第204話 吞気な男リオと可愛いクマちゃん。

 目を逸らすことを許さないもこもこと共に、大人しくクマちゃんニュースを見るリオ。

 良い視聴方法を思いついた彼は、映像でも最高に可愛いクマちゃんを眺めつつ、腕の中のもこもこをもこもこもこもこ撫でまわしていた。


「あー、クマちゃんめっちゃ可愛い。めっちゃもこもこしてる」


 贅沢にもこもこを楽しむ、どこまでも吞気な男。

 金髪の現地人さえ見なければ幸せだ。

 素晴らしい。


 撫でられるもこもこは喜び「クマちゃ……」と愛らしい声で甘えていた。



『――クマちゃ、クマちゃ――』――便利ちゃん、こちらちゃん――。


 

 映像ではもこもこが便利な草の紹介をしていた。

 

「可愛いな」


 マスターは真剣な表情で頷いている。


 便利な草を握る肉球に苦しむスポンサー。

 ジャラ――。

 長机に魔石と金貨を置く音が響く。


 買ってもこもこと遊ぶ気か――。

 マスターが鋭い視線を送る。



『それネコが遊ぶやつじゃね? その草便利に使ってる奴見たことないんだけど』 



 クマちゃんニュースに流れる悪の組織の暴言。

 戦闘開始の合図か。


 彼の愛するもこもこを侮辱する言葉に、驚くスポンサー。

 会議室に降るつらら。


「クライヴ、気持ちは分かるが落ち着け」


 片手で尖った氷を掴んだマスターが、正義と悪の過激な戦闘シーンを見ながら「氷はクソガキにぶつけろ」つららで映像を指した。


 結界に護られた冒険者達が「ルークさん……」無表情で無口だがさりげなく優しい魔王へ、熱い視線を送っている。



『ここで振ればいいの?』



 正義のもこもこを撫でまわし物理的に丸め込んだ悪の組織。

 マスターが眉をしかめ「まさか、あのクソガキ……」普段からああやって誤魔化しているのか――日夜繰り返される撫でまわしに気付く。


 渋い声の彼が、もこ撫での悪行を見張る方法について考えていたときだった。

 もこもこが地面に転がり、ふんふんふんふんと愛らしく遊び始めた。


 マスターがふ、と優しく笑い、


「ん? 可愛いが……そこはもやがあるとこじゃねーか?」


すぐに表情を変えた。

 

 死神は凶器のような愛らしさに斃れ、冒険者達は「まさか……死ん……」と言った。


 ウィルはルークへ視線をやり「ねぇリーダー、あれは危険ではないの?」クマちゃんニュースにさきがけて最新の情報を仕入れている。


「心配だけど……可愛い」

「わかる……遊び方がすごく子猫ちゃんっぽい……」

「肉球やばい……肉球やばい……」 


 冒険者達を混乱させる、可愛すぎるもこもこリポーター。



『……クマちゃ……』


『いやあの草関係ないでしょ』


 

 無事だったふんふん。

 会議室の面々が胸をなでおろす。 


「草の色が変わったな……」


 マスターが心配そうな表情のまま、もこもこと、ピンク色の肉球が握る草を見ている。

 彼らが見守るなか、リポーターが――草ちゃん、解決ちゃん――と愛らしい声で不思議なことを伝えてきた。


「癒しのアイテムか……?」


 マスターは片方の眉を顰め、顎髭をさわった。


 そのとき、突然クマちゃんニュースの映像が切り替わる。

 大きく映し出される現地人、リオの顔。

 

『へー』


 大きく響いた『へー』

 


 湖畔の美しい別荘では、――数分ほど前から――森の街の超有名人となった金髪が驚愕していた。


「ちょっとクマちゃん何いまの!」


 とんでもないものを見たリオは目を剝いて叫んだ。

 腕のなかのもこもこが、愛らしい声で「クマちゃ……」と答えた。


『へー……』


◇ 


「……何だ。今のは」


 マスターは全森の街を代表し、正直な感想を述べた。


 心にもやを抱えたまま、彼らは静かにクマちゃんニュースを観続けていた。

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