浪人と妖刀と神様

 時量師神(ときはからしのかみ)。時間を司る神。不思議な衣装を着た少年は、たしかにそう言った。


「極稀に、僕の神威が鳥居の外に溢れちゃって、時間の穴、のようなものを空けちゃうんだ。そこにたまたま入り込んでしまった生物は、どこかの時代に飛ばされちゃう」

「いや、それはちょっと…ダメなんじゃないかなと思うんですけど…」


 元被害者である男が、悲痛な訴えをする。


「うん。だから僕もそれで飛ばされちゃった人たちを探して、元の時代にちゃんと戻してるよ。時間はかかるけど…。そう言えば、あの陰陽師の術。あれは中々良かった」

「そうなんですか?」

「あの術のおかげで、僕は早めに君を認識して、元の時代に戻せたんだ」


 一番の謎は、なぜ男と一緒に浪人、ついでに妖刀もこの世界に来たかということだった。


「それはね、君たちが『似ている』からじゃないかな」

「似ているとは…いったいどういうことで御座るか」

「素の喋り方で良いよ」


 時量師神は微笑みながら言う。「変にしゃちほこばられると、なんか痒くなっちゃう」のだそうだ。


「じゃあお言葉に甘えるぜ。同じってのはどういうことだい」

「うーん、なんというか、魂の質が似ているんだよね。まぁそこは僕にも詳しいことはわからないけど、そのせいで引っ張られてしまったのじゃないかな」

「ふうん…? よくわからねぇが、まぁなんか男と俺は繋がってるってわけだな」

「ふふ、そうだね」


 時量師神は、この妙な訪問客を元の時代に戻すために精神を集中させ始めた。神と言えど、時空を移動するのはやはり骨が折れるようだ。


「さぁ、そろそろ君たちを君たちの時代へお送りするよ。準備は良いかい?」

「ああ…。男、いろいろ世話になったな。ありがとうよ」

「いや、こちらこそです。貴方方がいなければ、多分僕はまだ別の時代で絶望していたと思いますから…」

「そう言ってもらえると、ありがてぇや。剣術、極めろよ!」


 そう言い終わるやいなや、浪人と妖刀の姿が一瞬光り、かき消すようにいなくなってしまった。元の時代に戻ったようだ。


「行っちゃった。…そうだ神様、僕と浪人さんの魂の質が似ているってどういうことなんですか?」


時量師神は顎に指をあてながら、考えるように答えた。


「そうだなぁ。なんというか、家族とか身内…そんな感じがするね」

「そうですか…ありがとうございます。ところで、またここに遊びに来ても良いですか?」

「いつでも大歓迎さ。今度はお供物を持ってきておくれよ」


 その夜。男が自宅でくつろいでいると、どこからか声がする。「ここから出せ」と言っているようだ。男は半ば確信めいた動きで、竹刀や道着の置いてある部屋へ向かう。


「おい男、俺をここから出せ…」


 確かにこれから声が聞こえる。男は袋から竹刀を取り出した。


「おお、やっと出られた。いいか男、俺は妖刀の魂。代々お前の家系に取り憑いているものだ。俺は人間の血が好きでな、お前も腕は立つようだがそれ以上に俺が存分に働かせてやる。お前の戦の英雄という地位は約束されたぞ、喜べ。さぁ戦場はどこだ。今宵の俺は血に飢えておる」


 機嫌よく語る自分の刀に呆然とする男。そして微笑み交じりに言った。


「それ、竹刀なんだけど」

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