第14話 美人の笑顔からしか摂れない栄養素があると思う

セトから逃亡した俺は、とりあえずシウとシュウの2人がログインしてるか確認した。

結果は、2人ともオフラインとなっていた。

まぁ、2人とも現実リアルの方で色々と忙しいのだろう。実際俺も仕事で3週間ログインできなかったからな。そんなこともあると思いつつも、少しだけ寂しいと思うところもある。

そんな心情で、クェルーの街を練り歩いた。


街の中央に行ってみると、噴水の近くで、芸を披露している道化師ピエロがいた。

玉乗り、そこから続いてお手玉など様々な芸を披露していく。

一通り芸が終わって道化師が一礼すると、周りで見ていたプレイヤー達から拍手が飛び交った。

つられて俺も、拍手をする。

そして周りのプレイヤー達は、置かれていたシルクハットに器用にGゴールドを投げ入れていく。

俺も真似してやってみたが、外れると思ったGが吸い込まれる様にシルクハットに入っていく。

なるほど、こういう仕様もあるのか。勉強になったわ。

俺はそのまま街の西地区へと向かう。別に神官向けの装備とかを買いたいわけでも無く、教会に寄進するわけでも無かった。

単純に時間が潰せればそれで良かったのだ。

俺はそのまま行くあてもなく西地区をフラフラと散策していた。

分かってはいたが、この地区の店は神官向けのやつしか売っていないし、教会に行けば寄進を迫られる。やっぱおじさん宗教嫌い。

まぁ、そんなこんなで西地区を歩いていくと、ボロ…みすぼらし…質素な見た目の小さな教会の前で、なんか白髪ロングの黒の神官服を着た美女(以後白髪シスターと呼称)がオロオロしながら通行人に話しかけようとして、やめてを繰り返していた。

はたから見たら、ただの奇行である。いや、ただ人見知りなだけか?

そんな風に考えながら教会の前を通り過ぎようとすると…

ガシッ!と俺の腕を白髪シスターが掴んでいた。そして白髪シスターは言った。

「お願いです…どうか、どうかお布施してください!!」

いや、通行人捕まえて言うことがそれかよ。

「いえ、結構です」

俺はそう言って断ろうとすると、

「そうおっしゃらずに…そうだ!立ち話もなんですし教会の中でお話ししましょう!!」

と言って俺の手を引く。

俺は少し抵抗してみようとしてみたが、全然動けん。そしてそのまま教会内に連れて行かれた。


密室。男と女が1人ずつ。なにも起こらないはずがなく…まぁ実際はお布施してもらいたい理由とお布施をすることのメリットを必死に説明されただけだった。

説明された内容をまとめると…

1 このままだと教会の維持費が払えなくなる。

2 お布施をした場合、不死族アンデットに対して特攻を一日だけ得ることができる

3 だからお布施してください!

ということらしい。

俺にとって利益が無い。取引として成立していないようなものだった。いや不死族に対しての特攻はメリットかもしれないが、そもそも不死族が出現するエリアに行ったことがない(そもそもどこにあるか知らない)ので、メリットにはならない。だから俺にとって利益はない。

が、こうも必死にお願いされては断るのも少し気分が悪い。

俺はため息を吐きながら、

「何Gゴールド払えばいい?」

と聞くと白髪シスターさんは目を輝かせながら、

「6000、いや5000Gお布施してもらえれば当分は大丈夫です!」

と満面の笑みでそう言ってきた。

俺はストレージから5000Gを取り出すと白髪シスターさんに手渡した。

白髪シスターさんはそれを受け取ると、多分この世界の神様の石像の前に5000Gを置き、ひざまづいて祈りを捧げるような感じで手を合わせると、5000Gが謎の力によって(多分)宙に浮かぶ。そしてそのままスゥーと消えていった。

それが終わると白髪シスターさんは満面の笑みでこちらに小走りで近寄ってくると、俺の両手を掴んでブンブンと上下に振りながら、

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

と言ってきた。

俺は「どういたしまして」と返し、

少しだけ話をした。

白髪シスターさん曰く、前はよくお布施してくれた人がいたのだが拠点を別の場所に移したのか少し前から来なくなった。

毎日来なくてもいいので3日に一度くらいは来てほしい。

という感じの話をした。

俺としては、メリットはそんなに無いが、

白髪+シスター+美人からしか摂れない栄養素があると思うので快諾した。

すると、白髪シスターさんは満面の笑みを浮かべながら、

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」

と感謝の言葉を述べてくれた。

うん。やっぱり美人の笑顔からしか摂れない栄養素があるね。これは学会に報告しなきゃ。

そんな事を考えていると俺の頭の中から謎の声が聞こえてきた。

『名前を…目の前の白髪シスターさんから名前を…聞くのです』

誰だお前は、と返すと謎の声はさらに返してきた。

『黙りなさい。いちいち白髪シスターさんって入れなきゃいけないある者の気持ちになってみなさい。分かったらさっさと名前を聞ーけ聞ーけ聞ーけ』

そう言って謎の声は聞こえなくなった。

んん?俺は誰と会話をしていた?

必死に思い出そうとしてみるが思い出せない。

思い出そうとウンウンと唸っていると、白髪シスターさんが下から俺の顔を心配そうな表情で覗き込んできていた。

俺は思い出すのをやめて白髪シスターさんに話しかける。

「どうかしましたか?」

そう聞くと白髪シスターさんが、

「あっ、いえ…急に真剣な表情をされたのでどうかされたのかと…」

と返してきた。

俺はなんでもないですよ。と返して、そういえば名前を聞いていなかった事を思い出した。

「そういえば名前を聞いていなかったですね。俺…私の名前はベルスケ。気軽におじさんと言ってくれてもいいですよ」

と営業モードで問いと自己紹介を済ませると、

白髪シスターさんも、

「私の名前はメリアと言います。えっと以後よろしくお願いします」

と返してきた。

俺はそのままメリアさんと世間話をして、教会を後にした。

それにしても…メリアさん美人だったなぁ…いやセトとシウも美人だけどシウは子供だし、セトはうん、まぁ、そのアレだ、あのまないt…おっと誰か来たようだ。何故だろう猛烈に嫌な予感がする。こういう時は・・・三十六計逃げるに如かず!!

俺は過去最速でログアウトのボタンを押した。






ハッ!何処かで誰かが私のことを馬鹿にしている気がする。

そんな事を急に叫ぶ王森人がクェルーの門で目撃されたらしい。



___________________________________________ワーアルモノッテダレノコトダロウナーワカラナイナー(棒読み)




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