作文
坊やが宿題で書いた作文を読み上げている。
「将来の夢」
「ぼくはしょうらい、道鏡のような立派になりたいです!」
それを聞いて、ママが坊やをたしなめた。
「なんか変ね。そこは、『道鏡のような立派な人』とか、せめて『道鏡のように立派に』と書くのが正しいんじゃないの?」
けれど坊やは、「パパはこれで合ってるって、言ってた」と反論した。
ママは野球中継に夢中になっているパパの背中に怒鳴った。
「ちょっとアナタ、子供の宿題くらいちゃんと見てやってよね!」
なんだよ今いいとこなのに…、と面倒臭そうにパパは振り返ると、
「ああそうか。君は奈良に来て日が浅いもんなあ」
と、ひとり頷いた。
一家は遠方に住んでいたのだが、仕事や育児の都合で、今年からパパの実家である奈良に引っ越してきたのだ。ママにとっては奈良という土地に縁がなく、道鏡が昔の有名な僧侶であるという事くらいしか知らないのだった。
「いいんだ、それで。男は皆、同じ夢を持っているよ」
道鏡と言う人はそんなに男の憧れる人物なのだろうか、と怪訝な顔をするママには目もくれず、パパは息子を愛おしそうに眺めた。
「僕の子供だから期待はできないけど、せめて人並みに育ってくれたらいいさ」
息子の健やかな成長を望むパパの顔はなぜかしょんぼりとしているように見えた。
【なんのこっちゃわからない方のための解説】
道鏡:奈良時代の僧侶で、病気がちだった女性天皇専属に看病人として仕えた。
やがて帝の寵愛を得て出世を重ね、皇位簒奪を企んだと言われている。
一説によると「立派な〇〇〇」の持ち主であり、自慢のソレで帝をメロ
メロの言いなりにして権力を奪ったとされている。
真相は不明だが、後者のほうが男にとって夢のある話だからか「道鏡と言えば
デカ〇〇」というのが世間一般の認識である。知らんけど。
それにしても小学生でそこに憧れを持つとは末恐ろしい坊やである。
短編集 鹿の国から @seasidejetcc
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます