第203話 特ダネ! もやもや発見なクマちゃんニュースを観る彼ら。

 リオは子猫のように愛らしいが時々人の話を聞かないもこもこから、


「イヤイヤイヤマジでその杖いま振っちゃ駄目なやつだからクマちゃんほらお手々はなして」


ようやく杖を奪うことに成功した。

 が、間に合ってはいなかった。

 

 魔道具の映像は、最初よりも大分大きい。

 映っているリオも、最初よりも大分大きい。

 ――なんてことだ。


 妙に真面目な格好でヘルメットを被ったクマちゃんを抱え、ぼーっとした顔で『悪の組織』を連呼する、色々駄目な感じの金髪が全森の街に晒されてしまった。


『悪の組織』に杖を強奪されてしまったもこもこは子猫がミィミィ不満を訴えるように「クマちゃ~ん、クマちゃ~ん」と鳴き、彼の体をよじ登ろうとしている。


『クマちゃんの~、クマちゃんの~』と奪われた杖を取り返すつもりらしい。


「クマちゃんこれもう大きくしなくていいから一緒にお昼寝しよ」


 リオは赤ちゃんクマちゃんを寝かしつける姑息な作戦に出た。

 我が子を抱えたまま、もこもこ製高級籠ソファにボフ、と倒れる。


 しかし、彼がクマちゃんニュースから逃れることはできない。


「クマちゃ……」


 リオの顔に乗りたがるクマちゃん。


「えぇ……」


 仕方なくお願いを聞くリオ。

 親切なもこもこが「クマちゃ……」と言った。


『リオちゃ……』


 リオちゃん、起きないとクマちゃんニュースが観れませんよ……、と。


「…………」


 聞こえないふりをしようとするリオ。


「クマちゃ……」


 聞こえないなら……、と親切な赤ちゃんクマちゃん。


 もこもこはそっと、肉球で彼の目をパカと開いた。


「――きもちわる! クマちゃんそれやっちゃ駄目って言ったでしょ!」


 リオは閉じた目を無理やり開かれる感覚を、パカ――となった瞼のように明瞭に表現した。



 赤ちゃんクマちゃんの寝かしつけに失敗したリオと寝なかったクマちゃんが、数十秒前と変わらぬ姿勢でお行儀よく、クマちゃんニュースを視聴していた頃。



『いや悪の組織しょぼすぎでしょ』 


 暴言を吐く、映像の現地人。



「……暴れ足りないとでも言うつもりか?」

  

 マスターが眉間に皺を寄せる。

 幹部リオは組織を拡大したいらしい。

 ――世界中の雑草を狙っているのか。

 そんなに暇なら書類仕事を手伝え。


 

 リポーターを抱えた現地人が、悪党らしく文句を言いながら謎の除草剤へ近付く。

 

『なにこれ』


 かすれ声は映像越しでもかすれている。



「ん? ホコリか?」


 マスターが目を細めた。

 小さい何かは綿ボコリのように見える。



『――クマちゃ、クマちゃ――』――除草剤ちゃん、もやちゃん――。


 子猫のような声が不思議なことを言う。


『あー、めっちゃもやも……マジでもやもやしてんだけど!』


 悪の現地人はまるで心のもやもやを吐き出すように熱くシャウトした。



「おい……、あれはあの〝もや〟じゃねぇか?」


 マスターは便箋百万枚の取り立てと、高貴な黒ずくめに誘拐された昨日のことを思い出した。

 彼はもこもこした生き物に悩まされている人間のように、目元を隠し、こめかみを揉む。



『何その言い方。今それどころじゃないでしょ』



 クマちゃんニュースでは正義と悪が戦っているようだ。

 正義のもこもこリポーターが雑草狂いのリオを『クマちゃ』したのだろう。


 雑草狂いに同意するのは癪だが、確かに今は余計なことを考えている場合ではない。


「うーん。マスターの言う通り、あのもやは学園の裏で見たものと同じに見えるのだけれど」


 マスターに同意したウィルが映像をじっと見つめ「……街に結界を張った方がいいのかな」独り言のように呟いた。

 もやも気になるが、『クマちゃ……』と頷くもこもこが可愛すぎる。


「それには魔道具が必要だ」


 クマちゃんニュースに夢中なクライヴは、映像から視線を逸らさず答えた。

 リポーターのもこもこしたお口が斜めに開いている。

 最高の瞬間を見逃すわけにはいかない。


 吞気で大雑把な人間ばかりが住む森の街に『いつか大きな問題が起こった時に備えておこう』などと言う奇特な人間はいない。

 当然、街全体を護るための魔道具もない。

 敵が来たら来た時にボコボコにするだけだ。

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