祭進行委員の締めの挨拶がなされ、文化祭の討論はお開きになって和基は透と並んで帰路についていた。
和基に誘われた透は西日に照らされながら、少しだけ口角を上げて柔らかく微笑んだ。
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