第264話 名探偵クマちゃんの素晴らしい発明品。「クマちゃ……」探される仲間達。
クマちゃ箱へ入れられてしまったクマちゃんは、現在大好きなルークの格好いい手と格好良く遊びながら事件について考えている。
◇
「これは……危険な美術品だ。見ただけで大変なことになる」
マスターは紙袋へ近付こうとしたリオを遠ざけようとした。
『お前の大事なおくるみ像だ』などと本当のことを言うわけにはいかない。
『何で全部持ってきたの?』『何でおくるみ脱げてんの?』『おくるみ砂だらけなんだけどなんで?』と質問攻めにされるだろう。
『うるせぇ殺すぞ』と答えるタイプの人間ではないマスターは、どうすれば一人と一匹を傷つけずに済むかと悩んだ。
真実を知ればくるくるくるくる騒ぎそうな金髪から目を逸らし、ウィルに助けを求める。
ウィルはマスターの視線に含まれる『このクソガキをどうにかしろ』をふんわりと理解した。
「え、なにそれこわいんだけど。見たらどうなんの?」と言いつつ紙袋を覗こうとする命知らずにふんわりと忠告する。
「それを見てしまった人間は、後頭部を強く殴られてしまうそうだよ」
紙袋よりも気になることができたリオは、ピタリと足を止めた。
嫌なことを言う派手な男の手元へ視線を向けつつ尋ねる。
「後頭部を……? それって……誰から……?」
「後頭部だからね。君からは見えないのではない?」
「今こぶし握ってなかった?」
「僕がこぶしを握っていたことと今の話に、何か関係が?」
「まぁまぁ関係ある話だと思うんだけど……」
「まさか……君は紙袋を覗くつもりなの?」
「いやそれより『まさか俺の後頭部を殴るつもりなの?』って感じなんだけど……」
紙袋の中身よりも紙袋付近の仲間が気になる。
心の扉が閉まりかけているリオは「疑ってるわけじゃないけど視界におさまってて欲しい感じ……」とウィルに言い、彼のこぶしを定期的に確認することにした。
足止めは成功している。
マスターは目元を隠すようにこめかみを揉んだ。
優しくさえずる派手な鳥よりも吹雪をまとう死神ほうが内面は穏やかなことを知っているマスターは「あいつはどこに行ったんだ……」と呟き、「もうちょっとこっち側にいて欲しいんだけど……」ウィルの立ち位置にこだわり始めた金髪に背を向けた。
紙袋は店内に置いた方がよさそうだ。
◇
大好きなルークと真剣に遊びつつ、真剣な表情で考えていたクマちゃんはハッと気が付いた。
仲良しな彼らがいない。
おそらくこれも事件である。
「クマちゃ……」
『事件ちゃ……』
ルークは自身の手にしがみついたまま愛らしい声で呟くもこもこを優しく抱き上げた。
見える範囲から仲間が減って寂しくなったのだろう。
「そうか」
低く色気のある声が愛らしいもこもこに相槌を打つ。
彼の後方で仲間達が話している声が聞こえる。
「なんか店からマスターの気配すんだけど……」
「まさか……紙袋を追いかけるつもりなの?」
「いやそれより『まさか……追いかけた俺を追いかけて殴るつもりなの?』って聞きたい感じなんだけど……」
紙袋を見たがったリオをウィルが止めているのだろう。
傷付きそうな奴を心配しているらしい。
クライヴの気配は密林にある。
全員近くにいるが、もこもこからは見えない。
失踪事件ということだ。
「探せば見つかんじゃねぇか」
魔王のような男は自身の抱えるもこもこ探偵に仲間達の捜索を依頼した。
彼を見上げるもこもこがキュ、と愛らしく湿ったお鼻を鳴らし「クマちゃ……」と受諾する。
『作るちゃん……』
クマちゃんはリオちゃんとまちゅた達を探す魔道具を作ろうと思います……、という意味のようだ。
◇
ルークはもこもこを赤ちゃん用ベッドへ戻し、名探偵の作業を見守っていた。
名探偵は鞄から取り出した黄色いアヒルさんのおもちゃを魔道具に作り替えたらしい。
完成した素晴らしい魔道具の周りをヨチヨチと歩き、肉球で点検する名探偵。
微かに目を細めた魔王がもこもこの胴を掴み、もふ、と搭乗させる。
アヒルさんに乗った可愛いもこもこ探偵が、彼を見上げ尋ねた。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、格好いいちゃ……』
