第14話
何か、話すことはないかと頭を巡らせた。蓮花はせっかく会えたのに器を持っていないことに気付いた。
「先日はクッキーをありがとうございました。家族みんなで頂いて、喜んでいました。今は器を持っていないんですが今度お返ししますね」
「それは良かった。器のことは気にしないでもいい。ちゃんと蓮花も食べたか?」
自己紹介してから初めて飛に名前を呼ばれた。その事に気付き意識しないように務めた。同世代の男性に耐性がないため、蓮花はすぐ赤くなってしまう。平静を装いながらその問いに頷く。
「ええ、ついつい手が伸びてしまって……。食べすぎてしまいました。すぐに手に入る物でなくて良かったです」
「何故だ?美味しいのなら沢山食べればいいのに」
「食べすぎて太ってしまってはいけませんので」
不思議そうな顔をする飛にそう返したが疑問は解消されなかった様だ。
「我が家は諸事情がありまして、嫁の貰い手がつくかどうか分からないんです。ただでさえそんな状況なのに太ってしまっては可能性が絶望的になってしまいますから……」
「人の見た目で美醜を決めるやつの嫁になんてならない方がいいさ。――それにいくら見た目を着飾っていたとしても心が醜いやつもいる」
飛は何か思うところがあるのか遠くを見ている。かと思えばさっきとは一変して口の端を上げてこう続けた。
「だから私は見た目より……例えば花を愛でる綺麗な心を持っている人の方が素晴らしいと思っているよ」
「え! そ、そうですね」
一瞬自分の事を言っているのかと自惚れそうになったが、自分が椅子に座ってからしか飛の姿は見ていないのできっと気のせいだろう。
「そういえば昨日クッキーを食べている時に、祖父母がセラム王国の出身だということが分かったんです」
「それは……すごい偶然だな。蓮花は知らなかったのか?」
飛も驚いた様子を見せる。蓮花は頷き、両親から聞いた話をかいつまんで教えた。
「私の両親はいつも仲が良くて、喧嘩もあまりしないんです。昔の話を聞いた時に両親がすごく覚悟を持って家族になったって知って、私もいつかそれくらい好きになれる人に会えたらいいのにって思ったんです」
ただの願望なんですけどね、と照れを隠すように笑う蓮花に飛は茶化したりせず真っ直ぐに蓮花の目を見て言った。
「きっと蓮花ならできるよ。蓮花に想われる人は幸せなんだろうな」
「飛様……。ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞なんかじゃ――」
「あ、休憩時間もうそろそろ終わっちゃう! 申し訳ありません、飛様。仕事に戻ります」
「……そうか、無理せずに頑張るんだぞ」
「はい、ではまた今度!」
いそいそと駆けていく蓮花の姿を見送り、飛は空を仰ぐ。その顔は本人の無意識のうちに微笑みを見せていた。
「――また今度、か」
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