02.初めての友達…親友?!

三歳になりました。エルタニン・Y・ポラリスです。エルって呼んでね?




そんなくだらない事はさておき、三歳になった俺改めて僕はようやく自らの足で、補助なしで走る事ができるようになった。


そのため早速ではあるが足腰の強化のため村を走り回る事にした。しかしただ走るだけではもったいないので村の周りを調査することにした。



とはいっても対して調査する事もない。分かったことは北は山が連なる山脈で、南には父親であるヨルガンが年に一度、ボルを売りに向かう街アルファトがあることくらいだった。


まぁそのくらいの情報しかないので周辺の調査は諦めた。それよりかも今は自分の体についてだ。



「ふっふっはぁ……やっぱり体力少ないな」



やはり、前世の高校生の頃に比べると体力が少なくなっている事は分かっていたがここまでとは思わなかった。まさか100m走っただけでここまで疲れるとは…。


そう思いながら切り株に腰掛けていると村人であるおばあさんがこちらに近づいてきた。



「あら、エルじゃないのー…今日もお散歩?ほらお水」


「はい!ありがとうございます…あの今日も」


「ほほ…分かりました」



この人は僕がいつも走っているとお水をくれるラルおばさん。この村の長老のような人だ。


いつも散歩という名の走り込みがてら、毎日のようにラルさんのお話を聞いている。ちなみに調査をやめた理由の一つだ。


流石、長老と言われているだけありその知識はこの村では随一で色々なお話を知ってる。そのお話は多くは童話──前世で大好きだったラノベの特典小説にあるお話が多かったがそれ以外にもこの世界の法律のようなものや文化についても多く知っており、無知な僕にとっては貴重な情報源だ。













「──て言うのが剣術ね。今は冒険者の多くは剣術を修めているわ」


「つまり、冒険者になるには剣術が必要なんですね」



今日はラノベの特典小説の内容ではなく、この世界オリジナルの知識だった。

しかしながら冒険者は基本的に剣術を覚えているとなると僕もいずれは剣術を覚えなければならないようだ。ただ当然ながら剣術等には必ず指南役が必要だ。


僕は幸い前世では中学時代、剣道部に所属していたから基本くらいは分かるが実戦で剣道が使えるかと言われると謎なのでどの道、剣術は習いたい。



ただいくら習いたくても機会がないので今は無理な話。とりあえずは諦めるしかなさそうだ。



「…おや、もうこんな時間だね」



ラルさんがそう言うので空を見上げるともう赤く染まりだしていた。


そして夕方になるとラルさんとの会話を終えて家に帰るのが日常だ。



「今日もありがとう、ラルおばさん」


「また明日ね、気をつけて帰るんだよー!」



元気よく走って帰る僕。ここから家までおよそ500m程だろうか、今の年齢的にはちょうど良い距離だろうと思った僕は全力で走る。

走ることに集中していた僕は前から来る人に気がつかず、激突してしまう。



「いてっ…あ、ごめんなさい」


「いやいや、君こそ大丈夫かい?」



僕がぶつかった相手は腰に剣を携え、ローブを着ていた。それはさながら旅人のような姿であり、歴戦の戦士のようにも見えた。歳は38かそこら、性別は男といったところか。


僕は自分についた土汚れをはたきながら立ち上がり、一礼をして走り去った。



「……」



そんな僕を男は無言で見送るのだった。




─────────────────────






おーす未来の冒険者、エルだよー!

昨日は帰ってきてご飯を食べたらすぐ寝たんだよねHAHAHA…つまりめっちゃ汚い上、疲れている…がしかし今日の新鮮な空気、輝かしい朝日を浴びればモーマンタイ無問題のはず!


今日も新しい朝が…朝、が



「今日は…雨か」



新鮮な空気とともに輝かしい朝日が差し込んでくると思い開けた窓からは淀んでいてジメジメした空気と薄暗い光が僕の部屋に入ってくる。



「…とりあえず、大人しく風呂に入るか」



そう言って僕は風呂場へと向かった。




これは珍しい事だと思うのだがこの世界には農民の家庭にも風呂がある。基本的に身分が低くなればなるほど、こういう衛生的な面は設備が落ちるもので、風呂なんて各家庭についていないと思っていた、がしかしながらこの村全世帯に風呂は設備されている。



「まさか異世界でも風呂を楽しめるなんてね…ここまで嬉しいとは思わなかったけども」



意外と風呂はあるだけでも精神的余裕はあるものだ。実際、風呂にはリラックス効果もあり、体を癒す効果があるらしい、まぁネットの受け売りだが。

そんなことを抜きにしても風呂はやはり日本の名残を感じさせてくれるから安心する。



「さて…そろそろ運動しなくては」



そう言って僕は風呂場を出る。すると扉の前には母であるメリアがいた。



「お、お母さん?どうしたの?」


「あのね…一人で入っちゃ駄目だって言ってるでしょ!」



僕の家の両親は心配性なのだろうか。確かに風呂場の浴槽は僕が座ると溺れるので一人で入るのは心配だろう。しかしちゃんと浴槽で使う椅子を持ち込んでいるので溺れる事は無い。



