浪人と妖刀と侵略者
江戸八百八町。天下は少し乱れ、悪霊悪鬼が跋扈するようになっていた。
そんな町の平和を守るために、にわかに忙しくなっている浪人と妖刀。
「おい、最近不自然に悪霊が増えていねぇか。これで何件目だ」
「ふははは。浪人。俺はこういう荒事が大好きなのでな。楽しいぞ」
「けっ、実際に身体を動かす身にもなってみやがれってんだ」
あの臆病な陰陽師も、この悪霊の大襲来によって、連日駆り出されている。座長率いる歌舞伎座もその対応に追われ、しばらく興行が打てない始末だ。
浪人や陰陽師、他の座長直下の戦闘員も、さすがに疲労の色が濃い。戦死者が出ていないだけ、まだ幸運と言って良いだろう。
そんな忙しないなかで、お奉行や座長、陰陽師に浪人、妖刀と、主要な人物と竹光が集まり、原因を探るための会議が行われたが、ここである妖怪の名前が浮上する。
「…神野悪五郎?」
「はい。この日本には、妖怪の二大勢力が存在します。一つが山ン本五郎左衛門様率いる、人間に与する勢力。そして、日本を征服しようと暗躍する魔王、神野悪五郎の軍団です」
「今回の騒ぎは、その神野悪五郎が画策してるってことか?」
陰陽師が口を開く。
「いえ…。そ、それがはっきりしないんです。式神や占術を駆使しても、何も出なくて…」
「ううむ…」
すこしの沈黙の後、座長が言う。
「しかし、ここまで大勢の悪霊を、この江戸に送り込めるのは、私の記憶では神野悪五郎しかおりません。日本を征服するという野望を持つ彼奴が、今まで沈黙していたのも兵力を充実させるためでしょう。彼奴ならやりそうなことです」
「例えば」
熱くなっている座長を抑え、浪人が問いかける。
「例えば、その神野なんとかが黒幕として、その山ン本五郎左衛門というやつは、俺たちに加担してくれるのか? 人間に与するというが、そいつは人間を助けてくれたことがあったのか? 悪いが、俺は神野とやらも山ン本とやらも、どちらも信用できねぇな」
座長は静かに、それでいて怒りを顕にして答える。
「山ン本五郎左衛門様をそれ以上侮辱すると、貴方とて許せませんよ」
「面白い。浪人と俺を相手にして、無事で済むと思っているのか」
妖刀がかたりと鳴り、座長を挑発する。
「やめんか!」
お奉行が一喝し、場はひとまず静まる。
「今は仲間内で争っている場合ではなかろう」
「お奉行様。僭越ながら、一言物申しても?」
お奉行は静かに頷いた。
「座長よ。俺ぁ山ン本とやらを侮辱したいわけじゃねぇよ。その神野ってやつも同じだ。俺ぁそいつらのことを今、お前に聞くまで知らなかったし、今も名前以外は知らねぇ。これじゃ信用もくそもねぇ。じゃあどうすりゃいいか、わかるかい」
座長は文字通り狐につままれたような顔を、横に振った。
「直接会いに行けばいいんだよ。そのほうが話が早えや」
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