第14話

 あの日から数日後、茉優の葬式はつつがなく執り行われた。和基も参加したのだが、茉優の両親の反応を見るに、彼らも真実は知らないようだった。

 本当のことを知っているのはあのときそばにいた和基と透。そしてこの事件を担当した東雲紅李と、その彼の所属する警察庁特務課という組織だけ。


 その東雲には化け物のことは余計な混乱を防ぐため、口外しないようにと注意されている。もちろん、和基も透もはなから誰かに言うつもりはなかった。

 もし本当のことを言ったとしても信じてもらえないだろうし、なにより茉優の死を悲しむ人たちを困惑させるような真似はしたくなかった。


「まぁ、あいだをとってメイド喫茶アンド執事喫茶ってのはどうよ?」

「メイド服という考えから離れろ、この変態!」


 同級生の死の真相を知らない彼らは元気に話し合いを続けていた。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて。ほら、せっかくならお化け屋敷喫茶なんてどう?」


 言い争いがエスカレートしつつあったため、和基が声をかけるとお調子者の男子生徒を殴ろうとしていた女子生徒の動きが止まる。


「お化け屋敷喫茶?」

「そう! 一ヶ月遅れのハロウィン的な感じでさ。教室内の飾りをお化け屋敷風にしてみるってのはどう?」

「いいじゃん、それ!」

「メイドとか執事みたいなコスプレをするなら衣装代で予算がかさむけど、それくらいなら画用紙とかで済むから助かる!」


 和基の提案にうんうん、と教室中のみんなは満足そうに頷いた。

 出し物は喫茶店。コンセプトはお化け屋敷風。そこまで決まると次はメニューをなににするかという話題に移行した。


「既製品しかだめなんだよね?」

「うん。一年生は手作りお菓子とかは食中毒とかの、もしもの問題が起きたらだめだから、飲食系の出し物をする場合はスーパーとかで買ったお菓子とジュースしか出さないでって言われてるんだ。三年生は手作りのものを提供しても大丈夫なんだけどね」


 女子生徒の疑問に文化祭進行委員は頷いた。


「せっかくなら提供するお菓子もお化け屋敷風にしたいよね」


 教室の端でううんと唸っていた女子生徒が声を上げる。


「お化け屋敷風お菓子ってなに? どんなのか想像つかないんだけど」

「カボチャ味のお菓子とか? ああ、でもそれだとハロウィンになっちゃうか」

「お化けとか描いてある紙コップや紙皿を使ったら?」

「ああ、いいね、それ! さすが瑠璃川くん!」


 興味なさそうにしていた透だがしっかりと話は聞いていたらしく、お化け屋敷らしさに迷っている生徒たちに助言をすると女子生徒は手を叩いて透を誉めた。しかし。


「なにがさすがなんだよ、気持ち悪い」

「おい、聞こえるって」


 和基の後ろの席の男子生徒たちは透のことが気に入らないようで、背後から聞こえるひそひそとした内緒話に和基はいらりと眉を顰めた。

 クラスメイトたちは個別で対応すると悪いやつらではない。けれど透が関わると、途端に透を卑下する者が現れる。それが和基には不愉快でしかなかった。


「後ろのお前らー、さっきからなにも案出してないけど、なんかねぇの?」

「えっ」

「あっ、いや、俺たちはべつに……」


 和基が笑顔で振り向くと、透の悪口を言っていた二人は顔を引き攣らせて首を横に振った。

 本人に直接言うわけでもなく、かげでこそこそ悪口を言っているのは気に入らない。だが彼らには人前で堂々と悪口を言うほどの勇気はないのだろう。和基ににっこりと笑顔を向けられて、俯いてすっかり黙り込んでしまった。


「じゃあ、いくつかのグループに分けようか」

「みんな知ってると思うけど、文化祭は二日間あって、一日目の金曜日は校内の生徒たちだけのお祭り。そして二日目の土曜日は校内の生徒以外にも近所の人とか一般の方も来る。だから二日分の接客当番とかを決めないといけないの」

「りょーかい」


 文化祭進行委員と、文化祭の準備に乗り気な女子生徒たちの言葉にクラスメイトたちは頷く。


「あとは買い出しも必要だね。先生が必要なものをリストにまとめたら買いに行くときに車出してくれるって。あと教室内を飾りつけもしないと」

「文化祭当日はこの教室で喫茶店をするんだよね?」

「うん。だからせっかく飾りつけを作っても、授業がある時間帯は邪魔だからどこかにしまっておかないといけないんだ」


 文化祭進行委員の言葉に、女子生徒はひらいめいた顔をして提案した。


「先生に頼めば? うちの担任、担当科目理科だから理科準備室の鍵持ってなかったっけ?」

「それいいね。そうしよう」


 これで文化祭当日の飾りつけを作って保管しておく場所も確保できただろう。

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