「お母さん、心配し過ぎです。僕がこれまでに溺れる事はなかったですよね?」



僕がそう言うとメリアは何とも言えない表情で困惑し、腕を組む。その後、メリアは呆れながらも



「まぁいいわ、朝食はできてるから着替えてらっしゃい」



そう言ってメリアはリビングへと向かった。





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「ご馳走様、では僕はいつものように走ってきます」



朝食を食べ終わり、いつものように身支度をして外へと走りに行こうとすると父親、ヨルガンが止めてきた。



「エル、今日は雨だ。風邪をひいてはいけないからやめておきなさい」



しかし、家の中でできる運動には限りがある。しかもこういう異世界では日々の努力は怠れば怠るほど弱くなる。雨だろうが何だろうが走る事は続けなければならない。前世での部活動で運動部の一日休んだ後の体力の落ちようは結構あるのだ。


その為、こんな面倒事が嫌いな僕ですら努力を続けているのだ。



「大丈夫、夕方までには帰るから!じゃあ行ってきます!」


「ちょっと待ちなさい……行ってしまったか」



ヨルガンの制止する声を振り切って僕は家の外へと飛び出して行った。





村は雨が降っているせいか外には人がおらず、家々に明かりがついているだけだった。

少し無人の村みたいで寂しさを感じるが、それよりかも非現実を味わえて高揚感の方が多く感じる。




そんな風に走っていると雨の中、木陰にうずくまっている少女がいた。

見なかったことにするか、二、三度迷ったがここで見なかった事にするのはあまりにも非人道的だと思い、面倒事覚悟で少女の元へ駆け寄った。ええいままよ!



「君、どうしたんだい?お母さんやお父さんは?」



そう聞いてみたものの、少女は俯いたまま返事がなかった。それもそのはず、少女は多分僕と歳は変わらない子供でこんな雨の日に外でうずくまっている程だから返事がないのもおかしくないだろう。


しかし、いつまでも外に居させるわけにもいかない。どうしたものか…



そう悩んでいると少女はおもむろに立ち上がって僕に抱きついてきた。



「え?ちょ、ちょっとどうしたの」


「…っ、うぅっ…ひっく…ぅん」



抱きついてきた少女はそのまま僕の肩で泣き始めた。とりあえず僕もこのままだと困るので少女と共に木陰に座りこむ。


少し落ち着いてきた頃、少女自ら口を開き喋りだした。



「あのね…お母さんとお父さんは私に剣術を習って欲しいって言うの…でも私は剣が怖いの…だから嫌だって言ったのに昨日、剣の先生を連れてきて…今日から練習するって言われて…私嫌になって」



ふむふむ…つまりあれだ、第一次反抗期ってやつか、知らんけど。確かにいるよなー…嫌だと主張したのに無理矢理習い事やらせてくる親。僕も勉強とかは今でもやりたくはないな…。


そう共感はするものの、逃げてていい訳では無い。もっとも雨の中、濡れたままでいると風邪をひくというのもあるのだが。逃げていても状況が変わる事はない、状況を変えるには行動するしかないのだ。


まぁ僕ができることはないけどね。



「…とりあえず、立ちなよ。ここにいたら風邪をひいちゃうしさ」



そう言って僕は少女を自分の家へと招いた。人生で初めて知り合いを家へと招いたのだ。






「お風呂、ありがとうございます」


「あらいいのよー…エルのお友達なんて初めてなのっ!」



連れてきて早々、両親は隣の濡れている少女を見て何事かと大騒ぎとなりメアリは少女をお風呂へと入れた。


そして予想は何となくしていたが僕の友達だと勘違いしたメアリは少女に頬をすりすりしながら喜んでいた。



「言っておくけどお母さん、その子は通りすがりの女の子。お友達ではまだないよ…というか名前すら知らないしね」



勘違いは早めに訂正しておくべきだ。ただ、友達になりたいと思っていない訳では無い、むしろその逆だ。是が非でも仲良くなり、幼なじみポジを取りたいのだ。そしてゆくゆくは…えへへ。


ゴッホン…とにかく、今すべきことは



「だからお名前を教えてくれませんか?」


「うん…ルミエール・a・カノープス。みんなからはルミエールって呼ばれてる」



ルミエール・a・カノープス…聞いた事がある気がするのは勘違いだろうか。なんかこう…引っかかるのだが、今は人生初、いや本当に前世も含めての人生初の友達になるのだ。ここは笑顔に…笑顔に



