第204話 吞気な男リオと可愛いクマちゃん。
目を逸らすことを許さないもこもこと共に、大人しくクマちゃんニュースを見るリオ。
良い視聴方法を思いついた彼は、映像でも最高に可愛いクマちゃんを眺めつつ、腕の中のもこもこをもこもこもこもこ撫でまわしていた。
「あー、クマちゃんめっちゃ可愛い。めっちゃもこもこしてる」
贅沢にもこもこを楽しむ、どこまでも吞気な男。
金髪の現地人さえ見なければ幸せだ。
素晴らしい。
撫でられるもこもこは喜び「クマちゃ……」と愛らしい声で甘えていた。
◇
『――クマちゃ、クマちゃ――』――便利ちゃん、こちらちゃん――。
映像ではもこもこが便利な草の紹介をしていた。
「可愛いな」
マスターは真剣な表情で頷いている。
便利な草を握る肉球に苦しむスポンサー。
ジャラ――。
長机に魔石と金貨を置く音が響く。
買ってもこもこと遊ぶ気か――。
マスターが鋭い視線を送る。
『それネコが遊ぶやつじゃね? その草便利に使ってる奴見たことないんだけど』
クマちゃんニュースに流れる悪の組織の暴言。
戦闘開始の合図か。
彼の愛するもこもこを侮辱する言葉に、驚くスポンサー。
会議室に降るつらら。
「クライヴ、気持ちは分かるが落ち着け」
片手で尖った氷を掴んだマスターが、正義と悪の過激な戦闘シーンを見ながら「氷はクソガキにぶつけろ」つららで映像を指した。
結界に護られた冒険者達が「ルークさん……」無表情で無口だがさりげなく優しい魔王へ、熱い視線を送っている。
『ここで振ればいいの?』
正義のもこもこを撫でまわし物理的に丸め込んだ悪の組織。
マスターが眉をしかめ「まさか、あのクソガキ……」普段からああやって誤魔化しているのか――日夜繰り返される撫でまわしに気付く。
渋い声の彼が、もこ撫での悪行を見張る方法について考えていたときだった。
もこもこが地面に転がり、ふんふんふんふんと愛らしく遊び始めた。
マスターがふ、と優しく笑い、
「ん? 可愛いが……そこはもやがあるとこじゃねーか?」
すぐに表情を変えた。
死神は凶器のような愛らしさに斃れ、冒険者達は「まさか……死ん……」と言った。
ウィルはルークへ視線をやり「ねぇリーダー、あれは危険ではないの?」クマちゃんニュースにさきがけて最新の情報を仕入れている。
「心配だけど……可愛い」
「わかる……遊び方がすごく子猫ちゃんっぽい……」
「肉球やばい……肉球やばい……」
冒険者達を混乱させる、可愛すぎるもこもこリポーター。
『……クマちゃ……』
『いやあの草関係ないでしょ』
無事だったふんふん。
会議室の面々が胸をなでおろす。
「草の色が変わったな……」
マスターが心配そうな表情のまま、もこもこと、ピンク色の肉球が握る草を見ている。
彼らが見守るなか、リポーターが――草ちゃん、解決ちゃん――と愛らしい声で不思議なことを伝えてきた。
「癒しのアイテムか……?」
マスターは片方の眉を顰め、顎髭をさわった。
そのとき、突然クマちゃんニュースの映像が切り替わる。
大きく映し出される現地人、リオの顔。
『へー』
大きく響いた『へー』
◇
湖畔の美しい別荘では、――数分ほど前から――森の街の超有名人となった金髪が驚愕していた。
「ちょっとクマちゃん何いまの!」
とんでもないものを見たリオは目を剝いて叫んだ。
腕のなかのもこもこが、愛らしい声で「クマちゃ……」と答えた。
『へー……』
◇
「……何だ。今のは」
マスターは全森の街を代表し、正直な感想を述べた。
心にもやを抱えたまま、彼らは静かにクマちゃんニュースを観続けていた。
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