浪人と妖刀と黒幕
「この騒動の原因が貴方方なら、ここで討伐せねばなりませんが」
座長が戦闘態勢に入る。それと同時に、浪人と妖刀、陰陽師、鎧に骸骨その他、戦えるものが全て牙を剥く。
「ちょ、ちょっと待ってクダサイ! 話を聞いてくだサイ!」
吸血鬼が両手を振って弁明を開始する。人狼はさっきからかちこちに固まって、動かない。恐怖というよりは、人前に出て単純に緊張しているようだ。
「皆さんは、『バックベアード』という名前を、聞いたことがありマスカ?」
座長が少し反応したものの、その他の者はぽかんとしている。
「ば、ばっくべあーど?」
「ハイ! アメリカ…貴方方がメリケンと呼んでいる国の、妖怪のビッグボス、つまり総元締めのような方なんデスガ」
「なるほど…、黒船ですね。最近、浦賀に入ったとの情報があります」
座長の言うとおり、浦賀にメリケンの『黒船』と呼ばれる艦隊が来航していた。
「僕たちは、人間とは違う『西洋妖怪大使』の任をバックベアード様から受け、黒船に同乗していたのデス」
「人間たちの事情などはよく知らんが、やはり他の国や文明に存在する魔族のことは、知っておいて損はないカラナ」
「あ、ちなみに彼の言う魔族とは、こちらでいう妖怪と同じものデスヨ」
浪人が疑問を呈する。
「じゃあ何故、お前らは今まで日本に入ってこなかったんでぇ」
「それは多分、日本の妖怪や霊たちも同じだと思うのですが、『我々は門戸が開かれなければ中に入れない』からデス。人間だって、扉に鍵がかかっていると、入れないデショウ?」
「ま、そりゃ確かにそうだわな」
「同じです。扉は結界なんデス。人間も妖怪、霊も、相手が招いてくれない限り中に入れナイ」
「それで今回は、江戸幕府が一応許可を出したから、入ってこれたってわけか」
「ただ、そこで大きな間違いが起きた」
座長が口を開く。
「そういうことですね。吸血鬼殿、人狼殿」
「ハイ…。僕たちはアメリカの船に乗ることを許された、外国の妖怪デス。ですので、乗船の際に、バックベアード様にも挨拶に伺ったのですが、その挨拶伺いの我々の一行に、バックベアード様の息子さんが紛れ込んだヨウデ」
しどろもどろで、説明をする吸血鬼と人狼。嘘はついていないようだ。
「まぁ、それはわかったんだが、今回の騒ぎとそれが、どう繋がっているんでぇ?」
「ハイ。いくら幼いとは言え、バックベアード様のお子さんです。その魔力は、他の魔族、魔物や霊を圧倒していマス」
「魔力?」
「お、恐らく霊力や妖力と同じもの、だと思います…」
「ああ、なるほど。すまねぇな、続けてくれ」
「ハイ。まぁそれで…バックベアード様のお子様…これからはジュニア様とお呼びしますが、ジュニア様も、最初は良かったのです。初めての船旅、たくさんの人間がいるところも興味があったようで、眼を輝かせていまシタ」
「なるほど」
「日本に到着したときも、珍しい異国の人々や風景に喜んでいたんでスガ…日本のまぞく…妖怪たちや、霊たちを見て、故郷を思い出してしまったんでショウ。それからです。船にまとわりついてきた悪霊や、こちらの悪い霊が活性化したノハ」
「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあこちらの今までの騒ぎの原因って」
「ハイ。ジュニア様の『グズり』デス」
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