第7話
宮廷の調理場は王族や后の食事を主に作っている。その品数は一般家庭では考えられないほど多い。蓮花は初めて調理過程を見たとき、毎日献立を考える人は大変だなと思ったものだ。しかし周りの人に聞いたところ過去の献立帳があるらしく、それを参考にしつつ王族の体調に合わせて一部を変更するらしい。何に関しても膨大な記録を取る点においては天聖国らしいと言えるだろう。
蓮花のように臨時で雇われている者は、その日によって当てられる役割が異なる。先日は下げられた食器や泥の付いた野菜を洗う係だった。今日は何だろうかと当番表を見ると、今日は野菜を切る係になっている。
切ること自体は昔からやってきたので問題ないが、ネギ類だけはどうも苦手だった。蓮花は涙腺が弱いのでネギ類を切ると涙が止まらないのだ。泣いてしまうと度々作業が止まってしまう。蓮花はネギ類がない事を祈ったがそんな祈りも空しく本日の料理はネギ入りおやき【
午前の仕事を終え休憩時間になったので蓮花もお昼にすることにした。今日は風も程よく丁度いい気温だ。調理場から少し離れたところにある大きな木の根元で食べることにしよう、と決めた蓮花は荷物をまとめて外に向かった。
大きな幹の下に腰掛けお昼ご飯が入った包みを広げる。今日のお昼はこの前貰って帰った大根の残りで作った炒め物だ。お腹を満たそうと口に運んだ時。
「――くしゅっ」
「ん?」
どこからともなく誰かのくしゃみの音がした。見渡す限り人は見当たらない。蓮花は恐る恐る自分のいる幹の裏を見てみる。
そこにはバツの悪そうな顔をした青年が座り込んでいた。まさか先客がいると知らずご飯を食べ始めようとしていた蓮花は驚いた。男性にはしっぽや耳が見当たらないため獣人では無いようだ。
「先客がいらっしゃるとは知らず申し訳ありません、すぐ移動いたします」
「いや、気にせずどうかここで昼食を食べてくれ。私はもうそろそろ戻らねばならないんだ」
「……そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」
包みを片そうとした蓮花を片手を上げ制する青年に蓮花は一拍考えた後、包みを広げ直した。最初より少し座る距離が近くなってしまったが、今更距離をとるのは不自然なのでそのまま食べ進める。
すると青年の視線がその後も蓮花の方に注がれていることに気づいたので少し躊躇った後に問いかけた。
「あの……なにか?」
「ああ、不躾に申し訳ない。その料理は何かと気になってな。あまり見たことがない料理だから」
自分の手元を見て、何を見ていたのか理解した蓮花はその疑問に答えた。
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