第13話 脳筋王森人襲来
俺は、仕事の疲れからほぼ丸一日眠っていたらしい。
現在時刻は午後7時。昨日は午後10時ちょっとに退社して、11時30には家に着いたので、約20時間ぐらいは寝てたな。と寝ぼけた頭で計算した。
それから俺は、着替えて、飯を食って、風呂に入ってから、リビングでソファーに座りながらぽけ〜と考え事をしていた。
今日から1週間はお休みがもらえたし、どうしようかなと考えていると、やっぱりゲームだろ、と思って、寝室からゲーム機本体を持ってきて頭につける。
そしてゲームにログインした。
クェルーの街の初期リスポーン(ゲーム開始時に俺がいた所)に降り立った俺は、まずシウとシュウの2人がログインしているか、メニューのフレンドの所から確認すると、オフラインとなっていた。
これは困った。
「あれ〜?犬す…ベルスケじゃん。こんな所で何してるの〜?」
脳筋王森人改めセトがそこにいた。
俺は、すぐに逃げる向きを変えたがセトに首根っこを掴まれる。
「ぐげぇっ!」
首が締まって、変な声が出た。
俺は首を掴んでいる手を剥がそうと必死に抵抗を試みたが、万力のごとく俺の首を固定している手を剥がすことは叶わなかった。
セトは俺を俵担ぎをして、歩き出した。
俺はそのまま、
どうやら、セトは俺を街の南地区に運んでいる様だ。何回も通った道なのでよく覚えている。
周りのプレイヤーからの視線が痛いが、抵抗しても無駄なので、おとなしく運ばれる。
少し経って、ある建物の前で止まった。
セトは俺を下ろすと、
「少し待ってて」
と言って、建物の中に入っていく。
俺は暇だなぁ〜と思っていると、周りのプレイヤーからの視線が俺の腹、丁度へその辺りに向いていることに気づいた。
俺は、首を下に向けて見てみると、腹の辺りの布が破けて、思いっきり腹が見えてしまっている。
俺は急いで腹を手を組む様にして隠すと、周りのプレイヤーのクスクスという笑い声が聞こえる。
俺は、恥ずかしくなってそのまましゃがみ込んでしまった。
その時、丁度セトが建物から出てきた。
俺は顔を上げて、
「セト…お前さぁ、気付いてたんなら教えてくれても…「いいから入って!」」
あっハイ。
俺は駆け込む様にして、建物に入った。
俺は、建物に入ると、まずなんか筋肉を見せつけてくるマッチョマンに羽交締めにされてある部屋に連れて行かれた。
うん、この
そしてなんか、ある部屋にぶち込まれ、マッチョマンが両手に服を持ってこちらににじり寄ってくる。俺は、
「まぁ、落ち着こうぜ。な。な」
両手を突き出して、落ち着かせようとするが、まぁ
そうして着せ替えショーが始まった。
私が部屋に行くと、ベルスケがパーティメンバーの1人に着せ替え人形にされていた。
シックなスーツだとか、現実世界にもありそうなラフなTシャツだとか、逆にゴスロリ服だとか、色々だ。
着せ替え人形にしている、
「あらぁ、セトちゃん。こんな磨けば光る様なオトコをどこで見つけてきたのォ?」
と聞いてきたので、
「その人は、いわゆる幼なじみというやつです」
と返すと、パーティメンバーの1人が、
「アラァ、それじゃあいつもよりも気合いを入れてコーディネートしちゃうワッ!」
そういうと、さらに大量の服を持ってくる。
ベルスケは、もうやめてくれよ。と言いたげな目でこちらを見ているが、無視する。
後に残ったのは、絶望した目をしたベルスケだけだった。
よ…ようやっと…終わっ…た。
俺は、よろよろと立ち上がると、部屋から出ようとした。
しかし、セトが俺を引き止めると、
「じゃあ、行こうか?」
「ふぇ?」
変な声が出たが、仕方ないだろう。
だってようやっと地獄が終わったと思ったら、まだ続くんだぞ。変な声が出ても仕方がないだろう。
「了解〜」
俺はそのまま、セトとマッチョマンに両手と両足を持たれて運ばれていった。
運ばれる途中で、「そうだわ!自己紹介でもしましょう!」とマッチョマンが言ってきたので俺は、「
と言うとマッチョマンが、
「ワタシは、マリーよ。気軽にマッちゃんって呼んでくれても構わないワ。ヨ・ロ・シ・ク・ネ❤︎」
見なかったことにしよう。ウンソウダソレガイイ。ボクハナニモミテナイ。
そして俺は、2人に運ばれていった。
そこは、闘技場の様な所だった。
結構広いなと思っていると、木剣を両手に持ったセトが現れた。
俺は疑問に思っていると、セトが片方の剣を投げ渡してくる。
俺はそれを不思議に思いながら受け取ると、マリーさんが、
「ベルちゃあ〜ん。これを使って〜」
と、かなりの豪速球で、謎の液体が入った瓶を投げてくる。
俺はそれをキャッチすることが出来ず、頭に直撃する。瓶が割れて、中身が飛び散る。
すると視界にある文字が浮かび上がった。
『リスポーン地点を変更しました』
うん?リスポーン地点を変更?それって今俺が立っているこの位置がリスポーン地点になったってことだよな…変える意味あるか?
