第8話 妖怪酒とタバコ置いてけオジサン

ログアウトした俺はまず、ゲーム機本体を頭から外して時刻を確認する。

腕時計を見ると午前2時になろうとしていた。

今日はもう寝よう…そう考えて横になり目をつぶるが目がギンギンして眠れない。

仕方ない、Ēlysion online《あのゲーム》の攻略情報でも調べるか…

寝室の机に置いてある、パソコンの前に座り、電源を入れて、パスワードを入力する。

ローディングの文字が表示されて、すぐ消えた。

検索で攻略情報を調べてみると、出るわ出るわ。

魔法特化の闇森人ダークエルフが最強だとか、壁役タンクにするなら竜に近い姿の竜人ドラゴニュートが最適だとか、まぁそんなことが掲載されていた。

俺、目悪くなったなぁ〜とか思いながらブルーライトカットの眼鏡をかける。

ほとんど流し読みに近い形で読んでいるとある記事が目に留まった。

「え〜なになに、剛剣姫ごうけんきパーティー、レイドボスをソロ討伐?」

気になって記事を開いてみると、剛剣姫という称号を公式から貰ったプレイヤー率いるパーティが最近実装された新エリアのレイドボスを1パーティーで攻略したという内容が書かれていた。

このパーティはゲーム発売当初から有名だったのだが、パーティの武器の情報ぐらいしか知られていないらしい。

まぁ、おじさんには関係ないけどね…

俺の興味を引く情報は、それくらいで、余り良いものは無かった。

あとはステータスの上げ方がわからなかった為調べてみると、キャラクターというウィンドウがあるので、そこをタップすると、ステータスを上げられる項目があるらしい。

そんなことぐらいゲームを始めたら、チュートリアルがあるだろバーカと思ったそこのお前、ゲーム始めてすぐに脳筋王森人セトに連れ回されてみろ、視界に映るチュートリアルの文章なんて一つも入ってこないから…

そんな事を思っていると、ちょうど眠くなってきた。

俺はパソコンの電源を落として、眼鏡を外し、ベッドに寝転がる。

「おやすみ」

そうして自分以外誰もいない部屋で1人呟いた。


「おはようございます」

誰に言うわけでもないのに1人で呟き、腕時計の時間を確認する。

うん、午前7時、3時間も眠れた、素晴らしいね(現実逃避)。

起きてしまったものは、仕方がないのでカップ麺を朝食にして、9時頃までテレビでニュースを観た。

ニュースの内容は、今週の天気は晴れが続くだとか、どっかの家が燃えただとか、いつもと殆ど変わらない内容だった。

つまんね…そう思いチャンネルを変えると、面白そうな番組がやっていた。

なんでも全国各地の中高生を対象に、将来有望な子を探すとかそんな内容の番組だった。

今回、紹介されている中でも特に気になったのが、高校1、2年生の姉弟だった。

なんでも、姉の方が女子の陸上競技で日本新記録を叩き出した神童で、弟の方がスケートボードの世界大会出場をしたらしい。

俺も若い時ぐらいは、もっとこういったスポーツをやってみたかったけど、この腕・・・じゃなぁ…

感傷に浸っていると、もう9時になろうとしていた。

俺はテレビを消して、寝室のベッドの近くに置いてある棚から、ゲーム機をとって頭に装着する。

そして、ゲームにログインした。


ログインした俺はまず、昨日の露店の場所に行った。あの2人の姉弟はまだログインしていない様で露店も無かった。

仕方がないので、街を探索してみようと思い、片手にマップを映しながら歩いてみた。

街の西地区は門があり、そこからも外に出られる様だ。

また、教会などが多く立ち並び、神官向けの装備などを売っている店も多く立ち並んでいる。中でもクェルー大聖堂という名前の教会が一際デカく、入ってみると、とても魅力的なシスターが出迎えて来てくれて、なんか説法をされて、聞き終わると、なんか1000Gの寄進を迫られましたよ。二度といかねえ…

気を取り直して、街の東地区へと向かうと、いつも街の外に出る時に使う門があった。

この地区では、武器屋や、防具屋などの店が立ち並ぶ商店街の様だった。

俺と同じまだゲームを始めてばっかのプレイヤーが多いのだろうか、俺と同じ初期装備に身を包み、武器屋、防具屋に入店していくプレイヤーが結構いた。しかし…

「みんな、みんな、若々しいなぁ…」

いや結構歳いっている外見のプレイヤーもいるにはいるのだが、大多数が10代後半、または20代前半である。こんな所に30代のおじさんがいるのが少し悲しくなり、ろくに探索しないまま、次の地区へと向かった。

俺は次に街の北地区に向かった。

ここはまぁ、治安が悪いですね。

NPCなのだろうが、柄の悪そうな兄ちゃん達がこっちを見て、なんか笑ってる、怖い。

視線を合わせない様にしながら歩いていると、俺の前に5人の男達が道を塞ぐ様にして立っていた。

チンピラA〜Eが現れた!!

