第12話休みが終わると何がくると思う?そうだね仕事だね!

気づくと俺は、真っ暗な空間にいた。

ここは、何処だ?と考えていると、かなり最近来た様な気がする。

そうだ!たしかここは、ゲーム開始時のキャラクター作成の場所のはずだ。

上を見上げてみるとデカデカと、

『ゲームオーバー!!残念無念!!あなたは死んでしまった!!』

と書かれてあった。

うん、ゲームオーバーは許す。あなたは死んでしまったも許す。だが残念無念は許さない!

マジで人を小馬鹿にした様な文章にしやがって、マジでこのゲーム作ったやつ性格に難ありだろこれ。

デカデカと書かれている下に、死因が書かれていた。

『Bell sukeは、はぐれ人喰いトロールに潰されてしまった!!』

はぐれ人喰いトロール?あぁ…あのデカいやつか。そんな名前だったんだな。

まぁいいや、さっさとリスポーンしてしまおうとリスポーンボタンを押すが反応しない。何度押しても反応しない。不思議になってよく見てみると、なんか小さく書かれている。

『デスペナルティによって現在ログインできません。下に表示されている数字が0になるまでお待ちください☆』

23:57:43

うぜぇ、果てしなくうぜぇ。でもって一日ログイン不可かぁ…

俺は、「はぁ〜」とため息を吐いてから、ログアウトのボタンを押した。


ゲームをログアウトした俺は、まず時計を確認する。現在時刻は午後10時ちょっと。

俺は、冷蔵庫を開けて、とりあえずゴブリンアーミー相手に頑張った俺に乾杯と思いながら、缶ビールを手にとって飲む。

「ぷはぁっー生き返るわ〜」

ロング缶を一気飲みした俺は、まだ足りないと思って2本目に手を出そうとして…やめた。

いや、やめたというより手が出せなかった。と言った方が適切だな。

ロング缶を取ろうとした手が上がらないのだ。これは断じて四十肩とかではない。右手をよく見てみると、肌色の手があった。しかしよく見てみると少しだけテカッとしていて、あまり温かみを感じられない。つまるところ、俺の右手が樹脂で出来た義手であることを示していた。

俺は、そろそろメンテに出さなきゃなぁ…と思いながら、左手で冷蔵庫を閉めて、はぁ、とため息を吐いて寝た。


俺は、スマホで現在の時刻を確認すると同時に飛び起きた。

なぜなら、いつも家を出る時間よりも1時間近く遅れていたからだ。

俺は、顔を洗って、スーツに着替えて家を飛び出した。

いつもより少し人通りが多くなった道を全力疾走で走る。

何度か転びそうになりながらも、なんとか会社にたどり着いた。しかし、いつもの出勤時間より30分遅くなってしまった。

俺は、自分のデスクに向かっていき、座る。

パソコンを開いて、左手で器用にパスワードを入力して、仕事を始めた。


俺は、昼食を社食で食べていた。周りには、俺の右手を物珍しそうに見ている他の部署の社員がいる。

俺は、少し居心地が悪いな。と思いながら昼食をとった。

夕方

ようやっと仕事が終わったので、そそくさと家に帰ろうとすると、部長から呼び止められた。

「なんですか?」

と言いながら、話を聞くと、

「今日から3週間は、泊まり込み覚悟で残業してね。」

と言われたので、

「何故ですか⁈」

と聞くと部長は、

「今日からなんか社長が言うには社運をかけたプロジェクトをするらしいから、〝優秀〟な社員は仕事を手伝って欲しいらしいよ。」

俺は、ため息を堪えて、分かりましたと返事をした。部長はその答えを聞いて、

「うんうん良かったよ。3週間頑張れば、休みは1週間以上くれるらしいから、頑張ろうね。」

その時、俺は気づいた。部長の目が死んでいることに。ただでさえ家族に、仕事で忙しくて、かまってられないことを悩みすぎて、髪も薄くなりかけてて死にそうだけど、生きる希望を失っていない目が完全に死んでいた。

「犬助くん…私離婚されるかもしれないなぁ…ハハッ」

そう半ば絶望した様な感じでそう言ってきた。

「だ、大丈夫ですって。ちゃんと事情を話せばきっと奥さんやお子さんもわかってくれますって!」

俺は必死に慰める。

「もう辞めたいなぁこの仕事…そうだ!富士の樹海に行こう!」

「だからダメですって!」

それから地獄が始まった。


社会人14年生 会社員 鈴村犬助日記。

1週間目。

若手の社員が過労で病院送りになりました。その分のお仕事が回ってきました。とてもつかれました。

2週間目。

部長が心労&過労でぶっ倒れました。ぼくもぶっ倒れたいです。

3週間目。

見て見て!右手の義手を隙間隙間に応急処置してたら、動く様になったよ!やったね!!けど、肘関節のところからギシギシと金属音が響く様になったよ。なんでだろうね!


少々、過労で頭がおかしくなったが、ようやくNKT長く苦しい戦いが終わった…

俺は首を鳴らしながら、辺りを見渡してみると

死屍累々であった。まぁ実際には、俺以外の社員全員が死んだ様に寝ているだけだが。

俺は、右手の義手をきしませながら、帰る用意を済まし、会社を出た。

帰り道はほとんど何も考えずに、フラフラと歩きながら家に向かった。周りの通行人が少し引いている。

まぁ、こんな夜中にゾンビみたいにフラフラと歩いてるやつれた男を見たら少し気持ちもわかる。

そんなこんなでようやっと家に着いたので、ドアを開けて、寝室に入る。

ベッドに倒れ込むと、俺はそのまま泥の様に眠った。


そういえば過労でぶっ倒れて病院送りになった部長は、心配してお見舞いにきた奥さんと子どもに次は必ず何があっても家族の時間は作るから離婚しないでくれと、泣きながら言った様だ。ちゃんと理解してもらえたよ、とても嬉しそうに言ってきた。けど、部長?俺に家族の時間を作るために自分の分の仕事を少し回すのはやめてくれませんかね?

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