そう思っていると、マリーさんが、
「それではッ!ただいまよりッッ!セトちゃんから一本取るまで終わらない
と、えらくハイテンションのスーツ姿で言った。一体いつ着替えたのだろうか?さっき俺に謎の液体瓶をぶん投げてきた時にはあなた普通の格好でしたよね?
そんなことを考えていると、
「ベルスケ〜準備できた〜?」
とセトが聞いてきた。
「OK、いつでもいける」
そう言うと、
「じゃあ、始めるね」
そう言って、剣を構えた。
俺は、セトがそのうちしびれを切らして突っ込んでくる所にカウンターをして勝負を決めたい。と考えて、その場から動かずに待っていた。
対してセトは、ピョンピョンとその場で飛び跳ねて、笑顔で、早く突っ込んで来てよ。みたいな目でこちらを見ているが、喜んで死地に飛び込む馬鹿はいない。(相手が豊満な美女なら喜んで突っ込んで行ったが、美女は合っているけど、まな板ではなぁ…)
とか思っていると、セトが、
「なんか馬鹿にされた気がする」
「ソンナコトナイヨ」
そう返してやると、マリーさんが、
「そりゃあねぇ、セトちゃん。ベルちゃんだってオトコなんだから、目の前でオンナがピョンピョン飛び跳ねてたら見る所は一つデショ?」
と、ある一点を見ながら言った。
セトは、視線を辿って、それが自分のある所に向かっていることに気づくと、セトの顔から笑顔が消えた。
そして飛び跳ねるのを止めると、
「誰がまな板だぁっー!」
と言って、剣を上段に構えながら突っ込んできた。
俺は、頭の上に剣を横にして、剣の腹が俺の視界に入るようにして防いだが、思いっきり振り下ろされた剣にジリジリと押されていく。
「そりゃあお前の胸が薄いのが悪いんだろうが!」
未来永劫変わることのない事実を言ってやると、
「こいつ!とうとう口にしやがった!人が1番気にしてることを!!」
とガチギレしながら、さらに剣の圧力を込めてきた。
だんだんと強くなっていく圧力の前にとうとう片膝をついてしまう。片膝をついた影響か、圧力が更に強くなっている気がする。
ちょっ、これマズ…
俺はそのまま押し潰されてしまった。
はいっ、リスポーン。テッテッレテッテッテー。
いや〜
そんなことを考えていると、セトが鬼の形相でこちらに突っ込んできていた。
あれ?さっきよりもなんか速くねぇ?
なんでだろう、と思っている間に俺は、横薙ぎに振るわれた木剣で、上半身と下半身の2パーツに分解されていた。
はいっ、テッテ以下略。
どうして木剣で人を切断出来るんだろうね?
やっぱ筋肉か?筋肉なのか…
とか思っていると、セトがこちらに鬼の様な形相で以下略。
やっぱりなんか速くなってる気がする。
セトは、そのまま速度を落とさずに木剣を突き出してきた。
俺は一応防げるか試してみたが、木剣ごと貫かれる。いや、
はいっ、以下略。
とか思っ以下略。
やっぱり、セトさん段々と速くなってるよね。そういうスキルでも持ってるんだろうか。
このままだと、
少し気に食わないなぁ…だって、おじさんにもプライドってもんがあるもんでねぇ!