クマちゃんは格好いいですか……? という意味のようだ。
「ああ」
大雑把な男は格好いいも可愛いも変わんねぇだろ、とそれらを『褒め言葉』という大きな枠のなかへ放り込んだ。
愛くるしいもこもこは「クマちゃ……」と首元のリボンにふれ、身だしなみを整えている。
余計に曲がってしまったそれをルークが指先で直し、美しさが増した探偵が行動を開始する。
水色の布事件を解決するまえに、行方をくらませたリオちゃんとマスター達を捜索しなければ――。
ふわふわと宙に浮く黄色いアヒルさんに乗ったクマちゃんが「クマちゃ、クマちゃ……」魔道具へ命令を下した瞬間。
アヒルさんの口が開き、そこから光線が発射された。
「何?! いま何かちょっと熱かったんだけど!」
「君の背中が光っていたせいではない?」
「いまこぶし握ってたでしょ!」
「僕がこぶしを握っていたことと君の背中が光っていたことに、何か関係が?」
「こぶしでやったんでしょ!」
「君の背中を光らせるのにこぶしは必要ないと思うのだけれど。世の中にはもっと凄い兵器があるのではない?」
「認めたってことだよね。なんかいま兵器って聞こえた気がする。まだ紙袋見てないのに止めて欲しいんだけど」
クマちゃんはハッとした。
仲良しのリオちゃんとウィルは近くにいるようだ。
『背中が光っていた』『止めて欲しい』と聞こえた気がする。
誘拐犯がリオちゃんの背中を光らせているのかもしれない。
早くクマちゃんが『リオちゃんは光りたくないらしいですよ』と叱ってあげなくては。
素晴らしい推理力で状況を把握した名探偵。
もこもこはルークの体で隠れているリオの居場所を特定するため、このあと二回ほどアヒルさんに指示を出した。
「微妙に背中熱いんだけど!」と見えざる敵を探していたリオのほうへ、名探偵がふわふわと近付く。
すぐに気付いたリオが、兵器に乗った名探偵に声を掛ける。
「クマちゃんめっちゃ可愛いじゃん! どしたのそのアヒルさん」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、ウィルちゃ……』
クマちゃんはリオちゃんとウィルちゃんを探していました。ご無事で良かったです……、という意味のようだ。
「俺らが見えなくて探してくれてたの? クマちゃん可愛いねー」
可愛いクマちゃんが何をしたのか知らぬ新米ママが我が子を抱き上げる。
人の背中を微妙に熱くさせるアヒル兵器は、被害者の前でふわふわと浮かんでいた。
「…………」
愛らしい名探偵が可愛い乗り物から降りたことを察知したクライヴが、もこもこの前にさり気なく姿を現す。
癒しの光線から危険は感じないが、もこもこを不安にさせるわけにはいかない。
「ん? なんだそのアヒルは。可愛いな。白いのの乗り物か?」
店に紙袋を置いて戻ってきたマスターは、さきほどまで無かったものに気が付いた。
リオの前でふわふわしているそれへ視線を投げ「もう乗らないのか?」と尋ねる。
もこもこ探偵がキュ! と愛らしく鳴いた。
搭乗の準備はできているようだ。
「めっちゃ頭丸い……可愛い」可愛い探偵を撫でていた男は「クマちゃん可愛いねー」と言いながら、己の敵に乗せた。
◇
赤ちゃん帽を被った名探偵が黄色いアヒルに乗り「クマちゃ、クマちゃ……」愛らしい声で彼らへ告げる。
『犯人ちゃん、お縄ちゃ……』
この素晴らしい乗り物があれば、犯人は一瞬で見つかります……、という意味のようだ。
「へー。クマちゃんのアヒルさんすごいねぇ」
本当に一瞬で見つけられた男がアヒルを侮る。
高性能なもこもこ兵器は遮蔽物に影響されることなく標的の背中を確実に捕らえ、少しだけ熱くする。
当たった直後に体調が良くなる癒しの光線からは、誰も逃れられない。
「すげぇな」
本当に凄いことを知っている魔王は、低く色気のある声でもこもこを褒めた。
「とても愛らしいね。見た目も性能も素晴らしいと思うよ」
ウィルが戦闘機のような乗り物を称賛しているあいだに、もこもこ名探偵が「クマちゃ、クマちゃ……」とアヒルさんに指示を出す。
――ニャー――。
どうやら犯人は近くにいるようだ。
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