第206話 クマちゃんニュースのエンディングと鍋
もこもこは猫界とクマちゃん界で人気のふさふさした草で、謎のもや事件を解決してしまったらしい。
「えぇ……」絶対あの草関係ないでしょ――。
リオは言いかけ、言葉を飲み込む。
何度言っても無駄だ。
もこもこはあの草が大好きなのだろう。
猫が遊びそうな、あの草が。
凄いのはクマちゃんと癒しの力だ。
草ではない。
偉大なもこもこはつぶらな瞳で彼を見上げ、「クマちゃ……」と悟りを開いたように語った。
『えぇちゃ……』
えぇ、本当に凄い草です……、と。
彼は奇跡を起こしたもこもこへ、静かに想いを伝えた。
「いやそっちの『えぇ……』じゃないから」
◇
奇跡のもこもこが「クマちゃ……」と彼に甘え、もこもこを撫でまわした彼が「いや『のえぇ……』はおかしいでしょ」といつも通り仲良く過ごしていた頃。
癒しの魔法で煌めく街を見下ろすように映していた『生中継』が、元の映像へと切り替わった。
金髪の現地人リオが腕の中のもこもこリポーターへ、不審なもこもこを見るような視線を向けている。
最初と同じだ。
あの金髪は世の中に不満があるのだろう。
「戻ったか……随分目つきが悪いな」
優しいマスターが金髪の画面映えを心配し――。
チラ、と左上を見る。やはり
『全森の街同時放送!』
らしい。
もこもこ的な何かを察知した冬の支配者が、カッ――と鋭い目つきでもこもこを睨む。
映像のもこもこがゆっくりと頷き、子猫のような声で歌い出した。
『――クマちゃーん!――』――クマちゃんニュース!――。
盛り上がる会議室。
冒険者達が「可愛いー!」「クマちゃんニュース!」と喜んでいる。
『――クマちゃん、クマちゃん――』キュ――、キュ――、キュ――、キュ――。
――クマちゃんニュース、お時間ちゃん――。
愛らしい歌声と共に、映像の中の便利な草が光る。
「ああ、なるほど……これで力が増したのか」
マスターは渋い声で分析すると、国家機密を知ってしまった人間のような顔で「声が可愛すぎるな……」と続けた。
『何その変な歌』クレーマーの衝撃的なクレームが混じり、会議室が吹雪く。
正義のもこもこのおかげで挫けぬ心を手に入れた冒険者達は、不満を漏らさず歯をガタガタさせた。
映像が一瞬ぼやけ、
『――俺の名前は入れてくれ――!』
クレーマーの声だけが鮮明になる。
「主張が強い」「強いな」「さすが悪の組織……」ざわめく冒険者達。
正義のリポーターは最後まで、清く美しくもこもこしていた。
『――クマちゃーん!――』――クマちゃんリオちゃんニュース!――。
『――いい――!』喜ぶ悪党。
最高のエンディングに沸く会議室。
「クマちゃん最高ー!」
「クマちゃん優しいー!」
「クマちゃん格好いいー!」
こうして森の街を救った素晴らしいリポータークマちゃんへ、盛大な拍手と喝采が贈られた。
◇
「いや全部おかしいでしょ! ぼやけてたじゃん! 俺だけ継ぎはぎみたいになってたんだけど!」
悪のクレーマーが吹きこぼれた鍋のようにクレームを吹いている。
映像の一部が改ざんされたと主張しているようだ。
彼の膝で愛らしくもこもこしているシンガーソングライターは、お昼寝中の子猫のように仰向けのまま「クマちゃ……」と真摯に答えた。
『へー……』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます