第5話 おっさん、武器を買う

俺は、ミニマップを片手に映しながら、街を歩いていた。

目的地は、セトの言っていた武器屋だ。

しかし、俺がまだこの街をよく知らないのもあるが…

「広いなぁ、ここ」

端から端まで2〜3kmくらいあるんじゃねぇのかな、この街…

しかし歩いていれば必ず着くわけで、少しずつ目的の武器屋が近づいてきた。

ようやくか…という思いが強くなり、少し歩く速度が速くなる。

ちょうど、露店市に差し掛かった所だった。

俺はミニマップに視線が向いていて、横から飛び出してきた人物に気づくことができなかった。

『うわぁっ!!』

俺と人物そいつでは体重に差があるのか、そいつが倒れ込む。

そいつの姿を見てみると、イスラム教徒の人が着るニカブという服の様に目元以外をベールで覆った服装をしていた。

そいつを以後ニカブさん(仮)と呼称する

「あっ、すみませんでした」

そう言いながら手を差し伸べる、ニカブさんはその手を取って立ち上がった。

とりあえずすべき事は、

「ぶつかって、すみませんでした」

そう言って、深々とお辞儀をするとニカブさんも、

「こちらこそ、すみませんでした」

と、お辞儀をしてきた。

「すみません大丈夫でしたか?ダメージとか受けて無いですか?」

心配して聞くと、

「大丈夫です。街の中ではプレイヤーはダメージを基本的に受けませんから」

大丈夫だと言ってきたが、

「何かおじさんに出来ることない?」

せめて何か罪滅ぼしをしたいと聞いてみると、

「この方向にねえさ…いえ友達が露店を開いて居るのでそこに寄って貰えれば良いです。目印は犬がハンマーを咥えてるマークです。」

さっき飛び出して来た方向に指を指して、足早に去って行ってしまった。

時間はたっぷりあるし寄ってみるか…


俺は、ニカブさんに言われたマークを探して露店市を歩きまわっていた。

ここには、プレイヤーの露店の他にも、NPCの露店もあるため、さまざまな物が売っている。

とあるプレイヤーの露店では、防具を売っていたり、別のプレイヤーの露店ではポーションを売っていたり、人それぞれ違う物を売っていた。

そうして、ニカブさんが教えてくれた方向にふらふらと歩いていると、目印のマークがあった。

遠目から眺めると、あのニカブさんの言っていた、友達が自信なさそうに、座っていた。

どうやら、人間に近い姿をした獣人ビーストマンの少年で、頭に狼の様な耳と、もふもふの尻尾で地面に敷いたシートをパタパタと叩きながら、座っていた。

そこにまっすぐ進んでいくと、少年と目が合った。

「あの、良かったら見ていってくれませんか?」

そう少年が問いかけてくる。

「良いですよ」

そう言いながら、露店の前に立つ。

「ここでは何を売っているんですか?」

そう尋ねると、

「このお店では、武器を売っています」

そう言って、メイスに、ナイフ、ロングソードにハルバードなど、様々な種類の武器を見せてくれる。

これなら、街の武器屋に行かなくても良さそうだ…

そう考えていると、少年が、欲しい武器の特徴を教えて欲しいと聞いてきたので、

「全長が60センチいくかいかないかぐらいの片刃の武器が欲しい」

そう言うと、少年は、これなんてどうです、そう言いながら、ある武器を手渡してきた。

「これは?」

「それはスクラマサスクと呼ばれるイタリア北部発祥の武器です。」

試しに振ってみると、しっかりと手に馴染む。

うん、これなら大丈夫そうだ…

「いくら払えば良いですか?」

そう聞くと、

「本当だったら、5000|G(ゴールド)なんですけども、8割引きの1000Gで良いですよ」

「良いんですか?」

心配になりそう聞くと、

「実をいうと、あなたが初めてのお客さんなので。」

「いや、でも」

子どもから、値引きされると、罪悪感が凄い。

「せめて2000Gくらいにしてください。」

「いやいや、しかし初めてのお客さんですし」

「いやいや、初めてのお客さんからそんな値引きをしてたら、今後から来店するお客さんに舐められますよ」

「いやいや」

「いやいや」

そうして、互いに主張を譲らずに、15分くらいが過ぎたところで、少年が折衷案を出してきた

「じゃあ、今後とも武器の修理や宣伝などを手伝ってくれれば大丈夫です。」

「しかし…」

「これなら、あなたがうちの武器を宣伝してくれれば、新しいお客さんが来るかもしれませんし、うちとしてもあなたが定期的に修理に来てくれれば、利益は出るので。」

子どもがここまで言っているのだ、ここでゴネるのは、大人として見苦しい。

「わかった、それで良いよ。」

「では、取引成立ということで。」

そう言って少年は、取引の画面を出す。

俺は取引を受諾し、商品を受け取る。

そしてストレージからさっき買ったスクラマサスクを取り出し、腰に下げる。

「大事に使わせて貰うよ」

そう言って、街の外に出る為の門に繋がっている道の方向に体を向ける

「はい、また来てください」

そう言って、手を振ってくれる少年。

俺も手を振り返して、門へと歩き始めた。

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