今度は、セトの突撃に合わせて、アーススパイクを自分の周りに展開する。これで少しは耐えれるだろ。と思ったが全然そんなことは無かった。
まずセトは、クルッと回転しながら剣を振ってアーススパイクを砕くと、自分が今作った空間に身体をねじ込んできた。
いや嘘でしょ…と思っていると、セトに片手で頭を掴まれて、床に押し倒される。
そのまま、グググと段々頭にかかる圧力が強くなってきた。
あ〜これは死にましたわ。
次の俺に期待しよう。
そのまま何時間経っただろうか?
体感的には、もう一日ぐらいやっている気がする。
マリーさんも、
「ゼェ…ゼェ、第ゴビャゲホッゴボッ決闘開ジィッ!」
と、声が枯れている。てかこの人始めから開始の合図をしてたのか。気づかんかったわ。
俺?俺は…まぁ、殆どおもちゃにされてたな。大体一撃でやられるからもう、耐えるとか考えなくなって、とにかく攻撃を避ける…という考えになったけど、まぁ避けれないよね〜。という感じでしたね。
それから結構経ってマリーさんが、
「ハァッ、ハァッ、ちょっ、ちょっと待ってセトちゃん。少し
と必死に頼み込むとセトは、
「なら30分休憩をとりましょう」
と言ってきた。
え〜たった30分だと思う奴もいるかもしれないが、俺とマリーさんにとっては天国の30分だ。
俺はタイマーを30分に設定して、その場に倒れ込む様にうつ伏せで寝転んだ。
マリーさんは、どこかに繋がっているのであろう通路に入っていった。
そう言えば、この前あれだけゴブリンアーミーを倒したんだからレベルが結構上がっている筈だ。そう思って、うつ伏せから仰向けになって、キャラクターのウィンドウからどのくらい上がったかなぁ〜と確認してみると、18になっていた。確か前が5だったから、13も上がったのか。いや〜ゴブリンアーミー様様だな。
さて、なんのステータスを上げようかな?
とりあえずまずは、
ここで倒せるとか変なことは考えない。これが犬助スタイル。
とりあえずセトの戦い方から、ステータスを予測してみる。
まぁ、
じゃあ俺はそれに対抗して、STRを上げる?いやいや、かなりこのゲームをやりこんでいるであろうセトに、STRを少し上げたところで叩き潰されて終わりだろう。なら、人型の竜人の特徴の
「どうやら悩んでるようネッ、ベルちゃん❤︎」
俺の後ろに、マリーさんがポージングしながら立っていた。
俺は餌を食っている間にキュウリを後ろに置かれた猫の様にその場を飛び退く。
あら、ヒドイわぁ、と言っているがいきなり背後に立たれたら誰だって驚くだろ。
まぁ、話を聞いてくれるらしいし、話してみた。
一通り話してみると、マリーさんは、
「ふぅん、セトちゃんに今のままだと勝てずにずっと決闘をやらされ続けるから、抵抗できる様にしたい…と」
「そうです」
と返すと、
「ならまずは、セトちゃんの戦い方から教えてあげるワ」
と言ってきた。
「まず、ベルちゃんの予測だけど、セトちゃんはSTR特化のAGIも少しは上げてある、という予測だけど少し違うワ。セトちゃんは、STR以外ほぼ上げてないわ」
「はぁっ?!」
じゃあなんであんな速いのか説明できなくないか?