うわぁ…絶対絡まれるやつやん…そう思っていると案の定、リーダー格の男(以後チンピラリーダーと呼称)が

「へへっ、兄ちゃん、この道を通りたいのかい?なら、通行料として有り金全部置いていきな」

そう言ってきた。

「嫌だと言ったら?」

ダメ元でそう聞いてみると。

「分かってんだろ」

そう言って、腰に下げた短剣をポンッと叩いた。

はぁ……しょうがない……

「わかった、払うよ」

そう言って、チンピラリーダーの前まで歩いていく、そして男の前まで歩くと男は手を差し出してきた。

俺は持っているGを全部出してチンピラリーダーに手渡した。

「分かれば良いんだよ、分かれば」

そう笑いながら、道を譲ってくる。

俺はその隙間を通り過ぎながら男達の背後に出た。

「バーカ」

そう言うと、近くにいたチンピラ2人が振り向きそうだったので、左斜め後ろにいたチンピラに振り向きながらの肘打ちを喰らわせた。

俺の肘打ちは、綺麗にチンピラの鼻に命中する。

倒れたチンピラから、短剣を借りて、逆手に持って、右斜め後ろにいたチンピラの太ももを切りつけて、突き刺す。

倒れたチンピラから、片手斧を借りて、チンピラリーダーの方を向くと、既に短剣を抜いていて、俺に対して切りつけようとしていた。

俺はその短剣を辛くも弾いて、チンピラリーダーの頭に片手斧を振り下ろす。

チンピラリーダーは、それを短剣で防ごうとしたが、俺はそれごと叩き切る。

チンピラリーダーは、アイテムと経験値と俺が渡したGを落として何処かに行ってしまった。

その光景を見たチンピラ2人が逃げようとしたので、背中に吊り下げたライフルを取って足を撃つ。

チンピラ2人は撃たれた足を押さえながらゴロゴロと転がっている。

俺はテクテクと近づいて行くと、チンピラは手を突き出して、命乞いをしてきた。

俺はそれを気にせずにライフルで更生させてあげた。

チンピラ2人も、アイテムと経験値と少量のGを落として何処かに行ってしまった。

最初に倒したチンピラ2人もそのままライフルで、撲さ…叩いてあげると、更生したのか、アイテムと以下略

    チンピラ5人を更生させた!!

ふぅ、なんとか勝てた。

俺が勝てたのは理由は、不意をつけたのと、街を探索する前に、ステータスをSPステータスポイントを使って上げておいたからだろう。

今度から、ステータスはちゃんと上げておこう。

そう誓って、チンピラが落としたであろう、アイテムを拾っていると、ある物が目に留まった。

それは、紙パックに包まれた、縦約9センチ、横約6センチの箱だった。

何故だろう、初めて見るアイテムなのに、とても見覚えがある。

いそいそとストレージにしまい、ストレージからアイテム名を見ると、俺は無意識のうちにガッツポーズをしてしまった。

「しゃあっ!!タバコじゃん!!」

俺は、直ぐにストレージから出して、口に咥える。

そして、ステータスを上げておいたお陰で魔法が使える様になったので(初級魔法だが)早速火をつける。

「プチファイア」

う〜ん、やっぱり小さい子もやるからか、ただの見た目だけだが、それでもタバコを吸っているだけで、満足感がある。

口に咥えたまま、アイテムを拾っていると、今度は液体が入った瓶があった。

どうやら位置的にチンピラリーダーが落とした物のようだ。

ストレージにしまうと、俺はまたガッツポーズをしてしまった。

「酒だぁー!」

ストレージから出して少し口に含んでみると、

視界が少し歪み、ぼやける。

こんなところまでリアルにしなくて良いのにな…

しかし、チンピラ5人を更生させただけで、酒とタバコが貰える、なんて良い仕事なんだ。

あっ、あんな所に更生したそうなチンピラ達が!

しかたない、更生させなきゃ…

近づいて行くと、チンピラリーダーが喋りかけてきた。

「おい、そこのお前、有りが『てけよ』」

「ん?」

「酒とタバコ置いてけよ!!」


その日、街の北地区から、チンピラの姿が消えた。





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