第11話

「ではでは、このフィアン、じゃなかった。遺体は回収致しましょう。東雲警部はこれからどうされるので?」

「いちおう付近の監視カメラを見て回る。これも後片付けのひとつだからな」


 変態研究家の質問に紅李は素直に答えた。

 被害者が化け物とは言えこれが殺人である以上、遺体を回収して終わり、というわけにはいかないのだ。


「おお、お疲れ様です。疲れたらいつでもうちの研究室に来てくださいね。コーヒーでもお出ししますよ」

「いらん。コーヒーカップから俺の唾液でも回収する気だろ」

「ええ、もちろん。我々には見えない化け物が見える人間の細胞、眼球! ぜひとも調べたいものです」

「お前のラボには絶対に行かないねぇよ」


 紅李に拒絶されて、残念そうな顔をしながら変態研究者は遺体を載せたバンに乗って帰っていった。


「さて、カメラを見て回るか」


 紅李は規制線の外に出た。それと入れ違うようにして複数の人間が事件現場に入った。彼らは特務課から秘密裏に依頼を受けている掃除屋だ。

 化け物の血は深く染みつき、なかなか落ちない。なので彼らのような掃除のプロに黒い血をとってもらい、事件現場をきれいにしてもらっている。

 紅李は頼んでいないので、おそらく特務課課長が変態研究者に電話するついでに清掃の依頼もしておいてくれたのだろう。


「こっちは住宅街か……」


 現場を離れた紅李の右手に見えるのは若者に人気だという繁華街。左手に見えるのは静観な住宅街だった。

 今回の事件の犯人は人間。そしてあの遺体周辺に飛び散った血の量から犯人は返り血を浴びている可能性が高い。

 もし返り血で汚れた服で逃げるとしたら、人の多い繁華街か静寂な住宅街のどちらに逃げるか。そんなもの、人気ひとけの少ない住宅街に決まっている。

 紅李は住宅街の方へと歩き、玄関先に監視カメラを設置している家庭に許可をとってカメラの映像を確認する。

 ちなみにいうと、化け物はカメラの類いには映らない。なのでこのカメラに映し出された時点で犯人は人間なのだ。

 もちろん、今回の被害者のように人間に擬態した化け物だとしたら映ってしまうのだが。


「まぁ、それはねぇだろうな。いくら人間に化けてたとしても、化け物なら凶器なんて使うはずがねぇ」


 監視カメラのすべてを回収し、紅李は警察署の特務課で頬杖をついて映像をひとつひとつ確認していた。

 事件が起きたとされる時間帯は事件発覚から昼間までの間。昼頃には現地の人間が釣りをしており、そのときには誰もいなかったと証言している。そのため昼より前に犯行が行われた可能性はない。


「昼から事件の通報があった四時間の間になにがあったのか。だれが化け物を殺したのか。ふぁぁ」


 特務課の部屋に誰もいないので、紅李は遠慮なく欠伸をした、そのとき。監視カメラの映像に怪しげな二人組が映った。


「ちっ、画質がわりぃな。背丈からしてガキか?」


 映像に映っているのは学生くらいの身長をした男二人組。紅李がこの二人を怪しいと思ったのは、奇妙な歩き方をしていたからだ。

 男の一人がもう一人の男に肩を貸し、引きずるようにして歩いている。画質が悪いせいで断然はできないが、服装もまだらに黒ずんでいるように見える。


「顔は……見えねぇか」


 映っていた映像では顔の確認まではできなかった。しかし、監視カメラは他にもある。

 紅李はこの二人組がどのような経路を歩んだか、黙々と確認していく。


「ほぉ、あいつらか」


 残念ながら監視カメラの映像では、二人の行き先は分からなかった。しかし、最後に監視カメラに映った場所に赴き、周囲を散策しているとそれらしき二人組を見かけた。

 住宅街の中にポツンとある、グラウンドほどの大きさの公園。そこのベンチに、疑わしい二人が腰掛けていた。

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