第194話 撮影中の一人と一匹とお兄さん。
怪しいもこもこだ、と思いつつも決定的な証拠がないため『クマちゃん、駄目!』と叱ることができない。
リオは黄色いヘルメットを被った子猫のようなもこもこを見つめながら、
「――クマちゃ、クマちゃ――」
『――ここに、あるちゃん、普通の樹、ちゃん――』という愛らしい声のどうでもいい話を聞いていた。
彼はもこもこが何故、ただの樹の説明をしているのか考えず「へー、めっちゃ普通の樹ー」とそれを一瞬見ただけで、悪い大人の見本のような相槌を打っている。
――因みに、お兄さんの前に浮かんでいる魔道具の赤いランプは点灯している。金髪の生き様も絶賛撮影中らしい。
「――クマちゃ、クマちゃ――」
クマちゃんがマイクと呼ぶ魔道具を通した、子猫のような愛らしい声が聞こえる。
『――現地ちゃん、お話ちゃん――』
ここで現地の人からお話を聞いてみたいと思います、という意味のようだ。
「え、現地の人いなくね?」
ぼーっとしていたリオがリポータークマちゃんに聞き返す。
不眠症の現地人はもこもこの魔道具で魂ごと浄化され酒場へ連れていかれた。ここには居ない。
きっとまだぐっすりお休み中だろう。
かすれ声の金髪の話を聞かないもこもこが、「――クマちゃ、クマちゃ――」と彼のほうへ魔道具を向ける。
『――最近、どうちゃん――』と。
「なに『どうちゃん』て。つーか現地の人俺じゃないでしょ」
森の街の住人という括りならリオも現地の人だ。そういう意味なのか。
もしや――誰でもいいのか。さすが赤ちゃんクマちゃんだ。
リオは赤ちゃんなもこもこを見るような優しい目で、もこもこリポーターを見た。
獲物からニャーと離れない猫のように『クマちゃ』としつこいリポーターは、金髪の現地人に狙いを定めたらしい。
しつこいリポーターのしつこい質問は続く。
「――クマちゃ、クマちゃ――」
『――現地人ちゃん、悪の組織ちゃん――』
現地の人は悪の組織についてどう思われますか? という意味のようだ。
「何その質問。クマちゃんまさか悪の組織作ろうとか考えてないよね?」
新米ママは悪い子のような質問をする我が子に『メッ!』と叱るような視線を向けた。
小さな子供というのはいたずらなどの悪事に興味を持つが、まさか赤ちゃんなクマちゃんまで――、と彼は余計な心配をする。
金髪の現地人の『クマちゃん――さ――悪の組織作ろう――ね?』を聞いてしまったリポーターは、お顔を真っ白にしてもこもこもこもこと震え、「――クマちゃ……――」と魔道具ごしに情けないクマ声を出した。
『――つくらね……――』と。
いいえ、クマちゃんは作りません……、という意味のようだ。
震えるもこもこは口を開いたまま金髪の現地人を見ている。
「……言い方おかしくね? 作らないならいいけど……。クマちゃん寒い? おくるみ入る?」
我が子が悪い子のような言葉を使ったことが気になる新米ママだったが、それよりも震えていることの方が気になった。
彼の言葉を聞き、何故か先程よりも激しく震えるもこもこリポーター。
『作らないなら――クマちゃん――入る?』もこもこしたお耳に残ってしまったかすれ声。
現地人の恐ろしい勧誘に負けず、プロ根性を発揮したリポーターは、震えたまま「――クマちゃ……――」と言葉を続けた。
『――はいらね……――』と。
リポーターと金髪の現地人はいくつかのやり取りをしたあと、数歩の距離を移動した。
もこもこしたリポーターが「――クマちゃ、クマちゃ――」とピンク色の肉球でどこかを指す。
『――あちらちゃん、凄いちゃん――』と。
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