第217話 暑すぎるガーデンデザイナーの凄すぎるガーデニング。

 現在高い気温に悩まされ、帽子の中のお耳が湿っているクマちゃんの頭には、素敵な情景が浮かんでいた。


 青い海、白い砂浜、真っ白な釣り人、転がる麦わら、小さな船、船に乗る釣り人、緑豊かな島、たくさんのお家、涼しいお家でくつろぐ釣り人、たくさんのかき氷屋、涼しそうな皆の笑顔、笑わない彼、無表情な彼に抱っこされる釣り人、転がる麦わら。


 なんて涼しそうで楽しそうなのだろう。

 素敵すぎて今すぐ遊びに行きたくなってしまう。

 早くどうにかしなければ。


 うむ。と凛々しい表情で頷く。

 肉球に力をこめたクマちゃんは、愛用の杖をキュッと握りしめ、苦渋の決断を下した。


 芝生はあきらめよう。



「芝生とランプか。良い雰囲気だな」


 美しく敷かれた芝生と宙に浮かぶイチゴランプをのんびりと眺めていたマスター。

 死角に潜むもこもこ。

 鼻の上には皺。


 そして振られる杖。

 

 うなる地面、とどろく音。「……おい、何の音だ」変わる地形。


「ちょっとクマちゃん冷たいんだけど!」


 溢るる水。溢るる苦情。溢るる闇。


「……ここはもう駄目だな……。行くぞ、白いの……」


 掬われる犯人。沈みゆく芝生。悲し気なマスター。


「おや、クマちゃんはとても大きな魔法を使ったようだね。リーダー、そこにある魔道具をお願いしてもいい?」


 南国の鳥のように派手なだけで飛びはしない男が、吞気にクマちゃんニュースの心配をする。


「ああ」


 もこもこの動向を知りつつただ見守っていた、懐が深い、懐無限大な魔王が、魔道具を持ち上げ色気のある声で告げた。

「再放送か」


「素晴らしい――」


 大きな癒しの力に心を震わせていた美麗な死神は、まるで吹雪のように冷たい、喜びの声を響かせた。

「再放送――」


「ちょっといま再放送って聞こえたんだけど!」


 溢るる水に服をやられ怒りを溢れさせていた金髪が、しつこい猫のようにしつこいクマちゃんニュースに、

「再放送しすぎでしょ!」しつこいと思っている旨を伝えた。


「クマちゃ……」


 仲良しのリオちゃんにひどいことを言われてしまったクマちゃんが、マスターの腕のなかで悲し気な声を出す。

 現在クマちゃんを抱えたマスターは中庭の中央にできた島に避難中である。

 ちょっぴり悲しいクマちゃんは、良い感じに溢れてきた水を見つめ、肉球を齧っている。


 暴言を吐いた男へつららと大きな氷塊が飛ぶ。

「いや俺わるくないでしょ」

 軽やかに逃げるリオ。

 足元に溢るる水。 


「冷たいんだけど……」軽やかなる入水。


 もこもこ二次災害に苦しむリオ。

 彼は仲間達を追いながら靴を脱ぎ、悲しそうに水を捨てた。 



 ガタつきジャバついていた中庭と不安定な心を持て余していたリオが落ち着き、作業が再開された。

 一つの大きな島、橋を掛ければ渡れそうな距離にある、若干小さい島、水辺にぽつりと浮かぶ小さ目の砂浜。

 

「これ中庭じゃなくね?」


 ジャバついているリオが素直な感想を漏らす。

「島じゃん」


「あー……、そうか、もしかしてたくさん住めるようにしてくれたのか? 本当にお前は優しいな」


 元より広く感じる空間を、マスターは広い心で褒めた。



「うーん。まるでどこかの美しい島に遊びに来たような、不思議な景色だね」

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