第13話
「お祖母様がセラム王国の人だったの? 知らなかった!」
母の昔話を聞いて蓮花は驚いていた。まさか自分にセラム王国の血が入っているなんて思いもしなかった。
「私も天聖国で育ったし、セラム王国のことなんて全然知らなかったもの。あなた達には必要があれば伝えようと思っていたけど、そんな状況なかなか無いからね」
蘭玲はクッキーを飲み込み蓮花に答えた。確かに蓮花も自分の家族の来歴を知ろうとする状況には今まで陥った事はなかった。母の言うことも最もだ。
「ねえ、蓮花。ところで――このクッキーはどなたから頂いたのかしら」
「え?」
先程までの笑みとは違うにやりとした笑いを浮かべた母に蓮花はどう説明するかと逡巡した。飛の事を説明しようにも彼の身元は何も分からない。そういえば彼の目はとても綺麗な翡翠色をしていた。そう思い出した蓮花はにっこり笑って言った。
「とても綺麗な翡翠の目をした方よ」
蓮花は飛から渡されていたクッキーの器をいつでも返せるように職場に持ってきていた。しかしなかなか飛の姿を見かけることがなく、返せずじまいで一週間ほど経ってしまっていた。蓮花は器をどうするべきかと思い始めていた。
今日の休憩場所はどこにしようかと外を歩いていると蓮花は花が広がっている場所を見つけた。珍しいと思い足をそちらに向けた。
緑門を抜け広がった景色に蓮花は思わず圧倒された。緑の草気が壁のようになって通路を作っており、曲がった場所を覚えておかなければ戻れなくなるかもしれない。まるで迷路のようになっている。草木の壁には色んな花があり、種類は多いのに色や大きさの調和が取れていてごちゃっと見えないのが素晴らしい。
「すごいわ……」
観察しながら進むと少し開けた場所にでてきた。中心には小さめの東屋があった。椅子があるのを確認し、蓮花はそこで休憩することに決めた。
東屋の影に入りそよ風が花のいい香りを運んでくる。周りを見て誰も居ないことを確認し目を閉じて力を抜いた。
「っ!」
いつの間にかうとうとしていたのか自分の首が横に振れた衝撃で意識を取り戻した。欠伸を噛み殺して腕を上に伸ばす。
「随分お疲れの様だな」
「――!!」
突如横から聞こえた声に蓮花は上げていた腕を急いで縮めた。そこには蓮花の横に腰掛け、背もたれに置いた腕で肘をついた飛がいた。
「い、いつから」
「心配するな、私しか見ていないよ。私が来てからは少ししか時間は経っていない」
飛に気づかず欠伸や伸びをしてしまったことに気付いたが今更取り繕うことも出来ず蓮花は身を縮こませるしか出来なかった。
「お見苦しい所をお見せいたしました……」
「私の方が後から来たんだ。むしろ邪魔して申し訳ない。見知った顔を見つけてついつい座ってしまった」
飛の翡翠の瞳と目が合ってしまい、羞恥が湧き上がり自分の膝に目線を落とす。
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