「ぼ、僕の、名前はエルタニン・Y・ポラリス。こ、これからよ、よろしくね?る、ルミエール」


「う、うん…肩の力を抜いたがいいと思うよ?」



いやー失敬失敬…初めての事で力が入りすぎていたようだ。多分、人には見せれないような笑顔だったのだろう。


だって人生初の友達になれそうな人だよ?そりゃー緊張もするさ。



─────────────────────






「それで、剣術は習いたくないのですよね」


「うん」



あれから僕の部屋へと移動して椅子に腰掛ける。大人が居ては話せるものも話せないだろうという両親の気遣いだ。多分追加で邪な考えも入っているだろうが…考慮はしない。


とにかく問題はこの少女──ルミエールが何故、剣を怖がるのかだ。色々と考えては見たものの思いつく事はない。外見に剣で切られた傷跡も無さそうだし、臆病だとも感じない。だとしたら直接聞くしかないだろう。



「なんで剣が怖いのですか?」


「そ、それは…うん…」



あ、これは地雷を踏んだようだっ。急いで謝らなくては



「ごめんっ!話せないなら無理しなくていいよ」


「いやその…うん、ごめんなさい」



やばい、気まずい。人との関わりの経験値が低いせいでこんな空気を作ってしまった。いやこれはどうしたものか。


さて、経験が少ない僕は過去の記憶を遡る。過去に何十と恋愛シミュレーションゲームをしてきた僕はここでのベストな回答を持っているはず。もちろん、それに加えてネット友との会話でもそうなのだが。


そして僕は一つの答えを導き出した。



「大丈夫、僕はルミエールが話せるようになるまで待つから!話したいって思ったら話してね!」



その瞬間、ルミエールの顔がパッと明るくなった気がした。いや勘違いの可能性があるから気がしたという表現にしている。ただこちらを目を開き、口は口角を上げながら見ているだけだ。


ルミエールはにこにこしながら椅子から立ち上がり、後ろを向いて呟いた。



「ルミでいいよ、親しい人からそう呼ばれてるから」



多分、きっと、希望だけれども彼女、ルミは頬を赤らめながらとんでもなく乙女チックな顔でそう言ったのだろう。いや勘違い乙なんて言われたくないからなのだが。




そしてこの後、少しの世間話をした後、ルミは突然口を開く。



「ねぇ…私と剣術を習わない?なんかエルと一緒ならできそうな気がするの」


「そうですか、なら一緒にしましょう…ってうちにはお金が無いんでした、はは…」



これぞ華麗なかわし方だろう。ルミがやる気になってくれたのは非常に良い事だ。良い事だけれども僕は巻き込まないで欲しい。

それは剣術はせめて6歳になってからにしたいからだ。何故かと言うとまだ体ができていないのだ。それに幼少期から筋肉をつけすぎると身長が伸びなくなるとも聞いた。なら小さい時からするのはあまり乗り気がしない。


しかしそんな華麗なかわしもルミによって華麗にかわされる。



「大丈夫、お金は心配しなくていいわ!何せ私の家が払うもの!」



そう言われてしまうと断るすべは無い。何せ剣術はしてみたいと口走ってしまっていたからである。諦めた僕は肩を竦めながら



「そうですか、なら心配ないですね」



そう言って、一緒に剣術を習う約束を取り付けてしまったのだった。


しかし、ルミの家はそんなに裕福なのだろうか?







またあれからしばらくして、辺りは雨はやみ、雲からは日が差し込んでいた。晴れてきたのでルミを帰すことになった。両親からは彼女を家まで送りなさいと言われたので送っていくことにした。



「大したもてなしもできなくてごめん」


「いいの、私すっごく楽しかった!」



帰り道、彼女はとても嬉しそうにそう言ってくれた。

それを見て僕は安心していた。何せ人生初の友達、これから大切にしていきたい人なのだ。そんな彼女に不敬な真似はできない。できる限り丁寧に対応しよう。


そう思いながら歩いていると彼女はこちらを振り返ってきた。

何だろか、もしや今から怒鳴られるのだろうか。もっとエスコートしろとかそういう事だろうか。


しかし予想とは裏腹に、彼女はまたもやにっこりと可愛らしい笑顔で



「私達、親友になれそうね!」



そう言ってくれたのだった。


親友、前世では想像もできなかったようなワードだ。僕には友達すらおらず、学校ではいつもひとりぼっち。放課後も全てゲームに捧げていた。そんな僕に親友、身に余る言葉だった。



「そうだね、親友…親友かぁ」



そう僕はこれからの毎日にウキウキしていた。




彼女は坂道を登ると突然、足を止めた。

何故だろうか、もしかして体調でも悪くなったのだろうか。しかしこの調子だと家まで遠いだろう。何せここは領主で伯爵のお屋敷の前だ。……いや待てよ。



「も、もしかしてぇ…ここが」


「そうだよ、私の家。カノープス伯爵のお屋敷ね…だからといってかしこまらなくていいわ。だって私達は親友だもの」



彼女は伯爵家の娘、つまりはご令嬢だった訳だ。







─────────────────────






彼女は当時5歳のルミエール・a・カノープス。

この村だけでなく、この地方の領主であるカノープス伯爵の娘である。

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