そう思っていると、マリーさんが、
「ふふっ、セトちゃんがなんであんなに速いのかというと、STRだけであの速度をだしているのヨ」
うん?つまるところ…
「曲がれなく無いですか?」
そう聞いてみると、マリーさんは大きく頷きながら、
「そう…セトちゃんは、途中で曲がるのが苦手なのヨ。だから左右に動くだけで攻撃が当たりづらくなるんだけど…もっと広い所ならともかくこの広さだと、あんまり意味がないわネェ」
それじゃあ意味なくないですか、と聞いてみると、
「まぁ、ベルちゃんの戦い方的にこっちの方が使いやすいでしょ。というわけで、これをアゲル」
そう言って、俺にとっては見慣れた物体を手渡してくる。
それは、全部木で造られたライフルだった。しかしライフルに必要不可欠な物が無い。それを探していると、
「弾は無いわヨ」
とマリーさんが言ってきた。
「弾が無いライフルとか、お飾りですよ!ほぼ!!」
と魂の叫びをすると、
「だから、弾が撃てる様にしてアゲル」
と、言ってきた。
いや〜ありがたいなぁ。と思っていると、マリーさんがなんか掌をこちらに突き出している。
なんだろう?と思っていると、マリーさんが突き出している掌から、謎の球体が出てきた。
「フゥン!」
とマリーさんが気合いと共に謎の球体を撃ち出す。謎の球体は結構な速度で俺の体に当たる。
へぇ〜こんな事も出来るんだぁと思っていると、
「これが、通称魔力弾と言われるやつヨ」
とマリーさんが説明してくれる。
しかしこのままでは、セトに当たる気がしない。そのことをマリーさんに言ってみると、
「確かにこのまま撃つと、速度も出ないし、威力も低いわ。けど、ベルちゃんは魔力弾を強くすることができるわ」
そんなスキルとか持ってたっけなぁ、と思い出してみると、心当たりは無かったが、ある考えに至った。
それをマリーさんに言ってみる。
「もしかして…弾の形を変えるんですか?」
と聞いてみると、マリーさんが満面の笑みを浮かべながら、
「正解〜」
と、いつ取り出したのかわからない、クラッカーで祝ってくれた。マジでこの人色々持ってんな。
気を取り直して、魔力弾の形をいつも使っているライフル弾の形状に加工していく。
意外とこれMP使うなぁ。1発で1.5割ぐらい持っていかれたわ。
とりあえず出来た魔力弾を、適当な所に撃ってみると、さっきマリーさんが撃った時よりも速かった。
これなら少しは抵抗出来そうだな、と思っていると、マリーさんが耳打ちしてきた。
「ベルちゃんにイイコトを教えてアゲル。セトちゃんは、
「なっ、なに言ってんすか!」
「大丈夫、大丈夫。セトちゃん………だから」
俺は、マリーさんの話を聞いた。
そして30分が経ったことを告げるタイマーが鳴った。
俺の目の前に立ちはだかるのは、
そして、勝負が始まった。
私は、このゲームをプレイしていて、1番充実した時間を過ごしていた。
だって犬助と戦えるんだもん。楽しくない訳がない。
犬助は、どうやら武器を剣からライフルに変えた様だけど、武器が変わったところで私の戦法は変わらない。ただただ突っ込んで叩き斬る。それだけでいい。
けど、少しずつ犬助も私の速さに慣れてきたのか、段々と良い動きになってきた。
まぁ私の勝ちに変わりはない。さっきも撃たれた弾を、後出しで避けてやった。あの時の犬助の驚いた顔は見ものだった。
そんな事を思い出していると、犬助がリスポーンしたらしい。
頭をボリボリと掻きながら、はぁっとため息をついて、喋りかけてきた。
「セト〜」
「なに〜?」
「俺さ…セト、お前が好きだ」
「ふぇっ!!」
な、なに言ってんの犬助!
よしっ!作戦成功。
マリーさんが言ってきた通りだな。
先ほどマリーさんが言ってきた事を思い出す。
「だから…突然告白してみましょう♪」
「大丈夫、大丈夫。セトちゃん多分こう言ったことに対しては
俺は突然の告白に混乱して、棒立ちになってしまったセトに対して、魔力弾を撃つ。
セトは驚きすぎて動けない様で、俺の撃った魔力弾に当たってしまう。
HPバーが結構な速度で減っていき、半分になったところで、マリーさんが、
「決闘終了!!」
と言ったところで、ようやく地獄が終わった。
俺は、ライフルをマリーさんに手渡して、全速力で建物の外へと出ていった。
ワタシことマリーは、未だ混乱して棒立ちになっているセトちゃんに声をかける。
「セトちゃん〜決闘は終わったわよ〜」
と言うと、ようやく混乱が解けて、こっちを鬼の様な目で睨みつけてきた。
「マリーさんさぁ…これ以上付き合わされるの嫌で、告げ口したでしょ。」
あらヤダ。バレてーラ。
「けど、セトちゃん。大好きなオサナナジミに告白されて嬉しいでしょ?」
そう聞くと、セトちゃんは顔を赤ながら、
「ですけど…そうですけど…」
ふふっ、うぶねぇ。ワタシにもこんな時があったのかしらネ?
まぁ気を取り直して、
「じゃあ、
そう言うと、リーダーは切り替えたのか、
「ふぅ…まずは、帝国の前哨基地にある本部で、他のメンバーと合流。合流後は、そこから東に向かって移動して、東国連合との戦争に介入。その後は、東国で素材集めでもしましょう」
「了解ヨ。リーダー」
そう言って、ワタシは準備を始めた。
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