ド田舎に住む俺。異世界の騎士姫と出会う。
千歌と曜
第1話 出会い
「ああ~~~~~、やっぱり、田舎はいいな~~~~~~~」
青い空。白い雲。雄大な山々と広々とした畑。空気は新鮮で美味しいし、こうして朝起きて綺麗な景色を眺めながら伸びをしていると清々しい気持ちになる。いやあ、ホント、田舎に生まれてよかった。
毎朝ポストの新聞を取りにくるたびに感じるささやかな幸せだ。
そんな風に、田舎の夏休みを満喫していると、突然、すぐ横に魔法陣が現れた。
「ん?」
そう。それは、紛うことなき魔法陣だった。なんかこう、五芒星があって、それを〇で囲んでて、光ってる奴。アニメで見る時、綺麗だな~なんて思ってたやつだ。
ごしごしと目をこする。見る。魔法陣がある。いや~、はは。なんか、俺、夢でも見てる? と笑いがこみ上げそうになった瞬間、それは現れた。
「ぐっ、う、あ……!」
いきなり、その魔方陣から騎士が飛び出してきたのだ。そうして、凄まじい勢いで、田舎の道をがっ、ごっ、と転がると、その剣を大地に刺して、踏みとどまった。
「はあ……はあ……ぐっ」
鎧はところどころひびが入ったりかけたりしていた。どうやら女の子のようで、しかも、金髪だった。長い金髪をポニーテールにしているその子は、やはり外国人だろうか? なんてことを、何もない空間に現れた魔法陣から女の子が飛び出してきたという非日常を目の当たりにしながら考える。
「? ……ここは? あっ、待て!」
女の子騎士は、甲冑に包まれた手を魔法陣に伸ばす。それにつられて女の子から魔法陣に視線を移すと、まさにその瞬間、魔法陣が消え失せた。
「……なぜ、なぜ、こんなことを! アイリス! わたしだけ、生き残って、そんなの、意味がないのに!」
女の子騎士は、その可愛らしい表情を歪め、心の底から悔しそうに、悲しそうに、何事かを叫んでいた。
ふー。とりあえず、真っ青な空を見上げる。綺麗だ。この空をみるだけで、心が澄んでいく。……さて、そろそろ、現実を見ようかな。
「もし、そこのあなた」
「うおああああ! まだいたあああ!」
きっと、日々の疲れでストレスを抱えた俺の心が見ている幻覚だと思った。だから、田舎の空で心をピュアにすれば、消えると思ったんだけど……ばりばりいるね!
てか、明らかにこの子実際に存在しているね!
「ここはどこの国ですか!? 転移魔術を使える魔術師はいますか!? 至急わたしをエルトルリアに転移させて欲しい!」
「いや、ちょ、待って!」
ぐいぐい来る。え、なにこの子コスプレ……にしてはクオリティ高すぎい! この鎧、明らかに本物っていうか、かなり高価なものであることが素人の俺でも一発でわかるレベル。コスプレが趣味で好きなキャラになりきっている子かと思ったけど、それじゃあ、さっき魔法陣から現れた説明がつかない。てか、それより……
「?」
この子、可愛い! 至近距離でちゃんと顔を見たら、一発で恋に堕ちるレベル! くっきりとしたエメラルドグリーンの瞳。すっととおった鼻筋。きゅっと結ばれた意志の強そうな唇。ポニテにされた長い金髪も綺麗で……てかこれ以上見てたら、恋に落ちるわ!
「〇✕□☆△◇」
あと、この子。何言ってるかわかんない。なんか、必死に俺に何を伝えようとしているみたいだけど……え、ちょ、マ? マジでこの子、異世界からやってきた女の子だったりする?
「もしかして、わたしの言葉がわからないのですか? それなら……」
「え、ちょ、なに!?」
女の子はいきなり俺の額に光る指を押しあてた。
「言語理解の魔術を使用しました。わたしの言葉がわかりますか?」
「え!? あれ、わかる!」
マジで!? さっきまで何言ってるか全然わかんなかったのに!
「お願いがあります! 教えてください! この村に、転移魔術師はいますか!? いなければ、転移魔術師のいる最寄りの教会まで案内をしてください!」
「…………」
内心で、俺はどうするか考えた。現実的には、この子は他人を巻き込んでまでロールプレイを楽しむコスプレ娘。しかし状況的には、この子はマジの異世界人の可能性がある。とんでもない事態に俺の脳はまだ追いついていないが……いずれにしても、女の子が必死なのだから、真面目に答えようと思った。
「えと……すみません。転移魔術師はいません」
「そうですか……では、他の村や町に」
「いえ。その、この世界のどこを探しても、いないんです」
「!? あなたは何を言って……」
「あの、この星の名前、わかりますか?」
「星の名前?」
いきなりのことに面食らうも、女の子はすぐに答えた。
「星の名は、セフィリア。偉大なる精霊姫を冠する名です」
おうふ……。俺の心に、痛みが走る。
「ここは、セフィリアじゃありません」
「……え?」
「この星の名は、地球。そしてここは、その星の中の日本という国にある……ど田舎です。つまり、あなたは、別の星に来たんです」
がらん。女の子が、その手に持っていた大きな剣を落とした。
「そんな……そんな馬鹿なことが……」
そこで、女の子ははっとする。その視線は、俺の服装に向けられていた。なんの変哲もない、Tシャツとズボン。夏だし、夏休みだし、自宅だし、こんなもんって感じのラフな格好。……そんなお洒落とはほどとおい格好が女の子に絶望を与えた。
それはそうだと思う。明らかに、女の子住む星とは、違うファッションだろうから。
「うあああああ!」
がくりと膝をついた女の子は、拳を大地にうちつけ、慟哭した。見れば、ぼたぼたと涙を流していた。
「こんな、こんな大事な時に! わたしは! ……アイリス! セグルド! クレセント! ……い、今すぐ、今すぐ、戻らないといけないのに!」
「……あの」
俺はためらないながらも声をかける。
「とりあえず、俺の家にあがりませんか? 傷の手当てをした方がいいです」
「そんな暇は!」
「力になります」
「!?」
決意を込めて、そう伝えると。息を詰まらせたように黙り込み、女の子は瞳を見開いた。
「何ができるかわからないですけど、それでも、俺、力になります。だから、俺を信じてもらえませんか?」
そう言って、俺は手を差し伸べる。……うん、まあ、正直、全然心が追い付いていない。女の子の事情はわからないし、俺に何ができるかもわからない。それでも、女の子が困ってたら、助けるのが男だ!
「……」
じっと、女の子は俺の目を見つめていた。やがて、その瞳が俺の手にうつり……そろそろと、何かに縋るように、伸ばされた。
「俺の名前は、春日部誠。君の名前は?」
「わたしの、名前は……」
一瞬、こくりと喉を鳴らしてから。
「リリア。アッシュレイン王国第一王女。リリア=ハルン=アルステリアです」
そうして、俺と女の子……リリアの手は重なった。
高一の夏休み。ド田舎でゆるゆるに生きてきた俺が、まさかあんなファンタジーな展開に巻き込まれることになるとは……この時はまだ知らないのだった。
ド田舎に住む俺。異世界の騎士姫と出会う。 千歌と曜 @chikayou
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