第11話
食べ終えた蓮花に飛はもう一つの器を出してきた。どういうことか分からず飛の顔を見る。
「弟妹がいると言っていただろう? 持って帰って食べさせてやるといい」
「そんな、私が頂いただけでも申し訳無いのに弟妹の分まで頂けません! セラム王国のものとなると……その、金額も相応だと思いますし」
金銭の事を言及するのは恥ずかしかったが、有耶無耶にしてはいけない所だと昔から心得ていた。
「しっかり者なんだな。でも気にしなくて大丈夫。実を言うと買った訳ではなく、貰い物なんだ。つまりお裾分けだな」
「お裾分け……。そういう事でしたら、有難く頂戴いたします。実は私も弟妹達にも食べさせてあげたいと思いましたので嬉しいです」
蓮花の言葉を嘲笑うことなく説明してくれた飛にほっとして自分の気持ちを明かす。飛は器を包み直し蓮花に持たせてくれた。
「この茶色の飾りがチョコと言うらしいのだが暑いところに置いておくと溶けてしまうらしい。できるだけ涼しい所に保管した方がいい」
たしかに口の中に入れた時に氷のように溶けだした事を思い出す。蓮花は再び礼を言い、休憩が終わるからとその場を後にした。
「飛様、ですか」
「尾けてきたのか」
後ろから聞こえてくる声の主である猫の獣人の青年に向かって向ける飛の表情は、先程まで蓮花に見せていた温和な笑みは消え鋭い目線をしていた。
「そんなに怖い目をなさらないで下さいよ。寿命が縮んでしまいます」
「よく言う」
呆れた様子で話す飛。青年は飛と同じ頃合の歳をしているようだ。その場から踵を返し飛は宮廷の中に戻った。
「珍しくセラム王国からの贈答品に反応を見せたと思えばそれを持ち帰るなんて、貴方様のことを知っている者が見たらそれは驚くでしょう」
「お前しかいなかったんだから問題ないだろう。他の奴らがいる所でそんなことをしてみれば贈り先を勘繰られる。鬱陶しい事この上ない。」
「貴方様の立場では仕方ないかもしれませんが、お気の毒に」
くすり、と笑う青年にため息をつきながら飛は足を進めるのであった。
「今日は皆にお土産があるの」
夕飯が終わり少し胃袋が落ち着いた頃、蓮花は飛に貰った器を出して蓋を開ける。王偉や玲玲は前のめりで、王静や蘭翠も興味深そうに覗き込む。
「貰い物なんだけど、セラム王国のチョコチップクッキーって言うものらしいの。桃酥に似ているけど味は結構違うのよ」
「この茶色のはなあに?」
「これはチョコって言って、口に入れると溶けるの。 是非、父様達も食べてみて」
二つある器の片方を両親の前に持っていく。すると中身を見た両親は目を合わせて微笑みあっていた。
「どうしたの?」
「実は私達がまだ若い頃にも食べたことがあるんだ」
「そうだったの?」
「ええ、そうよ。懐かしいわ……」
「その話もっと聞かせて!」
そう言いながら一枚のクッキーを手に取る蘭玲。それに続いて王琳も手に取った。弟妹達は早速口に運び盛り上がっている。蓮花は両親の話をもっと聞きたくて続きを催促した。
「私の両親に――つまりあなたの祖父母ね――王琳様が挨拶をしに来てくださったの。あなたも知っている通り私の家は商家で、貴族の王琳様とは釣り合いが取れなくて、王琳様のご両親からは反対されていた。けど、それでも挨拶したいって仰って下さってね」
遠い日を思い出すように蘭玲は目を閉じて話し出す。
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